17・一泊することにしました
その後、当初の目的であるパスタを作るための、材料を探し回った。
「おとーさん! 見て見て−、こっちにも美味しそうなものが!」
料理好きなイヴにとったら、市場のものが金銀財宝の山に見えるのだろう。
きゃっきゃっはしゃぎながら、イヴは市場を走り回っていた。
「これも買いたい……でも、これも……ああ、どうしよう! お金が足りない!」
「買いたいものは全部買えばいい」
「え?」
「お金なら大丈夫だ。王都にいた頃に、たんまり稼いだから」
そう言って、イヴの頭をくしゃくしゃ撫でてやった。
「……うん! ありがとう、おとーさん!」
にぱーとイヴは笑顔になった。
それを聞いたイヴは、さらに浮き浮き気分となって、材料を探し出した。
イヴにはなかなか構ってやれなかったからな。
折角、仕事を辞めて田舎に戻ってきたのだ。これからは、イヴはずっと笑顔でいて欲しい。
「これもっ、これも美味しいね!」
「あんっあんっ」
イヴは一生懸命食材を探している間、ミディアとワッセルは食べ歩きをしていた。
ミディアが串にソーセージを刺して焼いたものを食べている。確か、フランクフルトという名前だったか。
それにしても、ワッセルもなかなかの雑食だ。コロッケといい、なんでも食べる。
「……美味しいか?」
イヴとは違い、遠慮の欠片もないミディアを見かねて、そう問いかけた。
「とても美味しいにゃー!」
とミディアは頭を下げた。
ほっぺに食べ物が詰まって、ぷくーと膨らんでいる。
ミディアとワッセルも口の周りに、食べ物のカスが付いていた。
「……まあいっか」
これだけ美味しそうに食べてくれるなら、俺も気持ちがいいので良いとしよう。
——やがて、いっぱい食材を買って、買い物も一段落がついた。
「買いすぎちゃった」
ペロッとイヴが舌を出す。
「気にしなくていい。全部買え、って言ったのは俺の方だからな」
「おとーさん、そんなに持って重くないの? ごめんね」
「全く重くない。それに、最近運動不足だ。これくらい、なんなら丁度良い」
イヴの欲しいと思っているものを全て買ったため、俺の両手は荷物でふさがっている。
二つで四人分くらいの重さになるだろうか。
だが、なにも持たないのも気持ちが悪い。これくらい、腕の負担があった方が体調が良くなるのだ。
「師匠はやっぱ力持ちだにゃー」
「あんっあんっ」
「お前も筋トレを続けていれば、これくらいにはなれる」
「ボ、ボクがかねっ! ボクはそういうの目指してないから。スピードで相手を翻弄するんだ」
「そうか」
あえて否定しなかった。
荷物の重さはどうでもよかったが、人混みのせいもあって、かなり歩きにくかった。
落ち着いたところで、アイテム収納バッグになおそう。
「そうだな……今日は疲れたし、宿屋で一泊するか」
折角、ここまで出てきたんだから、日帰りというのもつまらないだろう。
俺がそう言ったら、二人は目をキラキラさせて。
「「賛成!」」
と手を上げた。
「あんっあんっ!」
ワッセルも尻尾を振っている。どうやら、魔狼であろうともさすがに疲れているらしい。
「ここなんかどうだ?」
市場から離れたところに、大きい建物があった。
看板には宿屋と書かれている。ここなら、三人(と一匹)を泊められる部屋もありそうだ。
俺はワッセルも連れたまま、宿屋へと入る。
「いらっしゃいませ! 宿泊でしょうか?」
宿屋の主人らしき人が、笑顔で迎えてくれた。
「ああ。一泊したい。ここはペットも宿泊可能か?」
「はいっ。もちろんです……ですが、ただいまお客様の人数を泊められる部屋に空きがない状態でして」
「なんと」
「ただ、大きいベッドがある一つだけある部屋があります。そのベッドに三人揃って寝れば、泊まれないことはないですが……どうしましょう?」
それを聞いて、俺はミディアとイヴに視線をやった。
どうやら二人は「俺に任せる」といった模様。
「仕方ない。宿屋を探し回るのも疲れる。それでいい」
「はいっ! ありがとうございます!」
その後、受付に通され『宿泊カード』に名前を書いた。
「……ロマン……? も、もしや……! あなた様は王都で名高い戦斧のロマンではありませんか!」
周りの人が騒ぎ出さないように声を潜めてくれているが、宿屋の主人は興奮を抑えられないといった具合。
「ああ」
隠す必要もないので、肯定する。
「やっぱり……まさかSSSランク冒険者が、私の宿に泊まりにきてくれるとは! 休暇中ですか?」
「まあそんなところだ」
「不躾ですが、後で別にサインをください!」
「構わんよ」
サインくらいなら、いくらでもしてやるさ。
宿泊カードを書き終えて、俺達は三階にある端っこの部屋に通された。
「なるほど。確かに大きいベッドが一つだけだ」
二人はともかく、俺は自分の体がかなりでかいことを自覚している。
それでも、三人くらいならなんとか眠れそうだ。
問題は……。
「ワッセル。もう少し小さくなれるか?」
『無理だ。これ以上はいくらわれでも小さくなれない』
ワッセルに質問してみると、そう首を振られた。
俺とミディア、イヴくらいなら一緒のベッドで寝られるが、ワッセルも入れると途端に窮屈になってしまうのだ。
「仕方ない。俺は床で寝るか」
「おとーさん、ダメだよ! そんなことじゃ疲れが取れないよ?」
「そうだよ。弟子のボクがベッドで寝て、師匠が床でなんておかしいよ」
別に床で寝ることくらい、なんとも思ってない。
それに、宿屋の床は清潔で真っ平らだ。
ダンジョンに入ると、汚くてゴツゴツした地面の上で寝なければならないことも多々ある。
なんなら、立ってでも寝られるようにしないと、SSSランクの冒険者としてはやっていけなかった。
『主を床で寝かせるわけにはいかない。気にするな。ここはわれが床で寝よう』
とワッセルが言って、床の上で丸まった。
「……仕方ない」
ここはみんなの好意に甘えさせてもらおう。
「あんっ?」
俺はワッセルを片手で持ち上げ、ベッドの上に放り投げる。
「ちょっと窮屈だけど、みんなで一緒に寝よう。それが良い」
「「うんっ!」」
「あんっあんっ!」
消灯して、みんなと体をくっつき合わせて目を瞑る。
ぷにぷにとしたミディアとイヴの体が密着していた。やれやれ、いくら窮屈でもここまで密着しなくてもいいわけだが。
右手の下くらいには、ワッセルのもふもふした感触がある。
寝付くまで、ワッセルの毛並みでも撫でておくことにしよう。
『主……』
「なんだ?」
ミディアとイヴが寝息を立て出した頃、ワッセルに呼ばれた。
『先ほど、気になることがあった』
「ん?」
『われはペットではない。主をお守りする従者なのだ』
「分かってるよ。おやすみ」
「あんっあんっ」
朝まで熟睡出来ました。




