15・盗賊団をこらしめました
森を横断しきったのは一時間後くらいだろうか。
森を出て、広い道になってもユニオールに向かって、魔狼はひたむきに走っていた。
「速いねー」
肩の上でミディアが言った。
「ミディア、しんどくないか?」
「にゃ? どうして?」
「だって、そんなバランスの悪いところにいるから」
「猫耳族のバランス感覚を舐めないで欲しいね。この上で寝ることも可能だよ」
「そうか」
ミディアは機嫌良さそうに鼻歌も口ずさんだりしている。
「イヴは?」
「イヴも大丈夫。それよりも……ワッセルは疲れてないのかな?」
後ろで、イヴは俺の腰くらいを必死につかんでいた。
イヴから心配そうな声が発せられた。
「ワッセルか……ワッセルは大丈夫か?」
「あんっあんっ」
走りながら、ワッセルが鳴く。
「どっちなんだ」
『われは誇り高き魔狼である。こんなもんでへこたれたりしないのだ』
「そうか」
『むふー』
ワッセルが鼻息を荒くして、地面を蹴る力を強くした。
風景が前から後ろに流れていく。
平凡でだだっ広い平原が広がっている光景も、走っているワッセルの上に乗っているだけで刺激的に思えた。
「はっ、はっ」
ん?
ワッセルの息が、苦しそうになってきたぞ。
「ワッセル。やっぱりしんどいんじゃないのか?」
「…………」
ワッセルから答えは返ってこない。
心なしか、走る速度も少し弱まったように感じる。
「ワッセル。しんどいなら、一回ここで休憩しよう。ここまで飛ばしすぎたし」
『……大丈夫だ。われは誇り高き犬なのだ』
犬って言っちゃってる。
これは相当足にきてるな。
「ワッセル、止まれ。やっぱりここらへんで休憩——」
と言いかけた時であった。
「ん、ん? 師匠。あれはなんなのかね?」
「おとーさん、前の方で馬車が止まってるよ?」
そう二人から声を発せられたのはほぼ同時であった。
ワッセルから目を離し、前を見る。
すると——確かに、イヴの言った通り馬車が道の途中で止まっていた。
さらには、馬車を五、六人くらいが取り囲んでいる。
俺達は疑問に思い、馬車の少し前で停止した。
「ぬおっ! なんだ、てめえらは!」
馬車を取り囲んでいる人物——男達が一斉にこちらを向いた。
「そんなところでなにをしている?」
「た、助けてください! この人達は盗賊です!」
馬車から一人の女性が顔を出し、そう言った。
「て、てめえ……余計なことを言うんじゃねえ!」
男が刃を女性に向ける。
「へっへへ。だが、金目のものが増えたんだ。丁度良い」
「おい、にいちゃん。ここに有り金全部置いていきな」
「その女共もこちらで預からせてもらう。娼婦に売れば……じゃなくて、子ども二人も世話して旅するのは大変だろ?」
ゲスめいた笑みを浮かべながら、男達の何人かが俺に刃を向けてきた。
ふむ——どうやら、こいつ等は盗賊みたいで往来している馬車を襲っていた途中だ、と。
そこに俺が現れたので、ついでに金目のものと女を奪おう、と。
なるほど。とても分かりやすい。都会にいると誰が敵で誰が味方なのか分からない、というような事態にも遭遇したこともあるが、それとは違い非常に分かりやすかった。
「助かった……」
だから、つい声を漏らしてしまう。
「ああん?」
男の一人が眉間にしわを寄せ、すごんできた。
「おとーさん……」
「師匠が出る幕もないよ! ここはボクに任せておきたまえ!」
イヴが俺をつかむ力を強くし、ミディアが後ろに隠れながらそう息巻いた。
子ども達を怖がらせるとは。
ちょっとお仕置きだ。
俺はワッセルから降り、巨斧『ダナロッグ』を手に持つ。
「ん? なんだ、そのでっかい斧は?」
「その斧……も、もしや! 王都で噂になっている戦斧のロマン……」
「もう遅い」
俺は両手で巨斧を持ち、そいつらの中心に入って、グルリとその場を回った。
「旋風破打」
「「「「「ぐぉぉぉおおお!」」」」」
斧によって宙に舞い上がり、吹っ飛ばされる男達。
やがて地面に叩きつけられ、一発の斧技で立ち上がれなくなった。
「歯ごたえのないヤツ等だ」
俺はそう言って、巨斧を背負い直す。
「おとーさん!」
呼ばれ、後ろを振り返ると——男の一人がイヴを抱え、刃を顎下に引っ付けていた。
「お、斧を地面に落とせ! も、もし反抗的な態度を見せた場合は、このちっこい女を殺る!」
どうやらイヴを人質に取っているらしい。
「一人……どっかに隠れていたか……」
ここまで馬鹿なヤツ等だったとは。
俺が背中を気にせず戦っていたのは、もう一人——いや、一匹戦えるヤツがいたからだ。
「ワッセル。手加減しなくていい」
「わおーん!」
「ぬおっ! なんだ、この犬は! ま、魔狼——ぶはぁっ!」
ワッセルが背後から男に近付き、服を噛んで持ち上げた。
そのまま、ぶるんぶるんと男を振り回すと、そいつは目を回して気絶してしまった。
『たわいもないヤツだ。むふー』
動かなくなったそいつを降ろし、誇らしげに鼻から息を出したワッセル。
「よしよし、よくやったワッセル。イヴも大丈夫だったか?」
「うんっ! ワッセル、やっぱり強いのね!」
「あんっあんっ」
ワッセルの顎下を撫でてやり、イヴも頭をくしゃくしゃ撫でてやった。
「ボクの師匠も最強だね! ボクが戦う前に、もう男達を倒してしまうとはね!」
この中で、一番偉そうにしていたのはただ隠れていたミディアであった。
「ほんっっっっとにありがとうございます……!」
どうやら、馬車はユニオールに向かう途中だったらしい。
馬車の中には、何人かの商人がいて、その道中に先ほどの盗賊に襲われてしまったらしい。
ちなみに、盗賊共は縄でくくっている。このままユニオールに届けて、しっかり罰を受けてもらうのも良いだろう。
「私達に出来ることであれば、なんでもお申し付けください! あなた達は命の恩人ですから!」
「そうだな……」
そう言われたら、好意に甘えさせてもらおう。
「俺達をユニオールまで乗せていってくれないか?」
盗賊共をユニオールに届けるにしても、万が一途中で暴れ出したら大変だ。
それに、俺達を乗せて疲れていたところだ。大分ユニオールにも近付いたのだ。ここからは馬車でのんびり行くのも悪くはない。
「もちろんです! それくらいなら、お安いご用です!」
「助かるよ」
さて……。
馬車の中は広いので、俺達と盗賊共は軽く収納出来る。
しかし、ワッセルはちょっと厳しいか。
「くぅーん?」
「ワッセルがもう少しちっちゃくなれたらな」
『ちっちゃく? それくらい、朝飯前だ』
そう言ったワッセルの体が見る見るうちに小さくなっていく。
やがて、中型犬くらいのサイズになって、
『戦闘力は落ちるが……これくらいまでならちっちゃくなれる』
「魔狼ってやっぱり凄いんだな」
『誇り高き存在であるが故。むふー』
でも、これで一件落着だ。
その後、俺達(とワッセル)は馬車に乗ってゆっくりユニオールを目指した。




