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現実世界で2週目始めます  作者: 柳翠
第一章 リスタート
1/9

【遺恨】

生きていているという感情を覚えて本心から楽しい、うれしいといった感情がなかった。


日常生活のなかで自分が悪役にならないように、他人から『良い人』と思われるように徹してきた。


この生き方では、ただ自分が損するだけだった。


39歳、僕はこの世を去った。――死因は自殺だ。


薄れていく意識のなか俺はこう願った。


次は自分を大切にしよう、と。


□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


声が聞こえた。可愛らし女の子の声だ。居心地の良くなるようなヒーリングミュージックを聞いているときのような癒しがあった。


「おーい、聞こえますかー?」


俺に話しかけているのか?


はい、聞こえます。と、言おうとしたが声が出ない。……口がない?足も手も、目も見えない。どうなっているんだ?


「あ、ごめんなさい、説明しますね」


頭に直接響くような感じがした。


俺が困っているのにきずいたのか説明を始める。


「えーと、端的に言えば、あなたは今、霊魂です。なので今あなたは、脳みそだけみたいな感じです。声が聞こえるのは、私が直接頭に話しかけているから。今からしゃべれるようにしますね」


そう言うとだんだんと視界がはっきりした。ふと身体を見てみると体が栄養の少なそうなガリガリの状態に復元されていた。


足元に目をやると、足が浮いているのか、着いているのかわからないぐらいの真っ白い空間が広がっていた。


「すみません、脳としゃべってると思うと気分が良くないので一時的に体を、ていっても幻覚ですけど、それでもしゃべれるようにはなりました」


とても丁寧なしゃべり方だった。


語り手の女の子を見ると、鈴のように澄んだ声に似つかわしいキレイに整った容姿。

しなやかに伸びる細い腕。

猫のようにスルリと綺麗な曲線を描く腰。

今にも消えてしまいそうなぐらいの白い髪。

もちっとしていそうで透明感のあるほっぺ。

どんな心でも見透かしていそうな蒼く澄んだクリッとした目。


…………まさに天使。


「い、いえいえそんなぁ――まぁ、天使ですけど」


ドヤァとドヤ顔


心を読まれたかのように返答してくる。


この女の子を前に、平然を装うなんてこと並みの男子では無理であろう。それともただ単に俺が(うぶ)なだけか?


しかし話さないことにはなにも始まらないのでまず最初に浮かんだ疑問を聞くことにした。


「あ、あのここはどこなんですか?」


横を見ても上を見てもやはり真っ白な、飾り物が一切ない空間、そう言うしかなかった。


「そうですね、まぁここは、仮の天界でしょうか」


なるほど天界か。――つまり死ねたってことか、どうやら自殺は成功したらしい。


自殺に失敗も成功もなにもないだろうが。


とりあえず俺は二つ目に思い付いた疑門を問いかけることにした。


「――俺は天国にいけるでしょうか?」


ここが俺の最大の疑問。


家族は心配してるとか、異世界転生できるのか?とかそんな面倒なことは重要ではな。


こちらの疑点の方が俺にとっては重要であった。


「もちろん、あなたの生前のおこないなら、文句なしで天国行きです」


「よかった。それなら俺は」


「しかし」


俺の会話を途中で遮り、こう言った。


「しかしあなたには、もう一度中学、高校の6年間を生きてもらいます」


淡々としゃべる天使。言葉が出ない。

あまりの嬉しさに――ではなく、あまりの驚きに。


俺はもう一度学生時代を生きたいとは思わない。


――なので答えは明白だった。


「すみません。選択権があるなら、天国にいかせてもらいますか」


できればそのまま存在すら消してもらいたい。


そう日々の雑感(ざっかん)を思いかえしていると、天使は言った。



「『次は自分を大切にしよう』でしたっけ?覚えてます?あなたが最後に望んだことです」


天使はやはり心を読めるのか。


その凄さに呆然――するのではなく内緒にしていたことを知られたちょっとした怒りが俺の心にいた


確かにそうありたいと願った。しかし現実はそうならない。知っていたのだ。


「確かにそう思いました。でも、たぶん俺はそれができない」


誰かが困っていたら最優先にそれを手伝い。

誰かが助けを求めれば、そばにいて助けようとした。

誰かに悪口を言われても、冗談だとながし続ける。


それが自分の性格だった。『良い人』であった。『優しい人』であった。


他人から見ればそうなのだろう。


「そうです。あなたはそれができない。知ってます」


この言葉さえも心を読み、言った言葉だったのだろう。


「なら」


「なので、あなたの性格の改善のための学生生活をもう一度してもらうのです」


「………」


改善とかどうでもいい。


「あなたが天国に行き順番が来たら新たに人として現実世界に戻ってしまうのですよ」


「それでも俺が俺でなくなるならそれで構わない」


「いえ、実のところを言いますと、記憶を失っても性格は次に引き継がれるのです」


「だからなんだよ」


「『良い人』のあなたならわかると思いますが、次の人が苦しむのを見過ごせますか?あなたの性格を引き継いで良かったと思えるように善所しませんか?」


その言葉に心に引っかかるものがあった。


「っ!?…………でも、もう一度やり直すとしても、うまく行く保証はない」


「そうです。なのであなたには、一つ良いものをあげます」


「良いもの?なんですか?」


「それは一日を二回繰り返すことのできるという優れものです。二回と言っても他の人はあなたにとって一日(仮)が終わると、一日(仮)の記憶はなくなり再びその一日が始まるのです」



苦しみ悶え、葛藤して、仁愛を大切にして、自分を傷つけて、自愛することを忘れ……親愛を失い、ただ得るものは………偽物でしかなかった。


なので俺はもう一度否定することを選択した。


「それでも俺は!」


「意地を張っているようですが、本当は戻ってやり直したいんじゃないんですか?好きな人に告白しましたか?友達に愚痴を言いましたか?文化祭本当に楽しかったですか?卒業式泣けましたか?後悔を無くして天国に逝きたくありませんか?」


図星だ。そうだ、俺の人生後悔しかない。せめてこの心のわだかまりをすべて吐いてから死んでも良くないか?


このままじゃダメだと知っていたのだ。怖くても、勇気を出して、一歩でも少しでも前に進めるように。


俺は肯定することにした。


「わかりました。もう一度、6年間やり直します」


「そう言ってくれて嬉しいです。早速、中学一年生に戻します。詳しくはあちらで」


「あちら?どうゆうこと?」


疑問を浮かべた瞬間一瞬にして目の前が暗くなり、薄れていく感覚に最後天使は言った。


「二度目の学生生活楽しみましょうね」


その言葉に俺は約束した。俺の青春を取り戻す!と、自分との約束を………それを最後に俺は完全に意識をなくした。






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