22・初クエスト
「早速、クエスト受けようにゃ」
ライセンスを持ってみんなに見せびらかしていたミディアであったが、唐突にそんなことを言い出した。
いや、それは必然だったかもしれない。
「クエストか……」
「にゃ。冒険者となったボクの前には敵なし。困っている人を助ける人こそが冒険者にゃ。さあ! 竜の巣に行って、古竜を倒そう!」
手を広げて、ミディアは大きなことを宣った。
古竜とは古から生きる竜のことを言う。
その寿命は千年とも二千年とも言われ、強力な魔法を使いこなすとも言われる。
当然、ミディアが敵う相手でもない。
「……ミディア。どうしてもクエストを受けたいか?」
彼女の目を真っ直ぐ見て、問いかける。
するとミディアは「うにゃ」と拳を握り。
「冒険者になった頃から覚悟していたんだ。もしかしたら、クエストの最中に命を落としてしまうこともあるかもしれない、って。だから……今更、尻込みしていられないにゃ!」
「ふむ」
大した覚悟である。
ミディアの言葉に嘘はない。
まあライセンスを持たせた時から、早かれ遅かれこうなることは分かっていた。
「分かった。クエストを受けよう」
「にゃー!」
ミディアの猫耳がぴーんと立った。
「クエストを受けようにもギルドに行かないといけない。とりあえず、ギルドに戻るぞ」
「分かったにゃ」
「あっ、おとーさん。イヴも行きたいー」
『われも行くぞ』
イヴとワッセルも付いてくる気のようだ。
「にゃにを言ってるんだ!」
その前に立ち塞がったのは、新米冒険者ミディアであった。
「これは危険なことなんだ。戦いの初心者をクエストに連れて行けるわけないだろう!」
「それはあんたも一緒じゃん」
『われは魔狼である。猫よりも強い』
イヴもその気になれば魔法をポンポン放てると思うので、ミディアが最弱なのは事実だ。
「まあまあ。イヴもワッセルも行こう」
「師匠がそう言うなら……」
あまり納得した様子でないミディアの背中を叩いて、みんなでギルドに向かった。
そしてギルドに行って、手頃なクエストを受注した。
みんなでエビルモンキー達がいる森に向かう。
「師匠。あまり話を聞いてなかったけど」
「聞け」
「一体ボク達はなんのクエストを受けたんだい?」
「うむ……」
俺は受付嬢アンナから受け取った、紙を読み上げる。
「……薬草摘みだ!」
「や、薬草摘み?」
「うむ。大切な仕事だ」
俺達の働きによっては十分な薬草が採れず、誰かが怪我をしてしまった時に慌てるかもしれない。
「命がけのクエストになる?」
「ああ。時と場合によってはな」
「ちなみにクエストランクは?」
「Sだ」
嘘である。
もちろん、Gである。
だが、その嘘に気付いてない(馬鹿な)ミディアは瞳をキラキラさせて。
「うにゃ! それは腕が鳴るね。近い将来、SSSランクとして成り上がるボクにはお似合いのデビュー戦だよ」
「そうだな。みんなで頑張ろう」
「うん! 分かった!」
「あんっあんっ」
イヴとワッセルも手伝ってくれるようである。
「ふふふ。ボクの力をとくと見るがいい!」
「おう」
「にゃー!」
とミディアは薬草を探しに行った。
「おーい。あんまり離れるんじゃないぞー」
ワイルドボアーやエビルモンキーのこともあるが、この森にはモンスターが少なからず棲息している。
目の届かない場所まで行かれたら、色々と厄介なのだ。
……こうして、のどかな薬草摘みがスタートした。
「おとーさん。これも薬草だよね?」
「いや。それは毒草だ。ほら、葉っぱの先端が紫色になってるだろ?」
「ホントだ! おとーさん、すごいねー! 薬草博士だ」
SSSランクになっても、定期的に薬草を摘んでいたからだ。
……『低ランククエストを馬鹿にしちゃいけないよ』と言っていたアレックのせいでだ!
「そういや、あいつ等なにしてんだろ……」
もしかしたら、俺のことを捜してるかもしれない。
あいつ等が本気になったら、すぐに俺のことを見つけられるに違いない。それなのに、まだ見つかっていないのはどういうことだろうか?
案外、俺は必要とされていないかもしれないな。
「あんっあんっ」
「おっ、ワッセル。すごいじゃないか」
ワッセルの前に薬草が積まれている。ワッセルが集めたのだろう。
『うむ。薬草の匂いをたどれば、これくらい簡単なことだ』
「そういや、ワッセルは犬だったな」
人間より鼻が利くのかもしれない。
『われは犬ではない』
ワッセルが『犬』であることを否定するのはお馴染みのことだ。
さて……肝心のミディアは……?
「ミディア?」
知らないうちに姿が見えなくなくなってしまっていた。
「あいつ……あんまり離れるなって言ったのに」
重い腰を上げ、ミディアを探しだそうとした時であった。
「にゃぁぁああああ!」
森にミディアの悲鳴が響き渡った。
「ミディア!」
それを聞いて、一瞬でスイッチが入る。
「ワッセル!」
『うむ』
「イヴも行く!」
ワッセルにイヴと一緒に乗り、森の中を駆け抜ける。
その間に、背負っていた巨斧を右手に構えた。
——だから言わんこっちゃないのに!
手遅れにならなければいいのだが。
『もう少しだ』
ミディアの匂いを覚えていたので、ワッセルが真っ直ぐそこまで辿り着くことが出来た。
「大丈夫か……!」
果たして、そこに広がっていた光景は——。
「にゃあ……木から落ちたにゃ……」
地面に転がり、頭を押さえているミディアの姿があった。
「ミディア?」
「木の上に薬草が生えてると思って……それで気を抜いたら、そこに木から落ちてしまったんだ」
そう言って、ミディアが木の上を指差す。
枝が折れている。そこから落下したということなのだ。
「はあ……」
心配して損した。
俺は巨斧を背負い直した。
「お前、猫だろ。普通これくらいの高さくらいなら、着地出来るだろ」
「猫耳族は猫じゃないにゃ……本来なら、華麗に着地出来るはずにゃ。でも突然のことだったから、ビックリして……」
ミディアは服の土埃を払いながら、立ち上がる。
「それで肝心の薬草はどうなったんだ?」
「まだ見つかってないにゃ! でも、もう少しで見つかりそうな気がするんだ」
「そうか。頑張れ」
どうやら、ミディアが一人でクエストをこなせるようになるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。




