小さな会社員の新年食事生活
「ん、ん~・・・。」
同日である1月2日。ここにも、この社員寮にも起きようと声を出し始める子供がいる。
「ん~・・・ん!?」
その子供は、今も抱きかかえられている女性によって、息をするのが困難になっている。
(息が、出来、ない!?)
その子供は、どうしてこんなに息苦しいのか、周囲を探り、原因を探し始める。
(・・・あ。菊池先輩が私を抱いているからこんなに苦しいのか。)
その子供、早乙女優は、息苦しい理由を突き止め、自由に可動可能な腕を使って女性、菊池美奈に自身が起きている旨を肉体的に伝える。
「ん~・・・。優君からしてくれるなんて、えへへ♪」
どうやら菊池は夢の中で優に何かされているらしい。優が菊池に肉体的衝撃を加える度に、菊地は笑顔をはっきりとさせる。
(まだ、起きないのか・・・。)
優はだんだん息苦しくなってきたので、
(ふん!)
優は菊池の体を引っぺがし、強制的に菊池から離れる。
「ふげ!?」
急な動きに対応しきれず、菊地は壁に体をぶつける。
「ふぅ。」
優はようやくまともに呼吸できることが嬉しいのか、さきほどより顔色が少し良くなっている。
「あれ?ここは・・・?」
菊池は体にぶつけた衝撃で目が覚め、周囲を見渡す。
「あ、やっと気が付いたようですね、先輩。」
優は菊池の起床に合わせて声をかける。
「おはよう、優君♪今日も一日・・・一日?」
ここで菊池はあることに気付く。
「今日、何日?」
それは、本日の日付である。
「今日ですか?少しお待ちください。」
優も把握していないらしく、自身の携帯を見て、
「今日は1月2日です。ついでに言うと、今は朝の9時です。」
日にちだけでなく、時間もオマケで菊池に伝える。すると菊池の顔が段々と青くなる。
「し、しまったわ!?」
菊池は優の言葉に心底ガッカリし、新年になって初の激しい落ち込みをする。その様子に優はただ事ではないと判断し、声をかける。
「ど、どうしました!?何かありましたか!?」
「・・・優君の新年の初寝顔、取り損ねたの。」
菊池の言葉に、
「・・・は?」
自分は一体、何に心配していたのだろうと馬鹿馬鹿しくなり始める。
「そして、新年初の優君の着物姿も、元日の内に写真に残しておこうと思っていたのに!」
菊池はそう言いながら心底がっかりする。優にとってどうでもいいことでガッカリしている菊池を見て、先ほどまで心配していた気持ちはマイナス方向に働く。
「そうですか。」
菊池の後悔に興味を無くした優は、そのまま菊池の元から離れる。
「そうよ。まだ優君の今年の初笑顔や、初怒り顔、初泣き顔も写真に収めたいわね。後は・・・。」
菊池が続々、元旦の内にやりたかった事を口に出し始めた時には、優は既に菊池の前から姿を見えなくし、優達にとって少し遅い朝食の準備を始める。
「そういえば、昨日は食べられませんでしたが、おせち食べます?」
優は朝食の提案を菊池に行う。
「あ、食べる食べるー♪優君の手作りおせち、食べない理由なんかないわよ♪」
さきほどまでの悩みは一体何だったのか。そう考えさせられてしまう程の身代わり速度であった。
「それでは朝食の用意を・・・、」
ここで、さきほど見た携帯に見知った番号が映し出される。
「?こんな時間に何でしょう?まさか、仕事?」
そんな不安を僅かに秘めつつ、優は電話に出て、応対し始める。
(ち。せっかく優君とイチャイチャおせちタイムを始めようと思ったのに!こんな時間に電話かけてくるなんてどこのどいつよ!?)
菊池は、優に電話をかけてきた人物に、多大な恨みを込め、電話越しに優の通話相手を睨む。
「もしもし?・・・あ、はい、今家にいますが。・・・え?・・・ですが・・・?・・・分かりました。それではこれから合流ということで。」
「!?」
優は電話を切る。
「ちょっと優君!?今の電話、どういうこと!?」
「?聞いていたのであれば、おそらくそのままの解釈で合っていると思いますよ?」
「だって優君!そのままの解釈ってことは、今からこの家に、見知らぬ人が、私と優君のイチャイチャタイムを妨害するのよ!?一大事じゃない!?」
「?最後の方はよく分かりませんが、少なくとも見知らぬ人、ではないはずですよ?」
「え?それじゃあ誰なの?」
「それは・・・、」
優は言おうとしたが、途中で言う予定だった言葉を捨て、顔に少しいたずらな色を混ぜる。
「内緒です♪」
そう言いながら優はおせち料理をタッパーに詰め込み、バッグに入れていく。
「ちょっと優君、そんなにおせち料理を持ってどこに行くの?」
菊池が聞くと、
「先ほど電話をくださった方と合流するためです。菊池先輩も来ます?」
「もちろん行くわ!…でも、誰と電話していたかくらい、教えてくれてもいいじゃない?」
「すぐに分かるのでいいじゃないですかね。」
そう言いながら、菊地は簡単にメイクをし、外出できるよう準備を施す。
「それでは菊池先輩、行きますよ?」
「もう、しょうがないわね♪」
そう言いながら、菊地は、優が持つ予定のバッグをさりげなく持ち、ついでに優の手を握る。
「!?」
優は最初、自身の手の温度変化に戸惑い、菊地の意志を拒もうとしたが、
(今日くらいは、いいですかね。)
優は拒みかけた心を受け入れ、
「では、行きましょうか?」
菊池に声をかける。
「ええ!て、どこに?」
少し歩き、着いた場所はというと、
「ここって社員寮の共同リビングじゃない。」
菊池の言う通り、優の目的地は社員寮内。それも、共同リビングである。そして、
「げ!?」
菊池はある人物の顔を見るなり、誰が見ても分かるくらい驚き、
「なんで新年早々、あんたの顔見なくちゃいけないのよ。」
誰が見ても分かるくらい落ち込む。
「・・・おい。いくらなんでもそこまで落ち込む必要はないんじゃなぇか?俺、泣くぞ?」
とその人、工藤直紀は困った声質で話しかける。
「工藤先輩、新年あけましておめでとうございます。」
大人二人が話し合っている中、子供一人が工藤に新年の挨拶を行う。
「おう、あけおめ。」
優の挨拶に対し、工藤は簡素な返事をする。
「それじゃあこの3人で、おせちでも食べていきますか。」
優は持ってきたバックから先ほど詰め込んだタッパーを取り出していく。
「私も手伝うわ♪」
菊池は喜んで優のお手伝いを始める。
「それであんたは何を持ってきたの?まさか、優君に食べさせてもらうつもり?」
と、菊地は工藤を憎たらしく言葉を投げかける。
「おう。俺はな・・・じゃん!」
工藤は自身で持ってきた袋からある容器を取り出し、二人に見せる。
「「・・・。」」
二人は何も言わなかった。何せ、その容器は某便利店でよく見かけるお弁当の容器そのものだったのだから。
「ふっふっふ。まだこれだけではないぞ?」
そう言うなり今度は、調理済みのチキン、サラダと、様々なおかずを袋から取り出していく。
「何せ正月だからな。朝から豪華にいこうじゃないか!」
最後には酒缶を取り出し、周囲に酒の匂いを漂わせる。
「・・・では私と菊池先輩からはこれです。」
優は先ほど持ってきたタッパー達の中身を工藤に見せる。
「うおぉー!?正月はやっぱりおせちだよな!食べ応えありそうだ。あ、もちろん、俺が持ってきた物も自由に食べていいからな?」
そう言い、工藤は手をつけていない容器達をテーブルの中央に寄せ、食事を促す。
「それでは、食べましょうか?」
「ああ。」
「ええ。優君との今年初めての食事、いただきます♪」
菊池は優に愛の視線を送りながら食事の挨拶をする。
「「い、いただきます・・・。」」
優と工藤は菊池の行動に戸惑い呆れつつ、菊地と同様に食事の挨拶を始める。
「それにしても、優のおせちって相変わらず美味いよな。これ全部手作りなのか?」
「大体は手作りです。もちろん、商店街のみな様が高品質の食材を提供してくれたからこそのこの美味しさですけど。」
「もうー!優君ったら、人を立てるのがお上手なのね♪」
「だな。俺の持ってきたご飯なんか霞んでいるな。」
「そんなことないです。こういったご飯も美味しいですよ?」
「そうよ。あんたの買ってきた飯なんかじゃ、優君のおせち料理にとても敵いはしないのよ!」
「菊池先輩、そんなことありませんよ。工藤先輩が持ってきたご飯、とても美味しいですよ?」
「「それはない。」」
お弁当を持ってきた本人も否定する。
「え?」
まさかの二人の意見に、優は驚く。
そして優、菊池、工藤は会話を切らすことなく続け、食事を続けていく。
「あ!工藤先輩、それって2本目じゃありませんか!?」
「いーじゃねーかよ正月くらい。」
「・・・そうですね。」
「だよな。」
「はい♪優君にはこれよ。」
「これって・・・!?」
「そう。お正月限定アイス。おせち風味よ。栗きんとん、黒豆、昆布巻き、色々な味のバリエーションがあるの。どれから食べる?」
「それはもう片っ端からいただくに決まっているじゃないですか!?」
「・・・食わせすぎて腹を壊す、なんてことにはさせるなよ?」
「既に缶4本空にしている人なんかに言われたくないわよ。というか、いつの間にそんなに飲んだのよ。」
その3人の光景はまるで、本物の家族の様である。
次回予告
『会社員達の新年初出社生活』
年末年始の休みは終わり、登校する学生や出勤する社会人達が出始めた頃、早乙女優達も会社に今年初めて出社する。そして、去年の年末の仕事に関しての話が行われた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




