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目つきが鋭すぎる会社員と新入女性社員の年始遭遇生活

 元日が終わり、1月2日。元旦が終わり、多くの人が某駅伝を見に、ある地域へと足を向かわせたり、自身の出身大学や縁のある大学を応援したりと、それぞれがそれぞれのやり方で駅伝に対する応援を始めている頃、

「「「「「・・・。」」」」」

 年末、仕事漬けであった会社員達がようやく起き出し、元旦には起きられなかったものの、ようやく年始の休みを謳歌しようと、それぞれの年始休暇を謳歌し始める。


「・・・ふぁ~~~。」

 長い欠伸をし、体を長く見せようと伸ばしている女性、桐谷杏奈は自身の体を目覚めさせるため、体をしっかりと伸ばし、少しでも日光を体に取り込もうとする。

「ふぁて、ふぉきるか。」

 まだ呂律が完全に回っていないなか、桐谷杏奈はこの貴重な休みを充分に謳歌するため、台所へ向かい、簡単な料理を作り始める。

「あ、出来た。」

 食パンの焼ける音と、目玉焼きの音が重なり合い、お腹が好きそうな音楽の時間が終わる。桐谷はそれらと見栄えのよいサラダ、野菜ジュースを用意し、

「いただきます。」

 誰もいない、一人で食卓を囲んで食事を始める。

 否、

「・・・。」

 桐谷杏奈とテレビ、一人と一台で食卓を囲み、食事を始める。桐谷にとって、食事をする前には必ずテレビを点ける。そういう習慣があるかのように、毎食毎のテレビ点灯は欠かせないものである。

「・・・。」

 そして、当たり前のように携帯画面を見る。

 携帯画面を見ながらテレビの音を聞き、食事を美味しくいただく。寝起きの朝から実に器用な身体である。

「あ、昨日限定のダンジョン、行きそびれた~。」

 桐谷は昨日一日中寝ていたことで、元日限定のイベントを行っていなかったことに気付く。それはソシャゲ内の話である。

「昨日ログインだけでもしていればよかった~。」

 と、桐谷はガッカリしながら、

「でも、今日は一日中晴れなんだよね。嬉しいはずなのに、私への当てつけみたいでちょっと複雑。」

 新年早々晴れやかで、これからのみんなの門出を祝うかのような青天なのだが、今ちょっと落ち込んでいる桐谷にとって嫌味にしか感じられなかった。

「ま、もう出来ないことは出来ないし、諦めて気分変えよう。」

 心にしこりを残しつつ、簡単に食器を片付ける。

「さて、本当なら元旦当日に行きたかったけど、行けなかったものはしょうがないし、今から行こうかな?」

 桐谷はある場所へ出かけようと、出かける準備を始める。

「さて、これも持っていこうっと♪」

 当然のように、ある本を手持ちのカバンに入れる。その他に必要最低限の物だけを入れ、所持金の有無を確認し、

「・・・うん。お金もまだ降ろさなくて大丈夫みたいだし、このまま行こうかな♪」

 桐谷は少し、浮足立った気分で家を出る。別に、今お金を持っているから浮足立っているというわけではない。これから向かう先に胸躍らせ、浮足立ってしまっているのであった。

「~♪」

 先ほどまではソシャゲで落ち込んでいたのに、変わり身の早さに忍者も驚きを隠せないであろう。

「あそこ、空いているといいな♪」

 鍵を閉める音が、いつも以上にカラリと乾いた音であった。


 桐谷が向かった先は、電車を乗り継いで着いた、会社と自宅の往復よりかかる時間をかけてまで来たかった場所。それは、

「・・・うん。やっぱりこの季節にここは行かないとね♪」

 とある神社であった。桐谷はこの神社を楽しみにし、自宅から遠くにあるこの神社を楽しみにしていたのだ。だが、この神社は単なる神社ではない。それは、周囲のようすが物語っていた。何せ、神社にはとあるパネルが置いてあるのだ。それも、見るからにアニメ関連の、である。それもそのはず。

 今、桐谷杏奈が着いた神社は、ラノベ、ラノベアルカディアの舞台となった。ラノベアルカディア好きなら聖地と呼ぶに相応しいだろう。そんな地に、桐谷杏奈は足を踏み入れる。

「さて、」

 ここで桐谷は、先ほどもらったパンフレットを拝見する。

「やっぱりここは恋絡みに力を入れているわね。」

 桐谷はそう納得する。実はこの神社、ラノベアルカディアのとあるシーンで使われたのである。それは、ラノベアルカディアの主人公、唯我隆斗がヒロイン、青木明日香に告白した場である。それから、この神社で告白し、様々な恋を実らせた多くの報告がネット中に飛び回っている。そしてその報告の中に、何ペアか芸能人もこの波に乗って告白し、無事婚約までこぎつけたのだとか。

 そんなことで、この神社は恋愛関連の願いをするならここ、という特集まで組んでいる記事も発売されている。

「恋、かぁ~。」

 桐谷はまだ見ぬ結婚相手に思いを募らせる。そして、その結婚相手はいつしか、ぼんやりながら、大体のイメージが湧いていた。

「!?て、ないない!そんなことはない!」

 と、惚けた顔を戻す。

「あの先輩とはただの!ただの先輩後輩なんだから!」

 そう言って、桐谷は神社の奥へと進む。

 そして、少し進んだ先に、

「・・・え!?ええ!!??」

 桐谷は、ここで会える、なんて思いもしなかった人物を眼中に入れる。

「・・・ん?あれ?」

 その人物は深く帽子を被り、マスクで顔を覆っていた。その様子は、自身のコンプレックスを隠すような装いである。

「もしかして桐谷、か?」

 その声は、桐谷がよく耳にしている声。

 そして、社内でよく聞いている声でもあった。

「その声。やっぱり橘先輩だったんですね。」

 桐谷は見るからに怪しい風貌をしている人物、橘寛人に近づいていく。

「お、おう。」

 橘は余所余所しく手をあげ、桐谷をぎこちなく歓迎する。

「橘先輩、新年あけましておめでとうございます。」

 桐谷は改めて礼儀を欠くことなく橘に挨拶を行う。

「こ、こちらこそ、新年あけましておめでとう。」

 桐谷に応じるように、橘も新年の挨拶を行う。

「それにしても橘先輩がここに来るなんて思いもしませんでした。」

「ああ。俺もさっきまで来る気は無かったんだ。」

「え?それじゃあどうしてこちらに来たんですか?」

「ああ。まずは・・・。」

 こうして橘は、ここに来るまでの経緯を話し始める。


 時は遡り、1月2日の朝。とある集合住宅において。

「・・・ん?」

 ある男は自然に、ではなく、

「・・・何だよ。」

 枕元に置いてあった形態のバイブ振動で目が覚める。一度や二度なら二度寝を決め籠りだった橘であったが、寝ぼけている橘が数えて初めて既に二桁を超える数振動している。何回も振動機能を切るために寝ぼけ眼を開けなくてはならないという苦行に、橘は苛々し始める。

「…というか、切ればいいのか。」

 と、携帯の電源を切ろうとしたのだが、間違って通話ボタンを押してしまい、電話が繋がってしまう。

「あ、寛人!?昨日は何度も電話かけたのに、なんで出ないんだよー!」

「・・・何?」

 寛人は苛立つ気持ちを荒げることなく、だが静かに苛立ちの気持ちを言葉に乗せる。

「何って冷たいなー。せっかく近くまで来たから連絡したって言うのにー。」

 どうやら橘の電話委相手は、橘の気持ちを苛つかせる名人なのかもしれない。橘は寝起きなのに、苛立ちで意識を覚醒させる。

「それで、用件は何?ないなら切るぞ?」

 橘は通話機能をオフにしようと、耳から携帯を遠ざける。

「あー!待った、待った!実は寛人にお願いがあるんだわ!」

 携帯から耳を話しているにも関わらず、通話委相手の声は橘の耳にしっかりと届く。その声に橘は嫌々ながらも通話を再開する。

「それで、何?」

「実はさ、買い物を頼まれてくれないかな~って。頼みたいものは・・・、」

 プツ。

 橘は最後まで聞くことなく通話機能をオフにする。そして、携帯を遠くに投げようと構えたところで再び携帯が振動し始める。その振動の拍子に、携帯が橘の手から重力の方向に行き、それがどういう因果か、通話機能をオンにされてしまう。運命のいたずらとはこのことなのだろう。

「おい~?何で急に携帯切るんだよ~。ひどいじゃんか~。」

 またも橘の機嫌を損ねる声が響き始める。

「・・・悪いな。お前の声が聞きたくなくてつい。」

「ひどっ!?お前、それは新年早々ひどいぞ~?あ、あけおめ~♪」

 と、テンションをコロコロと変える。その通話の相手はひとしきり感情を変え終えた後、

「あ、そうそう。買ってきて欲しいものはね~、」

 自分のお願い事を話し始める。

「寛人、ラノベアルカディアってラノベ、知っているか?」

 この通話の相手が発した単語に思い当たりがあり、橘の体は一瞬硬直する。が、すぐに体の硬直を解き、返答を行う。

「まあな。今でもたまにテレビで放送されているし、人並みくらいにはな。」

 橘は平然と嘘をつく。橘はラノベアルカディアを全巻3冊ずつ買い、きちんと保存しているくらい大事にし、何度も読み返すくらい、ラノベアルカディアを復読している。

「ならよかった。それでさ、例の神社って言えば伝わるか?」

「例の神社?…ああ、あそこか。」

「そうそう。そこにある期間限定のお守りを買ってきて欲しいんだよ。」

「嫌だ。」

 橘は通話委相手のお願いを即答で断る。何せ、

「え~?いいじゃ~ん。買って来てよ~。」

「嫌だ。だってそのお守りって確か、恋愛成就のお守りだったはずだろ?」

 そう。この通話相手のお願いするお守りとは、恋愛成就のお守りである。そして、今の橘に最も縁遠いものでもあった。橘自身もそう自覚し、そういった類のものがある、ということだけ把握している。

「でも~。俺の家より寛人の家の方が近いと思うし~。」

「知らねぇよ。というか、何で俺の部屋の住所、知っているんだ?」

「え?本当に近いの?」

「あてずっぽうで言ったのかよ・・・。」

 橘は通話相手のペースに狂わされ、先日まで睡魔に支配されていたとは思えないほど感情が揺れ動く、カロリーを消費していく。

「それでさ~。頼むよ、寛人~。ちゃんと代金は後で払うからさ~。」

「それは当然だ。」

「もちろん、手間賃も払うからさ~。」

(イラ!)

 橘は通話相手の話し方にたびたび苛つくも、話が早く終わればいいのにと、七夕ばりに願う。

「それと、交通費込みだからな。」

「もちもちのろんのすけだぜ!」

「・・・は?」

「なんか、餅食いたくなってきた。」

「どうでもいいけど。」

 橘は通話相手の理解不能な造語に呆れ、話を聞く気がゼロに近くなっていく。

「それじゃあよろ~。」

「あ、おい!」

 そう言い、通話相手は自身の通話モードを切る。ちなみにこの時まで、橘はこの通話相手のお願いを了承していない。一生了承する気などなかったが、

「これで買わなかったらな~。」

 橘は寝起きにも関わらず散々悩み、

「飯を食ってから散歩がてら、行ってくるか。」

 行くことに決めた。それには、行かなかったら今後、目覚めが悪くなるだろうという妥協。そして、

(もしかしたらこんな俺にも、なんてな。)

 自身に訪れるかもしれない恋を期待しての考えであった。

「さて、とりあえず行く用意でもする・・・、」

 ここで、橘の空きっ腹が悲鳴をあげる。橘は電話を終えるこの時まで、今年は何も食べていなかったのだ。

「新年早々嫌な奴から電話がかかってきたものだ。」

 と、橘は先ほどかかってきた通話相手、渋沢(しぶさわ)(とおる)にため息を尽くす。

 渋沢徹。

 本来、橘寛人とは縁も所縁もなかった人物。その最大の理由として、二人は正反対の性格をしているからである。そして、ある出来事をきっかけに、渋沢徹から話しかけてきたのだが、それはまた別の話で。

「さて、」

 橘は簡単に冷蔵庫内部を観察する。

「そういえば、年末に色々買う予定だったんだ・・・。」

 橘は、年末の内に色々食材を買い揃え、それらを食って年末年始を過ごす予定だったのである。その予定は年末の急な仕事によりオールキャンセル。なので橘の冷蔵庫内は、今の正月の青空の如く、真っ青な冷蔵庫色なのである。

「コンビニで買って、そのまま食って行くか。」

 何もないので今のところ栄養補給出来ないまま着替え、

「行くか。」

 顔を洗い、簡単に身支度を整え、

「おっと。これは必須か。」

 サングラスとマスクを着用する。

(これで目も誤魔化せるし、人相も・・・大丈夫、かね?)

 コンプレックスは隠せたが、怪しい風貌となってしまった。これで交番の前をウロウロ職務質問されること間違いなしだろう。

「ま、いいか。」

 橘は近くにあった帽子を深くかぶり、顔をさらに覆いつくす。

「少し見づらいが、歩きスマホよりマシか。」

 そう言い、橘は携帯をズボンのポケットにしまう。

「最低限の物はあったし、行くか。」

 そして橘は今もているお腹を時々抑えつつ、扉を開け、家から出る。


「まさか、新年早々、こんなジャンクフードを食うことになるとは。」

 あれから橘はコンビニに若干早足で向かい、手首のスナップを効かせ、飼いたいものを素早く手中に収めてレジに並ぶ。新年で休日だからか、いつも以上に混んでおり、橘はさきほどではないものの、少しずつ苛立ってしまう。これも空腹のせいなのだろう。だからお腹を満たせばこの苛々から解放される。そう理解しているものの、自分より先に並んでいた人達にも苛ついてしまう。

(あ~あ。何でこいつ、そんなに多く買っているんだよ。これじゃあ会計の時間が長くなっちまうだろうが。)

 そう苛々しているが、橘本人も結構買っている上、

「このポテトとフランクフルト、それぞれひとつずつください。」

 と、早口でオーダーする。橘本人も言えないのでは?なんてことは言わないでおこう。言葉に出さなければセーフなのだ。橘の早口注文に店員は一瞬戸惑ったものの、すぐにホットスナックを取り出し、それまで出していた商品含めて会計を済ませる。

「ありがとーございましたー。」

 橘は店員の言葉を最後まで聞くことなく会計の場を後にする。そして出た瞬間、

「新年最初の飯、いただきます。」

 愚痴るように言い、フランクフルトにかぶりつく。

「うま♪」

 さきほど憎たらしく言っていたかのように思えたが、思っていた以上に美味しかったようだ。空腹が最大の調味料なのは事実なのかもしれない。橘はその後、駅に乗るまでの道のりでフランクフルト、ポテト、おにぎりを食らいつくす。

(あ。野菜とってねぇわ。)

 生活習慣病になる原因の一つ、野菜不摂生に気が付く。

(ま、正月だし、明日から食べればいいか。)

 だが橘は正月だからと楽観視し、

「~♪」

 いつもより上気分で駅に向かい、電車に乗る。

 電車から降り、目的の駅に着いた橘はそのまま目的地に向かう。

「は~。」

 その時、冬とは言えカラリと晴れているため、空気が乾いている。なので、空気を吸ういこむと、口から寒気を吸入し、水分を奪取されていく。その奪われた水分を補うかのように、さきほど寄ったコンビニで買ったペットボトル飲料を摂取する。

「さて、あそこまでもう少しだし、昼飯は・・・後にするか。」

 フランクルと、ポテト、おにぎりを食らいつくした1時間後に昼飯なんて食う気にはなれない。そう判断した橘はご飯関連の考えを捨て、ここまで来た目的について考え始める。

「まずはあそこにあれがあるかどうかだな。だが、こんな時間にあるかね。」

 橘は自前の時計を見る。自前の時計は間もなくお昼を示そうと動いている。朝の9時、遅くとも10時から販売開始していたと仮定しても、既に2時間近く経過している。その上、目の前の神社は聖地で、参拝目的であろう人々が数多く見え始めていた。なので、売り切れているだろうと推測している。

「でもま、行くだけ行くか。」

 若干、諦めてはいるものの、それでも橘は向かい始める。

 さらに歩き、橘は神社の奥へと入っていく。その奥には、神社ならではのお店が色々あり、正月もあってか、賑わいを遠めからでも確認できる。

「さて、お目当てのお店は・・・、」

 と、周囲をキョロキョロし始めたところで、

(・・・あれ?)

 橘にとって見知った顔が見えた、気がした。だが刹那だったので気のせい、だと判断し、

(あいつのため、というのは癪だが、あの列に並ぶとするか)

 橘はお目当ての店の前に出来ている行列に並び、商品が買える時を待つ。

 お昼が適度に過ぎた頃、ようやく橘にも買える場面が訪れる。

(えっと・・・。)

 橘は目的のブツを探し、目を精一杯動かす。

(あった。)

 橘はお目当てのお守りを見つける。

 そのお守りは赤とピンクで彩色されていて、大きく恋愛成就、と書かれている。そしてその背後にはある二人の人物が描かれており、その二人の人物に右下に、ラノベのタイトル、ラノベアルカディアが小さく刺繍されている。

(これ、本当に効くのか?)

 頼まれたので仕方が無く買うが、これに効果があるのだろうかと疑問に思ってしまう。

(俺にはどうでもいいか。)

 と、橘は小さく息を吐き、

「これをひと、二つ下さい。」

 何の意地なのか、どんな心境の変化なのか、

(ま、1つでも2つでも変わらないか。)

 自分に言い訳をしつつ、橘は自身の分を買おうとした。橘が2つお守りを手にし、隣の人がお守りを1つ買った後、そのお守りが売り切れた。

(店頭に3つしか並んでなかったが、あれで全部だったのか。)

 橘はさきほどの店頭の様子を思い出す。さきほどの店頭には、橘が目当てのお守りは3つしかなかったのである。それらを全部買おうと一瞬考えたが、後ろに並んでいる人達がもしかしたらこのお守りを買うかもしれないと思い、お守りを1つ残して2つ買ったのだ。

「さて、これでおつかいミッション完了、か。」

 と、クエスト完了の音楽を脳内で流しながら一人言葉をこぼす。

「後は・・・。」

 最初は帰ろうとした。だが、ここまで来て、電車に乗ってここまで来ておいて、ただお守りを買うだけ、なんてちょっともったいないと考え始めた橘は、神社の更なる奥を見つめ始める。その見つめる先には、多くの人が向かい、性別の異なる二人組が多く見受けられる。おそらく、参拝目的なのだろう。それも、今後の運命を共に出来る様な願いを。

(あんなところに一人で行くのもな。)

 本来、神社で参拝する際、男女で行かなくてはならない、なんてルールは存在しない。存在しないのだが、そういう暗黙の掟が出来ているのかと疑ってしまうくらい、男女二人組の割合が非常に高いのだ。若い男女の二人組、中年の二人組、初老の二人組。中には子供の男女二人組等、幅広い年層の男女二人組がいた。

(まさかここにいる男女二人組全員、ラノベアルカディアのことを知って・・・?)

 ラノベアルカディア好きな橘としては嬉しく思った。

(そういえば先日、参拝したい神社ベストテンに選ばれたんだっけか?そういう番組がやっていたんだよな。)

 すぐに番組の影響だと悟った橘は勝手に落ち込む。

(せっかくラノベアルカディアについて語れる、なんて思ったのに・・・。)

 橘も、普段目つきが怖すぎて恐れられる人物も、時には人と話をしたいのである。それで楽しみたいし、笑いたいのである。似たような場は社会人になってから手に入れたのだが、それとは別の場を欲しくなってしまうのだ。

(ま、俺と話してくれる人なんて早々いないけどな。)

 橘は自身の目つきのコンプレックスを把握しているし、自覚もしている。だからこそ、気兼ねなく話せる機会が欲しいと、今まで考え、欲した。その結果が今の生活なのだ。そして、更なるものを欲してしまう。その欲するものとは、趣味関連で気軽に話せる人。言うなら、趣味仲間、という括りに出来るだろう。

(・・・。)

 橘はふと、二人の男女がある携帯ゲームをやっている姿を目撃する。その携帯ゲームは橘本人もやっており、度胸があったなら、その今二人組が苦戦しているステージの攻略法を教えたいところである。だが、そんな度胸は無い。なにせ、話しかけたら不審者として通報されること間違いないからである。だから橘は、ああいう趣味仲間を、多くの時間欲した。

(・・・俺にはもう、必要ないかもな。)

 だが、代わりに職場は最高であった。今までの生活の場がひどかったからかもしれないが、それはもう最高であった。

 目つきで泣かれない事、引かれない事はもちろんの事、仕事が上手く成功したら褒めてもらえ、自身の努力を正当に評価してくれる。何より、普通の対応をしてくれる。そんな環境が、今まで待ち望んでいたものが20年近く経て、ようやく手にすることが出来たのだ。満足ではないのかもしれないが、今までの生活環境より格段に良くなったのだ。

(これ以上求めるのは我が儘、か。)

 そう一人で考え、納得し、諦めがついたところで、参拝に向かう人達とは真逆の方向へと歩き出す。

 だが、橘にはこれ以上の幸せが待ち望んでいた。

「・・・え!?ええ!!??」

 突然、何かの声が聞こえる。普段なら気にもしないただの音なのだが、今回は違った。

「・・・え?」

 橘には、その声にとても、とても聞き覚えがあったのだ。その声が聞こえた方角を向くと、

「・・・あ。」

 その声の主は、自身と同じ職場にいながら趣味が同じで、たまに趣味関連の話を交わす人材。

「え、えっと・・・。お仕事、お疲れ様です?」

(今は俺達、仕事していないんだけど。)

 桐谷杏奈であった。

「お疲れ様。」

 橘は突っ込むことなく挨拶をかわす。

「それより、どうして橘先輩がここに!?」

 その女性、桐谷杏奈は橘寛人に急接近する。

「ああ。実はな・・・。」

 橘はこれまでの事を簡単に話していった。

「なるほど。では私と一緒にお参りしません?」

 そして、桐谷から橘へお誘いの言葉が告げられた。

次回予告

『目つきが鋭すぎる会社員と新入女性社員の参拝生活』

 桐谷杏奈と橘寛人は神社で遭遇し、桐谷杏奈から橘寛人へ、一緒に参拝しないかというお誘いをする。そのお誘いを橘寛人はのり、共に参拝することになった。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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