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会社員達の年末出社生活

 年末年始。

 それは、ほとんどの日本人が家で長期休暇を楽しんでいる。独身貴族の者達は独身生活を謳歌し、家族連れの者達は、家族での時間を大切にしているこの時期。この時期に早乙女優はというと、

「とりあえず、服は私服でも可、ということみたいですので、このジャージのまま行きますか。」

 どこかに出かける準備をしていた。やはり早乙女優もこの機会に休みを謳歌しようとしているのかもしれない。

「あの服はこの機会に全部、クリーニングに出しているので、部屋にないのですが。」

 と、優は自身のクローゼットを開ける。そこにはいつも入っているはずのメイド服が無くなっている。

「さて、お昼の用意は・・・ま、簡単に何か作っておくだけにしますか。」

 優はそういいながら冷蔵庫を開け、

「今日は簡単にオムレツを作るとしましょう。」

 お昼ご飯をイメージし、作り始める。

 作り終え、冷蔵庫に入れると、

「さて、そろそろ時間ですし、行きますか。」

 優はいつも通勤する際に持っていくカバンを持っていき、どこかに出かけていく。

「あ、おはよう、優君♪こんなところで鉢合わすなんて、偶然ね♪」

 優が自室の玄関を閉めたタイミングで偶然、菊地と鉢合わせになる。

「…偶然、ですか。」

 優はその偶然、という言葉に違和感を覚えるが、何も言う事なく、

「挨拶が遅れましたがおはようございます。」

 優は菊池に朝の挨拶を行う。

「おはよう、優君♪」

 菊池は優の挨拶に笑顔で返し、

「それじゃあ行きましょうか?」

 と、菊地は笑顔で優に手を差し伸べる。その手は、何かを求めている合図でもあった。

(これはきっと、私と手を繋ぎたいからだしているのでしょうね。)

 優はそう推測し、

「ええ。」

 手を繋がずに歩いていく。

「ええ~!?優君のいけず~。」

 非年相応な返事をし、菊地は優の後を追うかのように歩いていく。

 二人が歩き、着いた先は、

「それにしても、先日仕事納めをしたのに、また年内に社内に来ることになるとはね。」

「そうですね。少し不思議な感じがします。」

 二人が勤める会社である。

「あら?私達が一番乗りね。」

「そうですね。そもそも人が来るのかどうか分からないですけどね。」

 この場には今、優と菊池の二人しかいない。その状況が分かると、

「それじゃあ優君!私と一緒にここでイチャイチャしましょう!なんならここで大人な付き合いでも・・・。」

 と、菊地は体をくねらせる。その様子に、

「・・・。」

 優は何も言わず、ただただボーっと見ていた。その傍観には、何の感情も意志も持っておらず、路傍の石ころでも見ているような視線で合った。

「はぁ~~~♪♪♪優君からの視線がここちい~~~♪♪♪」

 菊池は体をくねらせるだけでなく、頬を紅く染め、快感を体全身で表現する。

「・・・おい、菊池。一体社内で何をやっているんだ?」

 そこに第三者、

「あ、工藤先輩も来たんですね。工藤先輩、おはようございます。」

 工藤直紀である。

「ああ、おはよう。でだ、」

 工藤は優に簡易的な挨拶をし終えると、異常者に冷淡な視線を向け、

「こいつはま~た優に発情しているのか・・・。」

 工藤は頭が痛くなったのか、

「もう。誰かこいつの病気を治せる医者を紹介してやれよ。それか俺に頭痛薬をくれ。」

 自身の頭を抑える。この状況は何度も見ているものの、精神的にくるものがある。

「・・・ち。なんでこいつも来てんのよ。実家に一生帰省して寄生していればいいのに。」

「おい。今なんで『きせい』、という言葉を二回重ねた?俺をあれか?寄生虫みたいな扱いにしたいってか!?」

「あーあ。朝からごちゃごちゃうるさいわね。そんなことだと酒に逃げられるわよ。」

「なにぃ!?それは一大事だ!すぐに黙ろう!」

 そう言い、工藤は口を閉ざす。

(まさか本当黙るなんて。工藤先輩ってお酒が絡むと自分に正直になりますよbね。)

 優は工藤のふるまいに色々思う所があったものの、それら全てを心の内に秘め、言葉にはださないようにした。

「失礼するよ。」

 静まり返った職場に、ある男性が入ってくる。その男性、課長は優達の挨拶の前に、

「まずは一言詫びをいれておくよ。」

 という出だしから始める。

「本日は集まってくれてありがとう。」

 と、課長は言い終えると、私達3人を見渡す。…それにしても、首を回す回数が多いような気がします。何か、別の人を探しているような・・・?

「集まっているのはこの3人、かね?」

 課長はそう尋ねてきたので、

「はい。」

 私は現状を肯定する。そもそも今現在、あの社員寮にはほとんど人がいない。何故かと言えば、みな、年末年始で実家に帰省しているためである。それではなぜ、菊地先輩と工藤先輩は実家に帰らないのか。それ・・・私にも詳細な理由は分かりません。本人達に聞いてみたところ、

「実家?そんなところ行ったら優君といられなくなるじゃない!?」

「実家?却下。実家に行くとやれ見合いしろ、やれ禁酒しろとうるさいからな。」

 と言っていました。口ではそう言っていましたが、おそらく、私の身を案じてここに滞在してくれるのでしょう。私には、帰る実家がありませんから。そういえば、工藤先輩は帰る実家があると聞いたのですが、菊池先輩はどうなのでしょう?口ぶりからして、実家はあるように聞こえるのですが、今までずっとこの社員寮にいるような気がします。これまでのお盆や年末年始も、この社員寮で過ごしていた記憶があります。

「そうか。」

 課長は自前の腕時計と、社内にある時計を見、

「そろそろ、本来なら始業時間か。」

 課長のこの言葉に、私達3人も視線を移動する。確かに、そろそろ始業時間っぽいですね。

「ではそろそろ、本題に入らせてもらうかな。まず・・・、」

 課長が話を始める直前、

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・。」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」

「「「「!!!!????」」」」

 とある二人が扉から現れた。その二人は、ここまで全力で来たのか、息を切らし、話を聞こうにも、息を必死で整えているため、話することが出来ない。

「ぜぇ、ぜぇ…ふぅ。」

「はぁ、はぁ…はー。」

 ようやく二人は息を整えることが出来たらしい。これでようやく話を聞くことが出来ます。

「…お二人とも、もしかしてこのメールを見て来てくれたのですか?」

 私は先日来たメールの内容を思い出しながら二人に話かける。

「は、はい。私、今年入社した新人社員なので、こういう事態には積極的に出ておいた方がいいかな、と思いまして。」

「俺は単純に、俺みたいなやつでも人の手が足りないんじゃないかと思って。」

 その御二方、桐谷先輩と橘先輩は私服であるにも関わらず、とても立派で、会社想いの人想いな会社員に見えます。

「…これは驚いたな。」

 課長も、御二方の登場に驚いたらしく、顔に驚きを隠せていない。

「3人は来ると踏んでいたが、まさか2人追加の計5人が来てくれるとは。」

「ところで、本日はどのような用件で呼ばれたのでしょうか?」

 さきほどから聞いていると、この私に送られたメールは、社員全員に送られているみたいです。ですが、集まったのはこの5人。ま、年末年始ですから、人員を充分に確保出来なかったのでしょう。だから、年末年始も社員寮にいる私達3人は来てくれると、課長は考えていたのですか。ですが、その予想に反し、電車で来なければならない桐谷先輩と橘先輩が来てしまった。いえ、来てくれた、という言い回しの方がいいかもしれません。そういう事態になったことに課長は驚いたわけですね。

「うむ。それはだな、」

 おっと。自分から聞いておいて人の話を聞いていない、なんて事態を避けるためにも、是非とも課長の返しを聞かなくては!

「年末年始の休みで大変、大変申し訳ないんだが、ここ数日、仕事をお願いしたいんだよ。」

 この課長の発言で、

「「「「「は?????」」」」」

 全員、息を揃えて発声した。

 まぁ、休日に会社に来い、なんてメールで伝えられれば普通仕事だと思いますが、今は年末年始。早々休日出勤になるはずはないと思うのですが。

「あの。こういったことってよくあるのですか?」

 桐谷先輩が聞きづらそうに聞く。確かに入社一年目でこんな体験は早々しませんよね。

「いや。俺も入社して何年も経過するが、こんなことは初めてだ。」

 と、工藤先輩が宣言する。確かに、私もこの会社に勤め始めてからこういった出来事は初めてです。

 全員が課長がいる方角を向く。これは暗に、

“説明、してくれますよね?”

 と、説明を至急求めているようだ。私にはこの考えが合っているかどうか判別できませんが。

「もちろん、きちんと一から説明するつもりだ。もっとも、菊池君なら既に全部把握しているかもしれないが。」

 その一言で全員、菊地先輩の方を向く。

「ええ。呑気に旅行している写真がいくつもあったわ。正直、腹正しかったわ。目の前に行ってぶん殴りたいほどにね。」

 この菊池先輩の発言に、課長は納得しているらしく、

「…今だけは、その発言を聞かなかったことにしよう。」

 と言っていた。

 旅行?写真?一体何の話をしているのでしょうか?それに、旅行と写真と仕事がどう結びついてくるのでしょうか?

「事の発端は、年末の大掃除だ。そこである人物は、ある重大な書類の束を発見した。」

 おっと。課長の話が始まりました。しっかりと聞きましょう。

「それは本来、今年中にやっておくべき仕事。それなのに、その当人は年末の大掃除でその仕事の存在を思い出したらしい。中には正月明けに必要な資料作成もあるのだとか。」

 それは結構大変そうです。ですが、その当人とは一体・・・?

「そしてその人はその仕事達をどうすべきか悩み、ある一つの決断を下したらしい。それは、」

 ここで課長は息を少し整え、

「仕事から逃げ、見なかったことにする事。それがその当人のだした結論、とのことだ。」

「「「「「!!!!!?????」」」」」

 え!?だって、

「ちょっと待ってくれ!」

 ここで工藤先輩が声をあげる。私も声を挟みたくなる気持ちは分かります。

「…なんだね?」

「今年中にやるべき仕事をあの出勤最終日、大掃除の日に見つけた。ここまでは合っているのか?」

「ああ。」

「それでその当人は、その仕事をほっぽりだし、年末年始を過ごしていると?」

「ああ。」

 ここで課長は頭痛がひどくなったのか、頭をおさえこむ。

「・・・すまない。話を続けよう。」

「!?分かり、ました。」

 工藤先輩は、まだ課長に聞きたいことがあったらしいですが、ここは言葉を飲み込んでくれたみたいです。

「さて、ここからが本題だ。では、その当人がやりそこなった仕事をどうするか?」

「まさか…!?」

 この時点でほとんどの人が察した事でしょう。

「うむ。私達にしわ寄せがいった、というわけだ。」

 みなさん、あからさまに嫌そうな顔をしていました。出来るだけ顔に出ないよう努力していたみたいですが、隠しきれていません。唯一笑顔でいるよう努めていた桐谷先輩も、「へ、へぇ~。こんなことってあるんですね。」と、顔をひきつっていました。

「それでだ。今回集まってもらったのは、その当人がやり残した仕事をしてほしい、ということだ。」

 と、ここで課長は自身のデスクに置いてあった紙束を、目の前のデスクに置き直す。

「これが仕事に必要な資料だ。」

 と、資料の紙束を複数置いていた。これってやはり…、

「仕事って、複数あるのですか?」

 私の質問に、課長は手の動きを一瞬だけ止めた後、

「ああ。」

 そう言い、ため息とともに紙束を置く。その課長の発言に、

「「「「・・・。」」」」

 全員、何も言えなかった。そもそも、その当人とは一体誰なのでしょうか?何故こんな事態に?思う所は多々あります。

「そしてもう一つ残念な知らせがある。」

「「「「「え?????」」」」」

 年末年始に仕事をするだけでも異例の事態ですのに、これ以上最悪な事態が…!?

「本当は私もやるつもりだったのだが、緊急の要件が出来てしまい、出来なくなってしまった。」

「「「「「・・・。」」」」」

 もう驚き過ぎて何も言えません。

「え?だってこれ、5人で一週間かける量の仕事じゃね?これを?」

「正月明け。出来れば今年中に終わらせて欲しい。」

「今年中って、後数日もないじゃん!」

 工藤先輩の言う通りです。今、年末年始の休みなわけですから、今は年末。今年も後もう少しで終わってしまいます。

「…それを、頼む。」

 課長は頭を下げる。

「!?頭をお上げください、課長!」

 私は課長の頭をあげさせる。

「だが、」

「人間誰しもミスはします。確かに、ミスを隠蔽しようとしたことは許されませんが、それでも、課長が頭を私達に下げる必要はないと思います。」

「だが、私達は君達にお願いするしかないんだぞ!?こんな上司が…!?」

「課長には恩がありますので、これくらいわけありません。」

 私は続けて言う。

「もし謝るべき人がいるのであれば、この仕事の存在を隠蔽しようとした人物、ですよね?」

「…優君?確かにそれはそうだけど、なんでこのタイミングで私の方を向くのかしら?」

「だって菊池先輩。この仕事を隠蔽しようとした人物、もう特定できていますよね?」

「「「!!!???」」」

 工藤先輩、橘先輩、桐谷先輩は驚いていた。だが、すぐに納得したらしく、

「ま、菊地だしなー。」

「あり得る。」

「そうですね。さきほど、知っているような発言をしていましたし。」

 と、自分に言い聞かせるように言った。

「それが誰だか分かりませんが、処分の方は条件付きで構いませんので、処分は軽く出来ないか検討してくれませんか?」

 私は課長に相談する。

「…一応、条件について聞いてもいいかね?」

「はい。入社してきてからすぐ・・・数分以内に、自分の過ちを過ちとして認め、社長に精一杯謝罪する事です。」

 私は自分の考えをまとめながら周囲の人々に言う。周囲の人々は少し戸惑っているようであった。

「…それでいいのかね?もっと謝礼金とか雑用と色々あるのではないか?」

「それは、その当人の謝罪を見て、この会社の上層部の方々が決めることです。私がお願い出来ることは、その方の謝罪の義をできるだけ尊重して欲しい、というだけです。」

「もし、その義、とやらがなければ?」

「思う存分裁いてもらって構いません。」

「「!!??」」

 優の発言に、桐谷と橘が驚く。それも当然なのかもしれない。何せ、普段の優からは到底聴くことのない言葉と意志。その様子に二人は驚いていた。

「…そうか。」

 課長は納得したらしく、首を頷く。

「「「「「「・・・。」」」」」」

 その後、無言の時間が進む。話を切り出しのは、

「それでは、これからこの5人で仕事をしてくれる、というわけでいいんだな?」

 課長が私達に確認を取る。私はもちろん、反対の意見なんてありえないので、

「はい。」

 了承の意志を示す。

「優君がやるなら私もやるわ~♪」

 と、私の頬に菊池先輩は頬を当て、摩擦熱を生じさせる。相変わらず、このようなことは人前でしないで欲しいです。人前でなければしていい、なんてことは無いですが。

「ま、この2人だけにやらすわけにはいかないわな。俺もやるよ。」

 工藤先輩もやる気みたいです。さて、残りの二人はどうでしょうか?

「無論、ここで断っても何もお咎めは無いぞ。なにせ、この頼みに強制力が働かないからな。」

 ここで課長が何か発言してきました。もしかして、もし断ってもいいように言葉を添えているのでしょうか。

「私、やります。」

 ここで桐谷先輩が言う。

「私、まだ新人なので迷惑をかけるかもしれないですが、いないよりはまし、だと思いますので、先輩方と一緒に頑張ります!」

 どうやら桐谷先輩はいつも以上にやる気があるみたいです。さて、残りは後一人、ですか。

「…もちろん、俺も残って仕事、手伝うよ。俺、独身だから暇だし。」

 どうやら橘先輩は暇だから手伝うみたいです。ですが、手伝ってくれるのでありがたいです。この仕事量ですと、何人いても人手が足りなくなりそうですし。

「そうか。それじゃあこれから簡単に伝言すべき事項を伝えよう。」

「「「「「はい。」」」」」

「まず・・・。」

 こうして、簡単とは言え、課長の話が始まった。

 話を聞くこと十分前後。話の内容は主に、仕事後の事であった。何でも、今回の急な仕事を引き受けたことにより、私達の評価が最低でも1段階上がるらしい。そして特別休暇も付与され、給与にもいくらか特別給与として色を添えてくれるらしい。そして、

「これは社長からの配慮と、これは私からの気持ちだ。」

 課長からは仕事中につまめる高級そうなお菓子の箱5箱。

 社長からは・・・こ、これは!?前回、あのアイスバイキングでお世話になったあの店の無料お食事券、ですって!!??これは是非とも頑張って、早急にあの店に行かなくては!

「みなさん!早急に仕事を終わらせ、早くアイスを食べに…!?」

 おっと。間違えてしまいました。

「今日の夕飯はこの券を使い、あの店で食べましょう!!」

 こう考えただけで仕事への意欲がいつも以上に上がるというものです。ですが、欲におぼれてはなりません。欲におぼれず、常に自分を律しなければ!

「本音を全く隠せていない優君、素敵♪」

「優の奴、もう今晩のアイスのことで頭がいっぱいなんだろうなー。」

「だと思います。」

「優さんのためにも、出来るだけ早く、これらの仕事を終わらせませんとね。」

 何だか4人の先輩が仰っていますが、仕事の話をしているのでしょう。仕事も早く終わらせて悪い、なんてことは早々ありませんしね。

「では課長!私達はこれから早急に仕事を終わらせますので!」

 私は改めて礼を態度で示すため、体を直し、直立不動となる。

「あ、ああ。ま、頑張ってくれ。」

 なんか若干、呆れの感情が込められているのは気のせいでしょうか?…気のせい、ですね。課長はこれで社を後にするのかと思ったら、出る直前で足を止めた。まだ何かいいたいことがあるのでしょうか。

「最後に1つ、伝え忘れていたことがある。」

 課長は私達の方に向き直し、告げる。

「今回、このポカをやらかした当人の件だが、時が来るまで大事にしないで欲しい。」

「…分かりました。」

 最初は何故?とも考えましたが、本人の名誉や働く環境、会社の損害等を考慮した結果なのでしょう。私はそう考え、了承した。

「ま、菊池君は既に当人の目星がついているだろうが。」

 課長の目配せに気付いた菊池先輩は、

「まぁね。」

 と、感情の起伏が無いまま言ってのけた。やはり菊池先輩は凄いです。というか、一体どうやって調べたのでしょうか。

「だからせめて、私がいない場で話して欲しい。それと大事にしないこと。この2つを最低限守ってくれればいい。」

 今まであまり気にしてきませんでしたが、その当人とやらは、そんなに会社に影響力を与える役職に就いている人なのでしょうか。それとも、会社への損害を重視してこのような策を…?ま、どちらでも構いません。私、いえ。私達がやるべきことは仕事です。他の事はひとまず後回しにしましょう。

「分かりました。」

「よろしい。それでは私はこれでお先に失礼するよ。」

「「「「「お疲れ様です。」」」」」

 私達の一言の後、課長は社を後にした。


「さて、と。」

 課長は既に退社し、後は私達5人となった。そして、

「これ全部、今年中にやっておかなくてはならない仕事、なんですか?」

「…みたい、だな。」

「はぁ~。勢いで了承したものの、さすがに数日でこんな量は終わらんだろ。」

 桐谷先輩、橘先輩、工藤先輩は既にやる気を失っておりました。確かに、ただでさえ年末年始でお休みする気満々だったのに、急に会社に来て大量の仕事をやるよう言われたわけですから。私も出来るだけ士気を維持できるようにしませんとね。

「はぁ~♪年末年始にこうして優君と一緒にいられるなんて幸せ♪」

 …今だけは、菊池先輩のこの前向きな思考を見習うべきかもしれません。私には真似できませんが。

「それではみなさん、仕事、始めていきましょうか?」

 私のこの一言で、重たそうな腰を上げ始める。

「あ。まず私からいいですか?」

「なんだ、桐谷?」

「私、出来る仕事が限られているので、それらを先に見繕ってくれると嬉しいです。それと、今の私なら時間がかかっても出来そうな仕事を回してください。」

 桐谷先輩は今の自身の事を把握しての発言、ですか。自身を理解してのことであれば問題ないでしょう。

「分かりました。橘先輩はどうしますか?」

「俺は書類仕事全般いけるから問題ない。ただ、お得意先にいれる確認の電話とかは、その…。」

 なるほど。前々から思っていたのですが、橘先輩って、人と話したり、人と接したりすることが苦手のようです。その分、書類仕事を頑張っているみたいですが、いずれはある程度でいいですから、橘先輩の今後のために、少しは克服できることを願っています。

「俺とこいつは残り物でいいぞ。」

 工藤先輩は菊池先輩を指差しながら言ってきた。ま、それが妥当な案になりそうです。

「分かりました。それでは終わり次第、私が確認しますので、みなさん随時、頑張って仕事を終わらし、早くアイスを…!?」

 おっと。言い間違えてしまいました。

「失礼しました。早く夕飯を食べに行きましょう!」

 さきほどいただいたこのお食事無料券があることですしね!あー、早く仕事を終わらせてアイスを食べたいです。

「優の奴、ちゃんと仕事出来るかね。」

「さぁ?」

「優さん、アイスの事が絡むと、年相応の小学生になりますよね。」

「そこが優君の素敵なと・こ♪」

 さ、私も人の事が言えなくならないよう、しっかり仕事を全うしていきましょう。

 仕事に集中していたためか、時刻は既にお昼。当然、

「は、腹減った~。」

 こうしてお腹が空くというものです。

「そういえば俺、昼食の用意していないな。」

「確かに。今日は私もお昼、用意していなかったんですよね。」

 そういえば私もお昼、持ってきていなかったです。何かしら用があると思っていましたが、こういったことまでは予測していなかったですからね。

「だな~。昼、買いに行くか。」

「優く~ん。私もお腹空いたわ。優君が食べたいわ♪」

「それじゃあみなさんのお昼、私が持ってきましょうか?」

 私がみなさんに提案する。菊池先輩を除いたみんなは驚いたが、

「そうだな。それじゃあお願いしてもいいか?」

 工藤先輩の賛成に、

「俺の分もお願いできるなら。」

「それじゃあ私、お手伝いします!」

 といった感じでした。

「もう~優君!私のこと、無視しないで~♪」

「ちなみに、お昼のリクエストは何かありますか?出来る限り叶えたいのですが。」

「優君!これ一択!」

「酒!後は酒のつまみ!」

「…えっと…、それじゃあボリューミーなもので。」

「私は野菜を入れてくれれば。」

「分かりました。」

 菊池先輩と工藤先輩の要望には応えられませんが、橘先輩と桐谷先輩の要望には応えていこうかと思います。

「え!私も一緒に…!」

「いえ。これは私一人でやりますので、先輩方は少しの間、待っていてください。」

 私は自室に戻る準備を簡単に行い、

「それでは先輩方、少しの間、席を外しますので。」

 私はそう言い、

「優君!私は優君盛りを期待しているわ!」

「酒のつまみとか、後は酒だ。ばれないように持ってきてくれればいいから、な?」

「いってらっしゃい。」

「お、お気をつけて。」

 社を後にした。


 5人分のお昼を作り終え、社に戻ってみると、

「「「「・・・。」」」」

 全員、私を見て固まっていた。

 一体これはどういうことでしょう?

次回予告

『小さな会社員と何でも出来るOLのかつての生活~氷菓子製作~』

 早乙女優が昼食を作るため、社員寮に戻っている間、桐谷杏奈は、早乙女優が何故会社で働いているのか、という質問をする。その質問に答えたのは菊池美奈である。だが菊池美奈は、早乙女優が会社で働いている理由を話さず、代わりに早乙女優がアイス好きになったきっかけを話し始めた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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