21・ミディア、ライセンスを手に入れる
「次は魔力検査です」
と受付のアンナは天秤をテーブルに置いた。
「これはなんにゃ?」
ミディアが目を丸くする。
「これは魔力検査天秤です。天秤に魔力を送ってみてください。その大きさによって、右側の天秤が傾きます。傾けば傾くほど、あなたの魔力が大きいということになります」
「成る程。分かりやすいね。ふふふ、師匠。ボクの魔力、とくとご覧あれ!」
「おう。期待してるぞ」
その天秤も懐かしい。力持ち石とは違い、良い思い出は皆無であるが。
俺は少し離れたところで腕を組み、ミディアを見守っていた。
「壊れたら、どうなるのにゃ?」
「ふふふ。今まで、天秤を壊した人なんていませんよ」
「万が一だよ」
「万が一壊れた場合は、文句なしでSSランク冒険者にしてあげてもいいですよ」
「……! それは本当のことかね」
「ええ。女に二言はありません」
「ますます楽しみになってきたよ!」
ミディアが腕まくりをし、天秤に近付いていく。
やけに自信満々だな。もしや、力の方は大したことないが、魔力には自信があるんだろうか。
「いくよ——はあ!」
とミディアは声を上げ、天秤に魔力を送り込んでいるようだった。
ようだった……と言っているのは、問題の右側の受け皿が微動だにしていなかったからだ。
「にゃ、にゃ、にゃー!」
気合を入れて、さらに魔力を送り込もうとする。
……おっ、ちょっとだけ動いたか?
しかし、そよ風に反応しただけのような……。
「はあっ、はあっ。今日のところはこれくらいで勘弁してあげよう」
肩を上下させているミディアにアンナは。
「はい。魔力もGランクですね」
「がーん」
無慈悲な宣告である。
「まあ、ミディア。そう気を落とすな。俺だって、魔力はGランクだったんだからな」
「ほ、本当かね?」
「ああ。さっきのお前と似たようなもんだった」
俺は魔法をほぼ使えない。
普通、SSSランクともなれば魔法使いじゃなくても、基本的な魔法はマスターしているらしい。
しかし、俺は魔力がほとんどなかったのである。
これでは、いくら理論を理解していても使い物にならないのだ。
「ふふん、師匠と同じだったら今日のところはこれくらいで許してあげよう」
「おう。許してあげろ」
ミディアが元の表情に戻った。切り替えが早いヤツである。
しかし——切り替えが早いのも、冒険者にとっては必須のことであった。
「では、これで検査は終了です。すぐにライセンスを発行してくるので、少しだけお待ちくださいね」
アンナはそう言って、なにかを書き込んでいた書類と一緒に奥へと引っ込んでいった。
「それにしても……優しいんだな」
「なにがだね?」
「いや……普通、力も魔力もGランクだったらライセンスを発行してもらえないもんなんだ」
「そ、それは本当かにゃ?」
「本当だ」
『お前に冒険者になる資格はない!』
とか言われて、意地悪な受付がライセンスを発行してくれないのだ。
それに、外面の良さに騙されるヤツ等が、Gランクってだけで馬鹿にしてくる。
検査の結果で変わってくるのは、始める冒険者ランクだけであるが、それ以外にも生き辛くなってしまうのも事実であった。
「はい。お待たせしました」
ミディアと喋っていると、アンナがライセンスを持ってきて再び現れた。
「これがミディアさんの冒険者ライセンスです。大切にしてくださいね」
「にゃーっ!」
目を輝かせて、ミディアがそれを受け取った。
「冒険者ライセンスは身分証明書にもなります。大切に保管してくださいませ。そして、クエストを受ける時にもライセンスが必要となってきます。仕事をしたい時は、それを忘れないでくださいね」
「分かったにゃ♪」
ミディアが受け取ったライセンスを様々な角度から眺めていた。
すかして見たり、匂いを嗅いでみたり、振ってみたりだ。
まあ気持ちは分からないでもない。俺だって、子どもの頃、初めてライセンスを受け取った時は似たようなもんだった。
「うっし、ミディア。そろそろ帰るぞ」
「にゃっ、にゃ。あの娘とワッセルにもライセンスを見せてやるにゃ!」
娘……? ああ、イヴのことか。
「じゃあ、アンナ。ありがとう。また来るよ」
「はい……! 絶対来てくださいね。用がなくてもっ!」
「用がなかったら来ないよ」
「私に会いに来てください——っ!」
アンナは顔を真っ赤にしながら、そう口にした。
冒険者ギルドを後にする。
それにしても、最後までギルドには冒険者らしき人が現れなかった。
平和だなあ。
家に帰り。
「ふふん。これがボクの冒険者ライセンスだよ。欲しいって言われても、あげないんだからねっ!」
有言実行。
早速、ミディアはライセンスをイヴとワッセルに自慢していた。
『光沢があるのである』
「羨ましいかい?」
『カッコ良い』
ワッセルには概ね好評のようである。
しかし、一方のイヴは……。
「そんなのなんの役にも立たないじゃないの! あんたがそれを手にしても、無駄だわ」
料理中だったのだろうか。お玉を持ったイヴは、顔をしかめた。
「嫉妬……かにゃ?」
「嫉妬じゃないわよ! イヴだって、冒険者になろうと思えばいくらでもなれるんだからっ」
それは本当のことである。
イヴの体には膨大な魔力が含まれているらしい。それはSSSランクにも匹敵するかもしれない。
その気になれば、あの天秤を壊すことも出来るはずだ。それくらい、桁違いの魔力をイヴは保有している。
もっとも、本人にその気がないので使ったところを見たことないが。
それなのに。
「ふふん。またまたそんな強がり言っちゃって。君みたいなか弱い女の子が冒険者になれるわけないだろ?」
ミディアはイヴを煽っていた。
「むきーっ! おとーさん! この猫耳娘むかつく!」
「仲良くするんだ」
「猫耳を引っ張らないでくれたまえ! そこはダメなんだ!」
怒ったイヴがミディアに襲いかかっていた。
その際、ミディアの手からライセンスがこぼれ落ちる。
『カッコ良いのだ』
くんくんとライセンスの匂いを嗅ぐワッセル。
「……折角手に入れたのに、あいつはなにをしてるんだが」
溜息を吐いて、ライセンスを床から拾った。
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名前:ミディア
種族:猫耳族
冒険者ランク:G
力:G
魔力:G
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