小さな会社員の新生活
今月、新連載しようと思っていた小説を投稿しました。
まだまだ至らぬところもありますが、楽しんで読んでもらえるとありがたいです。
それでは、お楽しみください。
とある休日のお昼、某レストランで食事している集団がいる。
この集まりは、明日から会社に来られなくなる者への労いを込めた食事会だった。だが、そこにはひときわ小さな者がいる。その者はとある女性からハグされて、身動き取れずにいた。
「はぁ~。明日から優君来ないのか。もう、お姉さんは憂鬱だわ。」
このお姉さん風をビュービュー吹かせているこの人は菊池美奈先輩。私が通勤していた会社の先輩だが、何が楽しいのか、事あるごとに私にべたついてくるのだ。明日からこのハグがなくなると思うとうれしく思うな。
「いえ、私は全然そんなことありませんので、心配はいりません。」
「えぇ!?それじゃ、私はもう用済みなの?他の女のとこに行くの?」
「そ、そんなことありませんよ。俺がこの会社に通勤できなくなる理由を菊池先輩は知っているじゃないですか!?」
「うふふ。冗談よ、じょ・う・だ・ん。まったく優君はかわいいんだから。それと、動揺すると一人称が『俺』になる癖、直した方がいいわよ?」
「あ。」
俺、いや私は自分の癖を指摘され、少し恥ずかしくなってしまった。
「それにしても、明日から優は会社に来ないのか。」
「何よ工藤。もしかして寂しいの?」
「んあ!?そ、そんなわけないだろ!あほぬかせ!」
そう言って、照れを隠すようにビールや焼酎などのお酒を飲んでいるのは工藤直紀先輩だ。工藤先輩は酒に目がなく、よく周りの人から酒につられて色々やらされているが、持ち前の責任感と面倒見の良さもあってか、きちんと最後までやりこなす、私の憧れのサラリーマンだ。
「はぁ。私も一度、お酒を飲んでみたいな。」
そう愚痴をこぼすと、驚いたような顔でこちらを見る。そう、菊池先輩と工藤先輩だ。
「優君にはまだお酒は早いわ!ほら、ここにあるリンゴジュースでも飲んでなさい!」
「そうだぞ優。おまえにはまだ早い。せいぜい今のうちにお酒の飲み方でも学んでおくんだな。」
そう言って、リンゴジュースを渡す菊池先輩とお酒を飲みながらおつまみをつまみ、またお酒を飲む工藤先輩。他の人達もそんな私たちのやりとりを見ていたのか、笑いながらお酒を飲んだり、雑談を楽しんでいたりいた。
「明日からいよいよ本格的に、か。」
「そうね。みんな優君の新たな門出を祝っているのよ。」
「そうだ。だからお前は遠慮なく行って来いよ。」
そう言って、菊池先輩と工藤先輩は背中を叩く。ちょっと、痛いんですけど。
「わかりました。それではみなさんのご厚意に甘えまして、明日から行ってきます。」
そう言うと、私の話を聞いていたのか、いつの間にかみんな私の方を向いていた。こういう視線はプレゼンの時に向けられるのと違い、別の意味で緊張するんだよな。そう思っていると、
「優君。寂しくなったらいつでも抜け出してきていいからね?」
「いえ。寂しくなることは無いと思いますので、そんなお気遣いはご無用です。」
「そ、そんなぁ~。」
菊池先輩は膝から崩れ落ちた。
「あっちでもがんばれよ。」
と工藤先輩はささやくように言ってきた。私は出来る限り笑って、明るく言った。
「はい!」
そう、私は早乙女優。明日から小学校に通う、11歳の小学生だ。
こうして、早乙女優は11歳にして、遅すぎる小学校生活を始める。
翌日、優はいつもより早く起き、日課をこなす。今日から学校に行くためである。
(どんな学校なのか知らないけど、まぁいっか。)
実は学校に入るための手続きは全て菊池先輩がやってくれたのだが、学校の場所以外ひ・み・つ、ということで何も聞かされていないのだ。
宝鳥小学校。それが私の通う小学校の名だ。名前から考えると、「お金」と「自由」というイメージがあるが、何事も先入観で判断してはいけないのだ。
そう、先入観で物事を判断してはいけないのだ!例え、見た目が小学一年生くらい小さい子供に見えたとしても。・・・なんか自虐しているみたいでつらいな。
「それじゃ、新たな学び舎へ行きますか。」
こうして私は学校へと入っていった。
ちなみに、明日は別の作品、『色を司りし者』も更新する予定ですので、お楽しみください。