小学生達の年始外出生活
1月。
それも1月1日は特別な日である。何せ月の始めであり、年の始めでもある今日。この日を大切にしている人は多くいることだろう。
ある人は、今年の願いを神に伝えるため、寺や神社へ初詣をしにいく。早い人なら、月が替わった瞬間に行う人もいることだろう。
ある人は、この特別な日に食べる特別な料理を楽しみにし、多くのおせち料理を買い込み、その買い込んだ幸せを堪能している人がいるだろう。
ある人は、今年の運を試すため、今の時期にしか買えない特別な福袋を求めに、様座な店に狙いをつけ、買いに行くことだろう。
ある人は、この時期にしか買えない限定商品を求め、事前から調査していた店へと並ぶことだろう。
例外を除いては、年末年始の長期休暇であるこの頃。この季節に何もやらずにただ家にいて無駄な時間を過ごす、なんて人の方が少ないだろう。あらゆる人が正月限定の何かを楽しみにし、生活している事だろう。
そしてその例外とは、年末年始が休みではなく、仕事が入っている社会人の事。例えば、大晦日まで必死に仕事し続けた早乙女優、菊池美奈、工藤直紀、橘寛人、桐谷杏奈の5人は、この例外に当てはまるだろう。そしてこの5人は新年を迎えためでたい朝に何をしているのかというと、
「「「「「・・・。」」」」」
寝ていた。それはもう、普段寝息をたてない人が口を開け、必死に口呼吸しながら寝ているのだ。普段の就寝風景を知っている者が見たら、「…あいつ、何かあったんかね?」と、ヒソヒソされることだろう。それくらい、普段はほとんど見せない就寝風景なのである。最も、普段の就寝風景を見ている人がいれば、の話なのだが。
多くの休息を求め、朝、午前中、正午にも関わらず睡眠し続けている人達とは対照的に、朝から起き、正月という特別な休日を楽しんでいる者達がいる。
「明けましておめでとう、洋子!」
「そちらこそあけましておめでとう、綾。」
「あけおめ~♪」
「あけおめ!」
それは小学生達である。小学生達は、
「それじゃあ行ってきます!」
「それでは少し綾を連れていきますね。」
「それじゃあみんな、行こっか♪」
「それじゃあ今日こそは、俺が勝たせてもらうぜ!」
正月に行われている屋台を目当てに、それぞれ気分を高めて向かい、集まっていく。
桜井綾と風間洋子は、今のこの時間帯にやっている屋台を目当てに神社付近に向かう。
「わぁー!毎年この時期になると、本当に色んな屋台がやっているねー。」
「そうね。朝ご飯どころか、昼ご飯もここで済ませたくなるわね。」
「だね♪」
桜井と風間は心なしか、いつも以上に足取りが軽いように見える。
「ねぇねぇ。食べるだけじゃなさそうだよ。」
「え?」
「あれあれ。」
「…へぇ~。まるで夏祭りの屋台ね。」
「うん!」
こうして二人は屋台が多く位置する通りへと足を踏み入れ、屋台を堪能していった。
「あー!今日も楽しかったー!」
「くそ!次はぜってー勝ってやるからな!」
「あっはっはー!寝言は寝て言え。じゃあな。」
「ち!学校あったら覚えてやがれ!」
この恨めしそうに見られている小学生が太田清志である。どうやら、この多くはびこる屋台で勝負事をしていたらしく、その勝負事に勝ってご機嫌なのである。
「おう。俺がお前らに勝ったこと、堂々と自慢させてもらうよ。」
そう言い、太田は、悔しそうな顔で帰っていくクラスメイトをしり目に、
「いやー。あいつらのあの悔しそうな顔がまた最高だった。」
最高に黒い笑顔を作り、この正月という日を楽しんでいた。
「さーて。せっかく楽しい気分なんだ。せっかくだし、もっと楽しんでいくか!」
そう言い、太田はもっと屋台を堪能しようと足を出す。
「「いて。」」
そして、急にある人物と肩がぶつかってしまい、二人そろって声が出てしまう。
「「ごめんなさ・・・!?」」
二人は同時に謝りの言葉を言おうとしたが、お互いの顔を上げたところで、最後まで言い終えることは無かった、何故なら、お互いがお互いの顔を知っていたからである。
「なんだ、神田かよ。」
「それはこっちの言葉だよ、太田君…。」
何せ、その二人というのは太田と神田のクラスメイトなのだから。
「それで、神田はどうしてここにいるんだ?」
太田はさきほどより少し感情の高ぶりを抑えて神田に話を振る。
「何でって、私は友達と来たんだよ。」
と言っていたが、太田はすかさず突っ込む。
「その友達って誰だよ?お前今一人じゃんか。」
「だから、途中までは一緒だったんだけど、はぐれちゃって・・・。」
と、少し申し訳なさそうな顔を太田に見せる。
「そりゃあ、そんな動きにくそうな服を着てりゃあそうだろうな。」
と、太田は神田の服装を凝視する。
神田の服装は、新年にふさわしい着物を着ていて、きちんとした着付けも完了している。だが見た目がいいぶん、機能性が普段着の時より劣っているため、普段着で来ていたクラスメイトより足が遅く、置いてかれてしまったのだ。そのことを太田に話すと、
「・・・そうしてまでなんでそんな服着てんだ?」
と、太田は神田に思った事を聞く。
「そ、それは・・・着たかったから。」
神田は太田の問いに細々と答える。
実は神田という女性は、おしゃれに目覚めていて、おめかししたいお年頃なのである。化粧、とまではいかなくとも、こういう日くらいは思いっきり着飾りたい、そういう思いがあり、これを機に思い切って両親にお願いしたのだ。そしてそのお願いは無事に敵い、今こうして着られているのだ。
「ふ~ん・・・。そんな面倒くさそうな服、俺は絶対着ないけどな。」
そして太田は自分の服を指差し、神田の服を交互に指差す。今の太田には、女の子のおしゃれしたい気持ちなんて分からないだろう。異性で分かることと言えば、異性の親の嫌なところ、くらいかもしれない。
そんな太田の指摘に神田は、
「そぉ。」
あっさりとした返事をし、
「それじゃあ友達を探さなくちゃだし、またね。」
先ほどまで話していた人と同一人物だとは思えないくらい冷たい反応をし、その場を去ろうとする。
が、
「!?きゃあ!」
普段慣れない履物をしているからか、足元が不安定になってしまい、転びそうになってしまう。
「!?危ね!」
太田は咄嗟に神田を支える。
「ふぅー。危なかったー。まったく、ヒヤヒヤさせやがって。」
「・・・。」
この時、神田は二重の意味で胸を急激に高ぶらせていた。
一つは、自分の窮地に助けてくれた事。
もう一つは、助ける際の不可抗力なのか、胸に手が当たっている事である。ちなみに、胸に手が当たっていることに、太田は気付いていない。
「おっと。」
太田はいつまでも神田の体を支える必要はないと考え、
「立てるか?」
と、優しく声をかける。その際も太田は気付かずに神田の胸に接触している。ずっと触られている神田は、
「だ、大丈夫!」
語尾を強め、出来るだけ早く太田から離れる。その時、胸を庇う事も忘れない。
「?まぁ大丈夫ならいいけどさ。」
太田は神田の態度に違和感を持ちつつ、話を進ませる。
「気をつけろよ。よく似合っているんだからな。」
と、穏やかに流れる小川の如く言う。
「・・・え?」
突然の称賛に神田は激流の流れの如く赤色に変色し、太田の顔が見れなくなる。
「あ、ありがとう。」
そう言い、神田は自身の体を握るように抱きしめる。
「!?じゃ、じゃあな!」
太田はここで、自分が恥ずかしい言葉を言っていることに気付き、急いでこの場を去ろうと走り出す。だが、その行動を神田は阻む。
「!?待って!」
神田は太田の服の袖を掴み、この場から移動させないようにする。
「!?な、何だよ!?」
太田はこの場を早く去りたいからか、言葉が先ほどより強くなっている。
「に、似合っているって、本当?」
と、神田は無意識に上目遣いを使う。太田はその無意識な可愛さに臆しながらも、
「そ、そうだよ!似合っているよ!悪いか!?」
最早やけくそで答えた。だが、神田は太田のその肯定だけを受け取り、
「・・・そう。褒めてくれてありがとう。」
そう言って、神田はその場を慣れない履物で去って行った。
「・・・。」
太田は首をかき、そのまま何も言わずにこの場を去った。太田に残ったのは、息と帰りで重さの異なる財布とかきすぎて赤くなった首。そして、恥ずかしいことを言ってしまったことに対する後悔だけだった。
次回予告
『ある姉の進路相談生活』
年の初めに小学生達が外へ出かけた一方、風間洋子の姉である風間美和は、自身の進路を親に相談する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




