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女子小学生モデルから小さな会社員への中学進学相談生活

 週末。

 本日は潮田さんと約束した日です。時間は前回と半刻ほど早い時間帯で来たつもりなのですが・・・。

(すでにもういますね。)

 私が好きなアイスの店に入り、ジュースを飲んでスタンバっています。誰を待っているかは、私が一番分かっています。

(入りますか。)

 私は、潮田さんだと思われる人に近づき、

「おはようございます。」

 私は朝の挨拶をする。

「!?あ、お、おはよう。」

 一瞬、私の朝の挨拶に驚いたご様子でしたが、私からの挨拶だと分かるとすぐに安心し、挨拶を返してくれました。これで挨拶を返してくれない、とかだったら悲しいですからね。

「はい。」

 私は潮田さんの向かいの席に座る。

「さて、」

 せっかくこの店に入ったのです。アイスの一つも頼まないなんて失礼でしょうし、ここはひとつ、私が今食べたいアイスを・・・、

「さ、移動しましょうか?」

「・・・です、ね、はい。」

 そうでした。今回、潮田さんと話をするためにわざわざ来たのでしたね。潮田さんも先日の様子から深刻そうでしたし。ここで私の我が儘を通すわけにはいかない、ですよね。

(アイス、食べたかったなぁ。)

 そんな願望は・・・帰り、果たすとしますか。

 さて、今は潮田さんのことを最優先に考えましょう!


 潮田さんは電車を乗る・・・ことはなく、周辺の大型商業施設に入っていった。もちろん、私は潮田さんの後に続く。

「「・・・。」」

 無言で。

 ま、いいですし、事情もある程度理解できます。おそらく、声を聞いたファンが、「あれ、潮田詩織じゃね?」とか言われないようにするためなのでしょう。もちろん、姿も目立たないよう、細心の注意を払って。私の勘違いもあるかもしれませんが、さすがは有名人。こういうところではデメリットが大きいです。日常での買い物はどのようにしているのでしょう?ネット、でしょうか?

 私がそんなことを考えながら潮田さんの後に続いて歩いていると、とある店の中に入っていった。確かこの店は・・・。

「いらっしゃいま・・、」

「子供二人でフリータイム。後ドリンクバーもお願い。」

「えっと・・・お部屋はどれに致しますか?」

「これ。」

「かしこまりました。」

 その後、簡単な手続きを済ませた店員は、

「ではごゆっくりどうぞ。」

 私達にコップを渡してくれ、頭を下げた。潮田さん、せめて店員さんの挨拶くらい、最後まで聞いてもよかったのではないでしょうか。それと、お部屋を選ぶとき、ほとんど見ずに指を差していたように見えたのですが、ランダムに部屋を選んで大丈夫なのでしょうか。潮田さんが今最も入りたい部屋に入れたのであればいいのですが。

「突然、こんな部屋に来てもらって悪いわね。」

「いえ、別に。それより、このような場で話をしても大丈夫なのですか?」

 このお店は確かカラオケ、という類の店です。

 室内に入り、部屋に入って歌を歌っても近所迷惑で怒られることもない防音完備の場所だったと記憶しています。それに、カラオケをする機材もいくつかあり、それも確か選べるんでしたっけ。部屋も少人数で使える部屋から大人数で利用できる大部屋まであったと思います。確かに、このような防音仕様の部屋なら誰かに話を聴かれる心配はないと思いますが、ここは本来、歌を歌う場所ではないでしょうか?いえ、変に部屋を汚さなければ、このような利用の仕方も許容されているのでしょう。

「ええ。ここなら人に話を聴かれることもないし、時間が余れば歌えるしね。」

 と、潮田さんはマイクを指差す。もしかして潮田さん、歌うつもりなのでしょうか。いえ、別に歌っても構わないのですが、歌える心境なのでしょうか。先日の電話の様子から、とても呑気に歌える心境ではないと思うのですが。

「それで、肝心のお話とは何なのでしょうか?」

 私は本日の要件について切りだす。

「・・・私の進路についてよ。」

「進路、ですか?」

 進路。それを考えることは将来設計する、ということです。進路を決め、その進路に進むために今何をすべきか考え、必要な学びを得ていくと私は考えます。ですが、まだ小学生の潮田さんが今決めなくてはならない事なのでしょうか?たまに工藤先輩の昔話を聞きますが、その時に出た話と言えば、やれどこで遊んだとか、やれあんなものを食べたとか、そんな娯楽関連の話ばっかりだったと記憶しています。もちろん、工藤先輩が子供の時と現代の就職状況は大きく異なっているので確実性はありませんが、少なくとも小学生の時に将来を見据えて勉強している、なんて話を聴いた覚えはありません。

 え?私ですか?私は将来を見据えてというより、今を生き抜くために必要な事だったので・・・。て、今は私のことはどうでもいいのです。

 今の優先事項は潮田さんです。

「そう。私の進路のことよ。きいてくれる?」

 私は静かに頷き、

「ええ、もちろん聴かせていただきます。」

 私は穏やかに答える。

 さて、潮田さんはどんな進路のお話をするおつもりなのでしょうか。


「それで進路、というのは?」

「ええ。私、今年の4月からお互い、中学校に進学するじゃない?」

「…そうですね。」

 言われてみれば確かにそうですね。今まで意識したことがありませんでした。そういえば後数カ月で小学生を卒業するんですよね。

「だから私は公立の中学に進学しようと、そういう気持ちでいたの、少し前までは。」

「?どういうこと、ですか?」

 別に潮田さんがどこの中学に行こうと私は文句を言うつもりはありません。ですが、その言い方ですと、なんだか別の中学に行きたい、そんな風に感じ取れてしまいます。私が言葉を読み過ぎているのかもしれませんが。

「ちょっと調べてみたら、私立中学の方が良かったんじゃないかって思うようになってきたの。」

「なるほど。」

 そういえば、菊地先輩と工藤先輩は公立高校に通っていた、という話を聞いたような聞いていないような・・・。あ、今は高校ではなく中学でした。

「でも、もう公立に行くって親に話しちゃったし、でも私立もよさそうだし・・・。」

「・・・。」

 潮田さんが黙ったので、私もそのまま静かに待つ。潮田さんが次の言葉を放つその時まで。

「私、どうしたらいいかなぁ?」

「・・・。」

 どうしたらいいか、なんて聞かれても正直困ります。

 人がどの学校に通うかはその人の自由ですし、学校を選ぶ基準も人それぞれのはずです。私は、潮田さんがどのような観点から学校を選んだのか知りませんし、理由も判明しておりません。

(今の話だけでは答えるわけにはいきませんね。)

 ちょっと情報が不足しています。もっと潮田さんから詳しい事情を聴いてみたいところです。

「それで、何故公立より私立の方が良いと判断されたのですか?」

 私は聴きたいことを潮田さんに聞いてみる。これで理解の出来る返答が帰ってくればいいのですが。

「私立って、公立より勉強の質がいいじゃない?それに、セキュリティ面もいいし。」

「なるほど。」

 確かに、潮田さんみたいにモデルをやっている有名人であれば、そういった考えを踏まえた学校選びも必要になってくるかもしれませんね。それでは私立に通えばいいと思うのですが、何を迷っているのでしょうか?

「でも、私立の方がお金かかるし、通学にもお金かかるし、モデルの仕事で学校にも行けない日が出てくるし・・・、」

「なるほど、なるほど。」

 主に金銭面で家に、家族に負担をかけてしまうことを危惧されているのでしょう。潮田さんの親が言っていたのならともかく、潮田さん本人がそこまで金銭面を気にしなくてもいい気がします。それだけ現実的、という考えとも受け取れますけど。

「でも、もう公立に決めちゃったし。どうすれば、どうしたら良かったのかなぁ?」

 と、潮田さんは深いため息をつく。

 ・・・。

 私は近くにあるマイクを手に取り、

「少し考えたいので、その間に気分転換でもしておきませんか?」

 私はマイクを渡し、この部屋本来の使い方を促す。

「私、今はそんな気分じゃないの。」

 ですよね。あんな真剣に悩み、答えを今か今かと待っているご様子ですし。

「ですが、私にも答えを考える時間も必要です。それに、いつまでも深刻に悩み続けると気まで滅入ってしまうかもしれません。なので、そうならないための気分転換です。」

「・・・分かったわ。それじゃあ一曲だけ。」

 と言い、潮田さんはマイクを受け取り、何やら近くにあった機械をいじりはじめた。あの機械、一体何をするための機械なのでしょうか。ま、それはどうでもいいです。

(さて、どう答えるべきでしょうか?)

 今はあの機械の存在理由より潮田さんの件です。潮田さんのさきほどの質問にどう答えればよろしいのでしょうか?聴いたところによると、潮田さんは中学に進学する際、公立にするか私立にするか悩んでいるみたいです。

 私立にする際、勉強の質やセキュリティ面は公立より上らしいですが、金銭面では圧倒的に私立の方がかかるみたいです。私がもし、潮田さんみたいに公立か私立、どちらの中学に通うとしたら…、

(考える必要もなく公立ですね。)

 菊池先輩達に金銭面で更なる負担をかけたくないので公立、ですかね。潮田さんも金銭面を気にしていましたね。となると、私立にしなくて正解ですよ、という風に答えた方がよろしいのでしょうか?

(あ、歌い始めました。)

 私が悩んでいると、潮田さんは先ほどいじっていた機械を置き、カラオケを持って歌い始めました。あれってもしかして、曲を選ぶ機械なのでしょうか。なるほど。それで潮田さんは歌う曲を選んでいたのですね。

(随分、落ち着いた曲ですね。)

 潮田さんが今歌っている歌は、静かに流れる川を思わせてくれるような歌を歌っていました。なんだか落ち着きます。

(あれ?そういえば・・・?)

 私はさきほど言っていた潮田さんのある言葉を思い出す。それは、

“もう公立に決めちゃったし。”

 この言葉である。この言葉から察するに、公立にしようか私立にしようかと迷っていても、既に公立に決めている、ということになります。つまり、潮田さんがどんなに悩もうと、潮田さんは公立に行くことが確定していることになります。となると、おかしいです。では潮田さんは今、何を悩んでいるのでしょう?どんなに悩んでもいても、結局は公立に行くことが決まっているのですから、悩むだけ無駄なのではないでしょうか。

 いえ。ここは考えを変えましょう。

 では何故、潮田さんは公立の中学に行くことが決定しているのに、ここまで深刻に悩んでいるのでしょうか?公立に行くことを後悔しているのでしょうか?それとも、私立の中学に未練が残っているのでしょうか?それらの考えで、私が潮田さんに伝えるべき言葉は一体・・・?

(そうか。)

 潮田さんはこの悩みによって、精神的に不安定なはず。であれば、その潮田さんの心を安定させればいいのですね、多分。となると、

(潮田さんに歌を歌わせたことはあながち間違いでもなさそうです。)

 歌を聞き、歌う姿勢を見ている限りですと、歌う前に比べ、かなり顔つきが穏やかに変化してきている気がします。後、潮田さんの心を安定させるためには・・・。潮田さんの決断、公立の中学に行くことが間違いではないことをしっかり言葉として伝えること、ですかね。そうすれば、潮田さんも納得してもらえるはずです。

さて、潮田さんに納得してもらうためにはどのような言葉をかけるべきでしょうかね。確か潮田さんには色彩検定3級の資格をお持ちでしたね。となれば、

(あそこからいきますか。)

 私は話す内容を大体考え終えると、

「ふぅ。確かにいい気分転換になるわね。」

「お疲れ様です、潮田さん。」

 潮田さんが歌い終わったらしい。私は潮田さんに対し、労いの言葉を忘れずにかける。

「で、答えを聴かせてもらえる?」

 潮田さんはさきほど私に質問した内容を覚えているらしい。つい数分前のことですから、当然といえば当然ですよね。

「はい、もちろんです。」

 私はこれまで考えていた意見を、考えを述べ始める。

「先に結論を申しますと、潮田さんは間違った判断をしていない、と思います。」

 ま、かといって潮田さんの判断が正しいかどうかは分からないんですけどね。そのことは言わないでおきましょう。

「・・・続けて。」

 潮田さんは何も言わず、私の話を促してくれた。その心遣い、ありがとうございます。

「はい。潮田さんのその考えは、とても親の事を考えてのご決断でした。その心があれば、公立だろうと私立だろうと、どこへでも対応できることでしょう。」

 これで多分、潮田さんの考えを肯定できたと思います。きちんと肯定は出来ていないと思いますが、きっぱりと否定していないので、大丈夫でしょう。ですが、さきほど気にしていた勉強の面があります。それもフォローで言っておきませんとね。

「ですが先ほど、潮田さんは勉強面を心配成されていましたよね?」

 私一人だけで話し続けるのもどうかと思うので、私は潮田さんに質問をしてみる。

「え、ええ。」

 私が突然潮田さんに質問した成果、潮田さんは戸惑いながら私の質問に答えてくれた。ちょっと強引だったでしょうか?今度からはもっと優しく質問をするとしましょうか。

「ですが、それについてはもう心配しなくていいはずです。何せ潮田さんには、自ら課題を見つけ、その課題に対して勉強する、という能力が既に身についているのですから。その上実績もついています。」

「え?どういう、こと?」

 私は、潮田さんが困惑している中、穏やかに且つ落ち着いて言葉を繋げる。

「資格ですよ。」

「資格って、何?」

「え?」

 資格って潮田さんが取得した色彩検定の事を言っているのですが、気付かないのでしょうか。いえ、そういう考えに至っていないだけな気がします。

「潮田さん自身が取得した色彩検定3級のことですよ。」

「え?・・・あ。」

 ようやく思い出したみたいです。本当にただ頭から抜けていたようです。

「潮田さんは自ら色彩検定の事を知り、色彩検定取得を目指して学び、そして、色彩検定3級に合格し、取得に成功した。この事は潮田さんにとって大きな進歩だと思います。」

「・・・。」

 潮田さんは相変わらず無言のまま私の話を聞いてくれている。まだ話は終わっていないので続けましょう。

「確かに、学校で学ぶことも必要です。ですが、学校で学ぶことだけが全てではありませんし、むしろ不足しています。それこそ、自ら何かを学ぼうとする姿勢が必要だと、私は思うのです。」

 なんか、先ほどから私の考えも含まれている気がします。自分の考えを潮田さんに押し付けないよう注意しましょう。

「潮田さんが今何を目標にしているのかは分かりませんが、私としては、このままモデル関連の仕事に就いても、色彩検定を活かせる職業に就くよう、自ら進んで学ぶことが必須だと思います。その学びは、公立だろうと私立だろうと、詳しくは教えてもらえないと思います。」

 この辺は正直自信がありません。私も中学に行ったことが無いですからね。もしかしたら職業関連の事を専門的に学ばせてくれる中学もあるかもしれませんが、そんな中学は極少数な気がします。あくまで私の考えなので、そこを考慮してくれると嬉しいです。

「だから、潮田さんが公立に行こうと私立に行こうと、自身が今後、何について学びたいかを明確にし、自ら進んで学ぼうとする姿勢。それされ忘れなければどの学校でも大丈夫だと思いますよ?」

 なんだか学校を批判しているような言葉に取られる気がしてなりません。私自身、学校にそこまで良い思い出がないので仕方がないと思いますが、このことは潮田さんには関係ないので、フォローしておきましょう。

「だからといって、学校が不要なわけではありません。例えば・・・、」

 何も思いつかず、言葉をのばしてしまいました。私では学校の良さを伝えるのは無理なようです。

「例えば?」

「・・・とにかく、潮田さんは今のままで大丈夫です。」

 少し考えた結果、ゴリ押しで話を持っていくことにした。このことに潮田さんは違和感を覚えたのか、私のことをさきほどより目を細くして見ているようですが、仕方がないのです。私では学校の良さを見つけることが出来なかったのですから。潮田さんならきっと、学校の良さを把握しているでしょうから伝えなくてもいいはずです。

「それに、今のまま勉強していけば、潮田さんは将来、色彩検定で培ってきた知識を活かすため、インテリアデザイナーやウェブデザイナーに就くのもいいですし、モデル経験を活かしてアイドルやテレビ出演。モデルをやっていたなら衣服に詳しく、且つ色彩検定で培ってきた知識を組み合わせれば、潮田さんだけの衣服をコーディネート出来るかもしれません。そういうファッションコーディネーターの仕事に就くのであれば、今の潮田さんの経験を活かせるはずです。」

 ちょっと仕事の話をしてしまいましたが、将来の事を考えている潮田さんならこれくらいは把握しているでしょう。

「え?ええ??」

 ん?なんだか仕事の話をした途端、潮田さんの目がおかしくなったような気がします。もしかして知らなかったとか?そんなことあり得ません。だって今の潮田さんは未来を見据えて中学からどうしようか考えているはずです。であれば、将来自分が就く仕事も考えているはずです。

「どうしましたか?自分が調べていたことと違っていましたか?」

 自分が調べていたことと他人が言っている事が異なっていることはよくあります。なのでここは潮田さんに意見を聞き、意見のすり合わせをしないといけなさそうです。

「え、えっと・・・、」

「大丈夫です。それで、潮田さんはどのように考えているのですか?」

「・・・。」

 あれ?何か、潮田さんの様子が変ですね。私が喋り過ぎたからでしょうか?私が答えるからと言って言葉を出し過ぎたのかもしれません。ここは潮田さんの意見を聞くまでは大人しく待つことにしましょう。

「・・・。」

「・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・?」

 あれ?潮田さん、もしかして固まっている?それとも、死んでいる、とか!?いえ、呼吸はしているみたいですし、そんなことはないはず。では何故黙り続けているのでしょう?

「・・・・・・・・・何にも、考えてない。」

「え?」

 どういう事でしょう?

「私はただ、中学どうするか考えただけで、将来の事なんて何も考えていないわよ?」

「・・・そ、そう、でしたか。それは、自分のいき過ぎた勘違いのようですみません。」

 私はどうやら、無駄に考え過ぎたみたいです。そうなると、潮田さんの将来を勝手に決めつける様な意見ばかり述べてしまいました。申し訳ないです。

「先ほどから自分の意見を押し付ける様な発言ばかりで申し訳ありません。」

 私は自分の落ち度を認め、きちんと潮田さんに謝罪する。

「い、いや!別にそんな謝らなくていいわよ!それよりさっきの話よ!」

「さっきの話?」

 一体どの話でしょう?

「いんてりあこーでぃねーたー?うぇぶざいなー?とかって何!?」

「何、と言われましても・・・。」

 色々説明しなくてはならないと思うのですが、それら全てを省略し、簡単に一言でまとめるなら、

「色を考慮するお仕事、ですかね。」

 間違ってはいないと思います。ただ、今はそういう認識程度で大丈夫なはずです。大人になってもこの程度の認識であればさすがに問題なのですが。

「色を考慮するお仕事?」

「ええ。インテリアやウェブについての知識はもちろんのこと、色も考慮する必要があります。そして、今の潮田さんにはその色のことを、他の小学生より知っています。何故なら、」

「色彩検定の3級を持っている、から?」

「ええ。ですから潮田さんには向いていると思います。」

 もちろん、もっと知識を身に付け、実用レベルまで持っていかないといけないのですが、そこまで潮田さんに言わなくてもいいでしょう。今の潮田さんなら言わなくてもさらなる向上を目指し、自ら勉強を始めそうですしね。

「そう、なんだ。ねぇ?」

「はい、何でしょう?」

「さっきの仕事の事、全部私のことを思って答えてくれたの?」

「まぁ、そうですね。」

 結局、見当違いな回答でしたが。

「それじゃあ、他にどんなお仕事があるのか聞かせてよ。」

「他のお仕事、ですか?そうですねぇ・・・。」

 私は周囲を見渡し、

「例えばアパレル販売、服をコーディネートして売る仕事がありますよ。潮田さんが今着ている服とか。」

「へぇー。」

「それに、なにげなく置かれているこの椅子も、この部屋に合った色合いになっています。こんな風に様々な仕事が成り立って今の潮田さんがいて、この部屋が成り立っているのです。」

 さすがにオーバーに言い過ぎたかもしれません。訂正する気はないですけど。

「このように、身近にも色々な仕事がありますよ。」

 そう私が話すと、

「へぇー。」

 さきほどと同じ言葉だったものの、顔には明らかな変化が訪れていた。

「私、モデルの仕事しかろくに知らなかったけど、色々な仕事があるのね。」

「そうですね。」

「・・・なんだか、大人になるのが楽しみになって来たわ。」

 潮田さんはそう言い、歌い終わってから座り続けていた自身を立ちあがらせる。

「私、大人になったら色々な仕事をしてみたいわ。そして、」

「そして?」

「今までお世話になったお父さんに恩返ししたい。どう?」

「・・・素敵だと思いますよ。」

 お世話になった方に恩返すること。そういう心が大切なんだと思います。

「本当?後で怒ったり笑ったりしない?」

「?何故先ほどの潮田さんの発言を怒ったり笑ったりすると思うのですか?」

 質問を質問で返してしまいましたが、しょうがないと思います。さきほどの素晴らしい心がけを怒る?笑う?何故?その気持ちに至る経緯が不明です。

「・・・本心で言っているみたいね。よかった。」

「?」

「今日は話を聞いてくれてありがとう。色々仕事の話を聞けたわ。テレビ関連以外にも色々な仕事があったのね。それに、中学の事はもう吹っ切れたわ。」

 そう言いながら、マイクを手に取る。すると曲が流れ始める。もしかしなくても、潮田さんが2曲目を入れたみたいですね。

「これから色彩検定1級に受かって、ファッションコーディネーターになるのもいいわね。ひとまずはそれを目指してみるわ!でも今は、」

 そう言い、潮田さんは一周まわった後、

「モデルの仕事に集中しつつ、資格取得に向けて勉強に励むとするわ!」

 そして潮田さんは歌い始める。

(どうやら潮田さん、今回の要件は無事に解決したみたいでよかったです。)

 私の答え方が一部間違っていたし、正しいことを言えた自信もあまりないですが、潮田さんが元気になったみたいでよかったです。

「ほら、あなたも歌ってみる?」

 私は潮田さんからマイクを渡されそうになりますが、私は拒否する。

「私、歌える歌がありませんので、潮田さんの歌を聴いているだけで十分です。」

 そう私が答えると、少し驚いた顔をした後、「分かったわ。」と、そのまま元気に歌い始めた。

(潮田さん、今後も頑張ってください。)

 おそらく、仕事をする楽しみを知っているから、さきほどのような発言が出来たのでしょう。仕事をすることでお金がもらえ、自身の能力の向上を図れる。もちろん辛いことも多々ありますが、それら含めて今後どんな形にしろ、必ず自分の人生で宝となります。私も仕事で得た能力を使い、会社に貢献しています。どのくらいできているかは分かりませんが、私が仕事をすることで恩人の方々に少しでも恩を返すことが出来るなら、私は喜んで仕事をします。潮田さんの場合、今最も恩を感じている親に恩を返すみたいです。私でいう所の・・・菊池先輩と工藤先輩、というところですかね。

(ところで、やはり普通の人は歌の一曲や二曲、知っているものでしょうか?)

 私はまったく知りませんが、潮田さんは今も普通に何かの歌を歌っています。何の歌かは分かりかねますが。

 その後、歌い疲れたのか、再び潮田さんは座り、少し休憩してから、私と潮田さんはお互い、自宅に戻りました。戻る際、「今日は話を聞いてくれてありがとう。これからはモデルの仕事をしつつ、ファッションの事や色彩検定に向けて勉強していくわ。」という目標を伝えられた。ま、目標を持って生活することは悪くない事ですからね。

 そして、帰り際、

「あ。そういえば私、あるドラマに出演することになったんだ。最近テレビのCMで流れているんだけど、知っている?」

 と聞かれたのですが、私、ドラマの事はよく分からないので知らないと答えると、

「・・・私も出演しているから、その時は是非見てね。」

 まぁ、もし時間に余裕が出来たら見ておきましょう。

「それと、近いうちにまた一緒にお仕事する予定だから、忘れないようにね?あ、詳しい日にちは後で伝えるわね。」

 と、そんな一言を残して帰っていきました。

「・・・。」

 え?私、また潮田さんのモデルのお仕事をしなければならないのですか?つまり、また女装しなければならないと?そういえば、潮田さんは未だに私の事を女性と誤認しているのでしょうか?最後に潮田さんはとんでもない事を言ってくれましたね。

「・・・帰りますか。」

 帰って資格の勉強でもしますか。久々に色彩検定で得た知識の復習でもしますか。私は家に帰宅した後、近くの棚から一冊の本を取り出す。私はその本を読み、内容を反復していると、

「そういえば、あれはまだありますかね。」

 私はあるものを探し始める。

「あった。」

 それは、色彩検定1級を取得し者、早乙女優の証明書であった。

次回予告

『小学生達の味噌汁代替生活』

 水曜日。早乙女優は登校し、クラブに参加する。今回、クラブで作ってほしい料理は、味噌汁に変わる料理であった。早乙女優はその言葉を受け、ある料理を提案する。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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