表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/23

2・猫耳族を弟子にとる……わけがない

「えーっ! なんでなんでーっ!」

「当たり前だ」


 駄々をこねる少女に対して、俺は一体「なにしてんだ」という気分になった。


 なんでいきなり見知らぬ少女を助けて、「弟子にしてくれ」と言わなければならないのか。

 それにどうして彼女は微妙に上から目線なのだろうか。


 理解に苦しむ。

 目まぐるしく動く展開に、頭がついて行けてなかった。


「そもそも俺はお前の名前も知らない。そんなヤツに、どうしていきなりそんなことを言われなければならないんだ」

「あっ! ごめんごめん、忘れていたねっ!」


 少女は初めて気付いたようにして、胸を張り、


「ボクの名前はミディア! 将来は世界一の冒険者になる!」


 と大きなことをのたまってくれるのであった。


「世界一の……冒険者か……」

「なんだいっ? もしかして、笑うつもりかい? それとも今のうちからサインが欲しいのかい?」

「どちらでもない」


 何故なら——俺も昔はそういうバカみたいな夢を抱いていたからだ。

 ギルドの中でも最高峰と言われている王都で、SSSランクを取ったのだから、ある意味その夢は叶ったと言えるのかもしれない。

 しかし、おっさんとなった今の俺には少女の言葉が輝いて聞こえた。


 それにサインは欲しくない。


「師匠の名前は?」

「師匠と言うな。俺はロマンだ」

「ロマン……聞いたことのない名前だね」


 少女——ミディアが首を傾げた。


戦斧せんぷのロマン』と言われていて、ちょっとは有名なんだがな?

 どうやら、王都から遠く離れたこの地では、俺の名前はとどろいていないらしい。


 ——仕方ないことか。

 俺は顎髭を撫でた。


「師匠はなにをしていたんだい?」

「……故郷の村に向かっていた途中だ。それに、それはこっちのセリフだ。お前みたいな女がこんなところで——」


 そう言葉を発しようとして、途中で止まってしまう。

 何故なら、ミディアの頭から生える特徴的な()()に気付いてしまったからだ。


「ん? ボクの頭の耳が気になるのかい? 猫耳族を見るのは初めてかにゃ?」


 ミディアが猫耳をぴょこぴょこと動かした。


「猫耳族だと……? 嘘は言ってないだろうな」

「嘘を吐く必要がないよ。それにこの猫耳がなによりの証拠さ」


 ぴょこぴょこと猫耳は寝たり起きたりを繰り返している。


 ——猫耳族なんて、初めて見たな。

 長い冒険者生活をしていたら、エルフであったりドワーフであったりと、様々な種族と顔を合わせることになる。


 その中でも、猫耳族と遭遇するのは初めてだ。


 それもそのはず。

 猫耳族は自分達だけが住む村で、一生を過ごすと言われている。

 村から一歩も外に出ず、だ。

 そのため、猫耳族だけが住む『猫耳の村』は、この世で最も発見が困難だとも言われている。


 だが、ここで疑問が一つ生まれた。


「どうして猫耳族がこんなところをほっつき歩いてんだ?」


 ——余計に、ミディアがこんなところにいて、ワイルドボアーに襲われている理由が説明付かない。


 俺が質問すると、ミディアは「ちっちっちっ」と人差し指を動かし、


「なにを言ってんだい、師匠は」

「師匠と呼ぶな」

「冒険者になるためには、外に出ないといけないだろう? ボクは家族の反対を押し切って、冒険者になるため村を飛び出したんだ。実に簡単な話だにゃ」

「……早い話が家出か」

「そうとも言う」


 ミディアが胸を張った。


「猫耳族にしては、なかなか珍しいことをするんだな。そんな話、無駄に長く生きてきたが初めて聞くぞ」

「それはそうだよ。だって、ボクのやったことは猫耳族史上初なんだからね」

「とんでもないことするんだな!」


 俺もパーティーを無断でこっそり抜けたから、ミディアのしていることはとがめられないかもしれないが。


「冒険者になる……ってことは、腕に覚えがあるのか?」

「そりゃそうだよ!」


 とミディアは短剣ダガーを交差させるようにして両手で構えた。


「ボクの剣さばきは、それこそ村で一番だった。村一番のお調子者、と言われていたくらいにゃ」

「奇遇だな。俺も村一番の力持ちなんて言われていたんだ」

「おっ! さすが、ボクの師匠だね」

「どうしてさっきから上から目線なんだ。それにお調子者は褒め言葉じゃないと思うぞ」


 自分の力を過信した若者が故郷を飛び出し、冒険者になろうとする。

 ありがちな話だ。


 そして、何人もの愚かな若者がそうやって命を落としていく。

 故郷で畑でも耕していれば、こんなことにはならなかったのに。


 まあ俺の場合は、上手くいった例であるが。

 ミディアの場合はどっちになるだろう?


 ……どちらにせよ、俺には関係のない話だ。


「こんなこと話しちゃ、夜になっちまう」

「え?」

「じゃあな、猫耳族を見られるなんて貴重な体験をさせてもらった」


 ミディアを置いて、再び故郷の村へと歩き出そうとした。

 しかし。


「えーっ! もしかして、うら若き乙女をこんなところに放っておく気かーい? モンスターに食べられちゃうかもしれないんだよー?」

「腕に覚えがあるんじゃなかったのか」

「にゃー! 今日は調子が悪いから……」


 ミディアが俺から視線を外す。

 ……確かに、こんなところに少女を置いていったら、またすぐにワイルドボアーみたいなモンスターと遭遇してしまうだろう。

 さっき見ている感じじゃ、十中八九やられてしまう。


 無論、ミディアとは今日会ったばかりだ。世話を焼く義理もない。

 だが——。


「関わっちまったもんな……」


 このまま見過ごして、後で少女の死体が見つかっても寝覚めが悪い。


「……付いてきたかったら、勝手にすればいい」


 ぶっきらぼうに言って、ミディアに背を向けた。


「え、え? 良いの良いの?」

「お前の好きにすればいい」

「ありが——つ、付いていくのは当たり前だね! だって、ボクは君の弟子なんだからっ!」


 やはり置いていこうか?

 調子が崩される。

 俺はもっとクールな男なのだ。


「待てよ……手土産の一つでも持っていかなきゃ、イヴに怒られる」


 折角、久しぶりに故郷に帰るのだ。

 手ぶらで帰るのもカッコが付かない。


「そうだな。折角、ワイルドボアーを狩ったし、こいつで良いか」


 ワイルドボアーの毛皮は良質なコートにもなるし、ちゃんと調理すれば豪勢な肉料理も作ることが出来る。

 俺はワイルドボアーを肩に背負った。


「うわっ! そんな大きいモンスターを背負うなんて……! さすがはボクの師匠! すごすぎだよ!」

「これくらい、大したことない」


 ワイルドボアーはミディアの三倍くらいはある。

 しかし俺は昔、何十倍もあるドラゴンを片手で持ち上げたこともあるのだ。

 ワイルドボアーくらいなら朝飯前である。


「ちょ、ちょっと待ってくたまえよ! ボクを置いていかないで!」


 騒がしい猫耳を連れて、俺は故郷へと向かって歩を進めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ