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ある姉の進路相談生活

 小学生達が正月に遊んでいる中、

「・・・お父さん、お母さん。今、ちょっといい?」

「何だ?」

「何?」

「将来のことで話したいことがあるの。聞いてくれる。」

「…ああ。」

「ええ。もちろんよ。」

 風間洋子の姉、風間美和は将来について、親に話を始めた時であった。

「私、将来はここに入りたいと思っているの。」

 風間美和が差し出したのは、一枚の紙。その一枚の紙には、ある学校の名が記されていた。

「「・・・。」」

 風間父と風間母はその紙を凝視し、風間美和の今までの成績を思い出し、どのような言葉をかけるべきか考え、考え、考える。

 そして、考えた末の言葉は、

「・・・美和には、美和に相応しい職業があるんじゃないか?」

 遠回しの否定であった。

 それもそのはず。

 今まで風間美和の成績は中の上。そして、今までの志望校は周辺の公立だった。

 だが、今差し出された紙に記されている学校は、倍率が高く、難関と言われている学校であった。そして、その学校の最大の売りは、

「美和。お前は弁護士になりたいのか?」

 多くの警察官、検察官、そして、裁判官を輩出している事であった。それくらいその分野に秀でている学校を、風間美和は志望しているのである。

「だけど、あなたの今の成績じゃあ・・・、」

 風間母が言い始めたところで風間美和は立ち上がり、別の紙を取り出す。その出し方はまるで、

“黙って見て。”

 と、言わんばかりの態度であった。二人は風間美和の態度に違和感を覚えつつ、出された紙を受け取る。

「「!!??」」

 次に受け取った紙は、つい最近行われた模試の結果と、志望校に受かる確率であった。いつもの成績であれば、3割にも満たなかったのだが、ある時を境にうなぎ上りに成績が上がり、今では8割となっていたのだ。親の心境として、驚かない方が無理なものである。

「ど、どうしたの、これ?」

 風間母が驚きのあまり、声を裏返して聞く。

「この前の模試の結果。それで、頑張った結果が今見ている通りよ。」

「え?え??え???」

 風間父は驚きのあまり、語彙力を失ってしまった。

「私、最近まで将来の事はほとんど何も考えていなかったの。」

 神田美和はこれから来るかもしれない質問に備え、何故ここまで成績が上がったのか、その理由を先に話し始める。

「だけど今年の夏休みから怖い目に遭い始めて、最終的には家から出たくなかったわ。そのせいで授業にも自主勉にも満足に出来なくて、何事にもビクビクして生きていたの。」

「「・・・。」」

 風間父と風間母は黙って娘の話を聞く。

「そんな時、小さい体で大きな大人達に慣れた感じで話している子を見かけて、つい話しかけたの。」

「その子が去年の・・・?」

「うん。その子は私の話を嘘と思わず、真剣に聞いてくれて、周囲に気を遣ってくれて、私のために、懸命に動いてくれた。そして、私の悩みを根本的に解決してくれた。」

 神田美和は一呼吸はさみ、再び話し始める。

「あの後、私はその仕事について調べてみたの。そしたら、ああいう仕事は弁護士、という職業の人が行っているってかいてあった。だから私もあの子みたいに、ああいう非日常に巻き込まれた誰かの気持ちに寄り添っていきたいの。」

 風間美和は、あの時話を真剣に聞いてくれた小さな人物を思い出しながら話す。本来なら、あの事件で最も心の傷を受けた人物が思い出すのは自傷行為に匹敵することかもしれない。だが、その事件がきっかけで、風間美和に将来の目標、夢が出来たのだ。

「だから私は、弁護士になりたいの!」

 そう真剣に言う風間美和に、

「「・・・。」」

 二人は再び考え、考え、考える。

 考えた結果、

「で、でも。他には仕事はあるんだぞ?人の気持ちに寄りそりたいのであれば、心理カウンセラーとか・・・、」

 風間父はまたも遠回しの否定をしようとする。だがそれを、

「あなた。」

 風間母が途中で制止させ、辞めさせる。

「・・・本当にそれでいいの?」

 風間母が改めて、自身の娘の眼を見ながら問いかける。

「いいの!私、あの子みたいに人を助けたいの!」

 風間母は、

(この子、意固地になっていないかしら?)

 自身の娘をきちんと判断するため、自身も冷静になり、再び質問する。

「あの子、弁護士バッジをつけていなかったわよ?だからあの子は弁護士じゃない。それでも、あの子みたいな弁護士を目指すつもりなの?」

「・・・そんなの、調べた当初から知っているよ。私、最初に言ったじゃない。調べたって。」

 風間美和は立ち、自室に戻る。

「「・・・。」」

 二人は、

“拗ねちゃったか?”

 と、考えていたが、すぐに風見美和は戻ってきた。そしてその手には何冊もの本、そして、六法全書があった。神田美和はその本達をテーブルの上に置く。

「よいしょっと。」

 かなりの重量だったのか、テーブルに置いた際、テーブルから少し音が聞こえる。

「こ、これ?どうしたの?」

 風間母は六法全書の厚さに驚くが、その分厚い本を、自身の娘が持っていた事にも驚いた。

「弁護士になるにはまず、法律のことを勉強しなくちゃと思って、前々から使っていなかったお年玉貯金を引っ張り出して買ったの。ちょっとお茶をこぼしちゃってふやけている箇所もあるんだけどね。」

 と、お茶目な笑みを浮かべる。

「こ、この本は?何か一杯法律の事が書いてあるんだが?」

 風間父は、何冊もあるノートの1冊をパラパラとめくり、そのノートに書かれている内容について質問する。

「うん。覚えられない法律とか、自分で複雑だと感じた法律だとかを書き写して、暗唱できるようになるまで読んだり書いたりしているの。そのノートはそのためのノートよ。」

「ぜ、全部か?」

 ちなみに、今風間父の手には、片手では数え切れないほどの冊数のノートを手に持っている。

「ええ。私は普段の勉強と並行して法律の事も勉強していたの。」

「「へ、並行・・・。」」

 もう二人は、何も言えなかった。

 自身の娘にはもっと安全な、人に恨みを買ってしまうような職業に就いてほしくない。そう密かに思っていた。

 だが、駄目だった。何せ、自分の愛すべき娘がここまで努力し、その過程を見せ、結果としてだしているのだ。否定出来るわけがなかった。否定出来る箇所があるとすれば、

「だ、駄目だ!お前をそんな危ない仕事に就かせるなんて…!」

 それは、恨みを持たれ、復讐されることであった。復讐され、もし自身の娘の身に何かあったからならば・・・。そうなってからでは遅いと直感的に判断した風間父はその一点にしぼり、風間美和の志望校を拒否し、夢を否定する。

「あなた。」

 その一方で、風間母は落ち着きを取り戻し、我が夫の暴走を片手で抑える。

「だが・・・。」

 それでも自身の娘の事を大切に思い、未だ反論しようとする。

「大切な娘がここまで自ら努力してきたものを否定するの?」

 と、風間母は、風間美和の努力の結晶の一部を風間父に見せる。

「・・・。」

 風間父は何も言えず、ただただ我が娘の努力を見続ける。

「確かに他の職業より、身の危険性があると思うわ。でも、」

 言い終える前に風間美和の方へ振り向き、

「それでも、美和はやりたい、のよね?」

 風間母は最終確認を取る。

「うん。」

 その肯定は、真剣を態度で示したようであった。その態度に、返事に、

「・・・分かった。」

 さすがの風間父も、娘が大事な父も、認めざるを得なかった。

「お父さん・・・!」

 さすがに抱きつきはしなかったものの、両手を掴み、

「ありがとう!」

 と、自身の死亡している職業を認めてくれた感謝を伝える。さしずめ、選挙の時の挨拶にも見えなくはないが、気のせいだろう。

「費用のことは心配するな。資金ぐらい、こっちでなんとかするから。」

「え?いいの?大学費用は奨学金、生活費はバイトで何とかしようとしていたんだけど。そのための計画も一応作成して・・・、」

 と、風間美和はまたも紙を取り出し、両親に見せる。その紙には、簡易的とはいえ、今後の学生生活のバイトの時間と、勉強の時間を図式化したものであった。その円形グラフは2種類に分かれていて、平日と休日とで異なるサイクルの生活風景が見受けられる。

(こんなところまで考えていたとは・・・。)

(この子、ここまで真剣に考えていたなんて・・・。)

 しかも、グラフを見るに、遊ぶ時間がほとんど見られなかった。

 学生のほんぶんは学業である。だから、学業を疎かにしてはならない。だからといって一切遊んではならない、なんてことはない。友人との付き合いも一種の社会勉強なのだから。その社会勉強の不足に、

「こんなことを考えるくらいなら、もっと別の事に有効活用しなさい。」

「そうよ。この計画も、そもそも志望校に受からなくちゃ話にならないんだから。」

 その受け答えに、風間美和は萎れるどころか、海水を得た海水魚のようになる。

「な、何?」

「ど、どうしたんだ、美和?」

 風間美和の反応に風間父と母は戸惑いを露わにする。

「だって、さっきまでは私の将来を否定していたのに、今では私のことをそこまで考えてくれるなんて、嬉しくて、嬉しくて・・・。」

 と、風間美和は隠しきれずにうれし涙を流す。

「・・・そうか。」

「・・・美和、あなたはあなた自身の夢を追いなさい。私達はいつだって、美和を応援しているからね。」

 二人は風間美和の涙に影響され、涙腺が壊れ始める。

「うん。ありがとう、お父さん、お母さん。」

 こうして3人は、将来の事について語り、話し、笑顔を見せあう。

「ただいまー。」

 そんな時、風間洋子が風間宅に帰宅する。

「あ、おかえり、洋子。」

「・・・?何かあったの?」

 風間父や風間美和とは違って察しの良い風間洋子は何かを感じ取ったらしく、自身の母親になにかあったか質問する。

「ええ。とってもいいことがあったわ♪今日これから桜井さん宅にお邪魔して、一緒に宴会しようと思ってね。」

 風間母はそう言い切る前に、風間父はどこかへ電話をかけ始める。

「へ~。別にいいけど、こんな時期に行って邪魔にならない?」

 と、風間洋子は親しき仲にも礼儀あり、という諺を思い出しながら問いかける。

「いいのよ。だって、美和の進路が決まったんだもの。みんなでお祝いしたいじゃない!」

「おい!桜井さん宅はオッケーだって。いつでも歓迎だって言ってるぞ。」

「ありがと。それじゃあ夕飯の用意を済ませて、あちらのお宅にお邪魔させてもらうとしましょうか?」

「はいよ。俺はせっかくだし、ちょっと高めの酒でも持っていくか。美和、洋子。泊まりになるかもしれないから、お泊りセットを一応持っていけよ。」

「「は~い。」」

 親二人の奔放さに巻き込まれつつも、その奔放さが嬉しく、

(やった♪また綾に会える♪)

 一人は、密かに親友と会えることを楽しみにし、

(なんだか祝われるのって恥ずかしいな・・・。)

 一人は、自身がお言わされることに照れくささを感じる。

「それじゃあ行くぞ。」

「「うん。」」

 風間美和と風間洋子は風間父の後を追いかける。風間父の手には、少し高めのお酒が入った袋を手にぶら下げている。

「ふふ♪今夜は一晩中話そうかしら?」

「それもいいかもな。さっき桜井宅にも電話したし。」

 四人は足を軽くし、桜井宅にお邪魔する。

「はいはーい♪」

「よ!今日はいらっしゃい!今日はご馳走だから、たらふく食って、たらふく飲もうぜ!」

「といっても、おせち料理だけどね。」

「足りないなら餅もあるからな。」

「あらあら。こちらもご馳走をたっぷり作ったけど、意味なかったかしら?」

「そんなことないわ!是非、みんなでいただきましょうね!」

「だな!」

「あ!美和お姉ちゃんに洋子もいらっしゃい!簡単にだけど、綺麗にテーブルセッティングしたから席に着いて、着いて!」

 桜井綾は風間洋子と風間美和を連れ、リビングに向かう。

 そしてこの日、桜井一家と風間一家を交わしての夕飯は大いに、それはもう大いに盛り上がり、子供達3人は子供部屋で夜通しおしゃべりし続け、大人達4人は、リビングで一晩中宅飲みし続けた。その時、風間父と風間母は我が娘、風間美和の将来の事について、嬉々として語り始める。それを桜井父と桜井母は笑顔で聞き、今度は風間洋子の将来について相談し始める。その相談に対し、今度は桜井綾の将来についてあれやこれやと妄想交えた相談を始める。その相談は、困っている様子でも、幸せで困っているような感じで、4人は話し続けた。

次回予告

『女子小学生モデルの氷菓子作成生活』

 それぞれ年始の休みを謳歌している。その中には女子小学生モデルである潮田詩織も含まれている。そんな潮田詩織は今何をしているのかと言うと、アイスを作っていた。そのアイスは、自分で食べるためではなく、誰かのために作っていた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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