18・きのこパスタ
翌朝。
ワッセルに乗って、ハウゼ村へ向けて出発した。
「疲れたら、今度はちゃんと言うんだぞ」
「あんっあんっ」
今回は途中で何度か休憩しながら、ゆっくりと村に向かった。
ハウゼ村に到着したのは、お昼頃であっただろうか。
「ふう、おつかれさま」
「楽しかったけど、村に着いたらどっと疲れが押し寄せてきたにゃ」
「でもまた行きたいね」
ワッセルから下りて、家の中でぐでーっとする。
「それにしてもお腹空いたな」
「あっ! 丁度、お昼ご飯の時間だしパパッと作ってくるよ」
「大丈夫か?」
「大丈夫! それに、早くパスタ作ってみたいから!」
元気いっぱいの笑顔でイヴは言って、アイテム収納バッグから戦利品を取り出す。
ユニオールで買った食材達である。
「なんか手伝えることはあるか?」
「おとーさん、料理出来るの?」
「まあ、一通りな」
冒険者は無骨で細かい作業が出来ないと思われがちだが、必ずしもそうではない。
ダンジョンに潜った時には、ありあわせの素材で料理しないとやっていけない場面も多々ある。
それに、パーティーを組んでいれば自ずと『料理当番』が決められることもあるだろう。
そのおかげで、簡単な料理なら作ることが出来るようになったのだ。
「じゃあ、おとーさんに手伝ってもらおー」
「おう。任せとけ。ミディアとワッセル、ちょっとだけ待つんだな」
「分かったにゃー」
「あんっあんっ」
ワッセルを枕にして、ミディアが横になっていた。
気持ちよさそうだなあ、と思いつつイヴと台所へ移動する。
「オリーブオイルにベーコン。それにほうれん草に玉ねぎ、にんにく。塩にスパゲティーに——そしてビーフキノコ。とりあえず、今回使う食材はこれだけかな」
台にありたっけの食材を乗せて、エプロン姿のイヴは言った。
「他にも色々と買っていたようだが?」
「それはまたの機会で!」
まあ、アイテム収納バッグの存在もあるし、一度に全て使わなくてもいいだろう。
そういうわけで、俺達は『きのこパスタ』を作り出した。
「おとーさん。私は食材を切っておくから、お湯を沸かしといてくれるかな」
「うむ」
寸胴鍋に水をいっぱい張り、魔導焜炉に火を付ける。
魔導焜炉とは、火の魔法石を利用し火を付けるものである。これがあるおかげで、料理の際に炒めたり焼いたりすることが簡単になるのだ。
俺がなにげなく、水の中に塩を少量入れると。
「え? おとーさん。なにしてるの?」
「なにって……塩を入れてるんだが?」
「水に入れて、どうするつもりなの。塩水を作るわけじゃないのに」
「こうすることによって、パスタにまろやかな塩味を付けることが出来るんだ。王都ではみんな当たり前にしてたけどな?」
「ふうん。王都って進んでるんだね」
興味津々に、イヴは俺の話を聞いていた。
都会では当たり前のこととされていた知識も、まだ田舎では浸透していないのかもしれない。
ぐつぐつと沸いていく水を見ながら、同時にイヴの方にも視線をやった。
「ふふん♪」
食材を切っていくイヴはどことなく上機嫌であった。
トントントン。
リズミカルな包丁の音を聞くと、不思議と気持ちがリラックスした。
「じゃあ、そろそろパスタをお湯に入れようね」
「うむ」
イヴの指示通り、パスタをお湯に入れる。
パスタが食べられるくらいまで柔らかくなるのは、沸騰したお湯に入れて七分後くらい。
その間、イヴはフライパンの上にオリーブオイルを敷いて、にんにくやベーコンを入れてパスタの『タレ』を作っていた。
「良い匂いだな」
にんにくの匂いが食欲をそそった。
「でしょ?」
褒めてやると、イヴは得意気にウィンクをした。
さて、そろそろ仕上げだ。
パスタをタレにからめ、フライパンの上で踊らせる。
途中でほうれん草も入れ、最後の仕上げはスライスしたビーフキノコだ。
「にゃにゃにゃ?」
「あんっあんっ!」
やれやれ、匂いに釣られて台所にミディアとワッセルもやってきた。
「にゃーっ! ボクが試食してあげるよ」
「ダメー! もう少しだから、待ちなさーい!」
つまみ食いしようと右手を伸ばすミディアを、イヴがパンと払いのけた。
しかし——ミディアではないが、確かにつまみ食いしたくなるほど、良い匂いが台所に充満している。
ジュル。
「あれ、おとーさん。今、唾を飲み込んだ?」
「飲み込んでない」
そんなことしていては、(義理の)お父さんとしての威厳がなくなるのだ。
それからほどなくして、特製きのこパスタが完成した。
お皿に人数分取り分けて(もちろん、ワッセルの分もだ)、リビングのテーブルをみんなで囲む。
「召し上がれ!」
「いただきます!」
「あんっあんっ!」
ミディアとワッセルが競うようにして、きのこパスタに口をつけた。
ミディアはフォークとスプーンを器用に使って、ワッセルは直食いだ。
「「!」」
パスタを口に入れた瞬間、ミディアとワッセルの動きが止まった。
そして。
「うまぁぁーい!」
「あんっあんっ!」
タメを作ってから、大きな声でそう叫んだのだ。
顔がとろけきっている。かなり美味だったんだろう。表情からして、それが分かった。
ミディアとワッセルは取り憑かれるようにして、一心不乱にきのこパスタを次々と口に入れていく。
「オカワリは! オカワリはないのかね!」
「あいかわらず食いしん坊ね。はいはい。しばしのお待ちをー」
呆れたような表情をしながらも、イヴは再度皿にパスタを盛って、ミディアに渡していた。
「あんっあんっ」
「ワッセルもね。どうぞー」
「あんっあんっ!」
ワッセルも夢中でパスタをむさぼっている。
「さてさて……俺もいただくか」
いただきます。
小さくそう呟いてから、きのこパスタに手を付ける。
「……!」
……旨い!
ビーフキノコとパスタを一緒に口を入れると、素晴らしいハーモニーを奏でるではないか。
にんにくの香りもアクセントとしてよく効いており、一度口にしてしまえば止まらないほどであった。
ミディアとワッセルが虜になるのは仕方ない。
「おとーさん、どうどう?」
イヴがテーブルから乗り出して、俺に感想を求めてくる。
そんなもの——決まっているだろ。
「最高だ」
「やったー!」
イヴが両手を上げて、喜んだ。
うん。村から出て、遠いところに買い物に行った甲斐があった。
またみんなと行こう。




