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20・冒険者ライセンス

「で、で、で。師匠からなにをプレゼントしてくれるんだい?」


 猫耳がぴーんと立ち、ミディアが興味津々に目をクリクリさせた。


「そうだな……欲しいものを言ってみろ。それで考える」

「良いのかにゃ?」


 そもそもこいつに負けるつもりはなかったので、なにも考えていなかったのだ。


 少しは考えると思ったが、ミディアは目を輝かせて、


「ボク! 冒険者ライセンスが欲しい!」


 と即答した。


「そうきたか……」

「うにゃ。だから、師匠。ボクに冒険者ライセンスをくれにゃ」


 と手を差し出すミディアを見ながら、俺は考えていた。


 成る程。ミディアは冒険者になって一旗揚げたいと言っている。そのためには、クエストをこなす必要が出てくるので、冒険者ライセンスは必須だろう。

 しかし、エビルモンキーにすら手こずっていたミディアを見ていれば、やはり心配になってくる。


 勝手に野垂れ死ね。


 ——そう言えないくらいには、ミディアと長く過ごしすぎた。


「……良いだろう」

「やった!」

「だが、一つ条件がある」

「んにゃ?」


 喜び、小躍りしていたミディアの動きが止まる。


「もし冒険者になったとしても、クエストをこなす時はしばらく俺と一緒だ」

「どうして?」

「心配だからだ。まだお前には一人でクエストをこなす力はない」

「師匠も心配性だね」

「出来の悪い弟子を持つとな」


 肩をすくめる。


 ……って、俺。こいつの師匠であることを受け入れてないか?


 ブンブン。首を振った。そんなわけない。


「むむむ。分かった。しばらく師匠の言うことを聞くよ」


 反発されると思ったが、意外にもミディアは素直に首を縦に振った。


「約束だからな」

「にゃっ。猫耳族は嘘を吐かないにゃ」

「よし。行くぞ」

「どこに?」

「冒険者ギルドだ」


 俺一人では冒険者ライセンスをプレゼント出来ない。冒険者ライセンスとは、身分証明書もかねているため、こいつもギルドに行って手続きしなければならないのだ。


「じゃあ、イヴ。ワッセル。行ってくるよ」

「晩ご飯までに戻ってきてね」

「あんっあんっ」

「うむ」


 最近ワッセルの犬化が激しいなあ、と思いながらギルドに向かった。 




 ハウゼ村の冒険者ギルドは村の中心にある。


 しかし、王都のそれとは随分ずいぶん違い、こじんまりとしたもので都会育ちのヤツが見ると「馬小屋?」とでも言いたくなるだろう。

 ハウゼ村を飛び出してから、久しぶりにギルドへは訪れるので、懐かしい気分になった。


「あっ、ロマンさん!」


 扉をくぐると同時、ギルドの受付嬢が俺の名前を呼んだ。

 ハウゼ村を飛び出したのは二十年も前になるので、こんな若い娘のことは知らないはずだった。


 しかし、その顔を見てピンときた。


「もしかして……アンナか?」

「わっ、覚えてくれてたんだ! 嬉しいなっ」

「昔の面影があるよ」


 アンナ。確かギルド長の子どもであった。

 あの時はまだ小さい……四歳くらいの子どもであったが、時の流れというものは早いものである。もう立派に働ける年齢になっていたとは。


「それにしても、あまりギルドに活気がないように思えるが?」

「うちのギルドはいつもこんなもんですよ」


 冒険者ギルドといったら、冒険者で溢れかえっており時には怒号も飛び交う騒がしい場所であった。

 だが、周囲をグルリと見渡しても誰もいない。閑散かんさんとしているのだ。


「まあ平和ってことだよな」

「そういうことです」


 と受付嬢——アンナはニコッと微笑みかけた。


「それで……ロマンさん。今日はどのようなご用で? あっ、もしかしてクエストですか?」

「いや……今日は冒険者ライセンスを作ってもらいたいんだ」

「ロマンさんSSSランクですよね? ライセンスとっくに持ってますよね? あっ、もしかしてなくしちゃったんですか?」

「俺のじゃない。こいつのだ」

「にゃ」


 ミディアの首根っこを持って、アンナの前に出す。


 アンナはいぶかしげに猫耳を見て、


「えっ、もしかして……猫耳族!」

「そうだ。こいつが冒険者になりたいらしい。だからライセンスを作りにきたんだ」

「お願いしますだにゃ」


 ミディアの後頭部に手を置いて、無理矢理頭を下げさせた。


「は、はいっ! では手続きをしますね。この書面にお名前と年齢、住所等々を書いてくれますか?」

「分かった。ミディア、字書けるか?」

「馬鹿にするにゃー。それくらい楽勝だよ」


 とミディアはペンを取って、差し出された紙にすらすらと文字を連ね始めた。

 偉そうなこと言ってたわりには、かなりの丸文字だ。だが、読めないこともないので黙っておいた。


「住所はどうすればいいんだい?」

「俺んとこの住所でも書いておけ。住所は……」


 時折、質問をはさみながらもミディアは紙を書き終えた。


「出来た! これでボクも晴れて冒険者かい?」

「いえ、後は検査をやってもらいます」

「なんでそんなことしなくちゃならないのにゃ?」

「冒険者ランクを決めるためです」


 ここで改めて冒険者ランクについて説明しよう。


 冒険者ランクはG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSランクと細かく別れている。

 ランクを細かく別けている理由は、冒険者に適正難易度のクエストを行き渡らせるためだ。

 Gランク冒険者がSランククエストを受けても、クリア出来るはずがない(よほどの天才を除いてだ)。

 反対にSランク冒険者は報酬の低いGランククエストをわざわざ受けないだろう。


 ……まあ、パーティーにいた頃はアレックが嬉々としてGランクも受けていたが。


「検査ってのはなにをするんだい?」

「力と、魔力。この二つです」


 とアンナは奥に引っ込み、両手に二つの道具を持ってきた。


「まずは『力試し石』。まずはGランクにセットしますので、これを持ち上げてみてください」


 アンナた受付テーブルに置いた力試し石は、人の両手に収まるくらいの小さな石である。


 懐かしい。俺も冒険者になる時、これで検査をさせられたっけ。


「こんな小さな石……いくらボクでも持ち上げられるよ」


 と言い、ミディアは力試し石を持ち上げ、少しふらついた。


「むむむ……こんな小さいのに、なかなか重いだね」

「ふふふ。侮っちゃいけませんよ」


 アンナがそれを見て、軽く微笑んだ。


「次はFランクです。これを持ち上げたら、Fランクです。さあ、持ち上げられますか?」

「んにゃー!」


 必死にミディアは力試し石を持ち上げようとするが、一向にその気配がない。


「無理だにゃ……」

「はい。あなたの力は『G』です」


 とアンナは書類らしきものに、カキカキとなにかを書き込んだ。


「師匠。どうして、同じ石なのにさっきと重さが違うんだい?」

「セットするランクによって違うんだ。Gが一番軽くて、Fになると少し重い。それで冒険者の力を計る」

「むむむ。でも、Gランクは持ち上げられたから良いとするよ。ぐるる」


 上機嫌にミディアは喉を鳴らした。


 これで満足するとは。向上心のないヤツだ。


「どれ。俺も久しぶりに力試し石を試してみるか」

「ロマンさんですか? ロマンさんだったら、Aランクから——」

「いや、SSSランクからでいい」

「えっ? 本当に良いんですか? 危険ですよ?」

「構わない」


 ミディアは鉄板を敷いた床に力試し石を置いたまま、SSSランクにセットする。


 みしっ。

 鉄板の上であっても、力試し石が床にめり込んだ。


「見るからに重そうだにゃ。いくら師匠でも——にゃー!」


 俺はSSSランクにセットした力試し石を片手で持ち上げてみる。


「うむ。やはりこれくらいでは準備運動にもならないか……」


 石をその場でポンポンと上に放り投げてみた。


 その様子を見て、アンナが慌てている。


「さ、さすがロマンさんですね……歴代のギルド最高がSSランクということでしたが」

「ふうん。それって何年前の記録だ」

「二十年前です」

「二十年前か。丁度、俺が冒険者になった頃だな」


 そういや、今のミディアと同じく力試し石を試してみたら、それくらいまで到達したんだっけな。

 あの頃の受付嬢も「こ、こんなのは前代未聞です!」と驚いてた気がする。


 昔を懐かしみながら、俺は力試し石を元の位置に戻すのであった。


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