14・街に買い物に行こう
「ふうー、良いもん食ったな」
「もうお腹いっぱいだにゃ」
ミディアがお腹を押さえて、地面の上で横になっていた。
「食べた後にすぐ横になると、牛になるぞ」
「牛に?」
「ああ」
「ボクは猫だ! そんな横になったくらいで、牛になんかなるわけがない!」
寝転びながら、ミディアが声を荒げる。
「そんなことはない。現に、それで牛になってしまった者を俺は何人か見たことがある」
昔、たまたま寄った街の領主がそれだった。
男は金に任せて、ありとあらゆるものをむさぼった。そして運動もせず、食後はすぐに昼寝をかましていたのだ。
その結果、男に会うたびに彼のお腹はどんどん膨らんできた。そして今では、造りがしっかりしている椅子に座ってもミシッと音を立てる。
そして、彼はさらに運動をしなくなる……負のスパイラルだ。
その姿はまさに牛そのものなのかもしれない。
ということを、ミディアに話した。
「にゃ、にゃんだとー!」
すると——ミディアはピョンと飛びはね、すぐに立ち上がった。
「なんて恐ろしい魔法なんだ……都会には人を牛にしてしまう魔法もあるなんて……」
「そうだ」
「さすが師匠、物知りだね」
「師匠と呼ぶな」
細かいところ勘違いしているみたいだが、これでミディアが将来困ることがなくなると思えば、安いもんだろう。
肥満は大病のもとだ。痩せすぎるのも問題ありだが、今のミディアの体型なら標準体型よりちょっと細いくらい。
わざわざ太らせることはしなくていいのだ。
「それにしても、一気にビーフキノコを食べてしまって、少しもったいない気がするな」
村の人達におすそわけしたので、あれだけあったビーフキノコがすっかりなくなってしまった。
「あら。ちゃんとまだあるよ、おとーさん」
「え?」
イヴがそう言って、掲げた手には一本のビーフキノコがあった。
「森で採れたものは、みんなものとはいえ、イヴが見つけたんだからね。一本だけ残しておいたの」
「……でかした!」
思わずイヴの手を握ってしまう。
それほど、ビーフキノコは美味なのだ。
「でも……今度はこのキノコを使って、もっと別のものを作りたいの」
「というと?」
「きのこパスタでも作りたいな、って思って」
「……! それは良い!」
ビーフキノコはただ焼いて食べるだけでもとても美味しいが、折角ならちゃんと調理したものも食べてみたい。
「楽しみだにゃー」
お腹いっぱいって言ってたくせに、ミディアが耳をピーンと立て、近付いてきた。
「猫耳娘はダメ! おとーさんとイヴで食べるんだから」
「がーん」
ミディアが分かりやすくらいに肩を落とす。
「イヴ。そんないけず、言ったらダメだ。ミディアにも食べさせてあげなさい」
それに、みんなで食べた方がやっぱり美味しく感じると思うからだ。
「おとーさんがそう言うなら……」
「良い子だ」
俺はイヴの頭を撫でやった。
「えへへ」
イヴが嬉しそうな顔をした。
「でも、パスタを作るにはちょっと材料が足りないの。オリーブオイルも切れてたし……」
「どうせ作るなら、ちゃんと作りたいよな」
「うんっ。けどオリーブオイルを買うためには、近くの街まで行かなきゃならなくって」
「なんて街だ?」
「ユニオール」
ユニオール……か。
王都ほどじゃないけど、なかなかに大きい商業都市だったような気がする。
そこだったら、イヴの望むものも手に入るだろう。
お金なら心配ない。
冒険者時代の貯金が、まだ残っているからだ。
「じゃあ早速行こう」
「どうやって?」
「……歩いてだが」
「ここからユニオールまで歩くと、丸二日かかっちゃうの。だから、一ヵ月に一度定期的に来る馬車に乗るんだけど……」
ああ、そういえばハウゼ村に帰ってくる時も、馬車は途中までしか出てこなかった。
俺は丸二日歩こうが、全くこたえない。
パーティー時代に一週間寝ずにまるまる歩かされた経験もあるからだ。
しかし。
「丸二日なんてとてもじゃないけど歩けないよ!」
「それに、村の外はモンスターや盗賊もいて危険だしね……」
二人にその気はないらしい。
ミディアとイヴに万が一でも危険が及んだらダメだろう。
「馬車ってのは次はいつに来るんだ?」
「最近来たばっかだから……三週間後かな」
「三週間か。じゃあ待つしかないか」
ちょっと長いような気もするが、これも美味しいきのこパスタを食べるためだ。
「あんっあんっ」
そう思っていたら、隣でワッセルが鳴いて俺の服を口で引っ張ってきた。
「どうした、ワッセル?」
『なにを心配している。われがそこまで乗せていってやるのだ』
「え……良いのか? 結構距離があるみたいだぞ」
『われは魔狼なのだ。人の足で二日かかる場所など、二時間もあれば十分だ。むふー』
そう言って、ワッセルが鼻息を荒くする。
「……その言葉に甘えるか。じゃあ……行くのは、俺とイヴだけでいいかな」
「うん! おとーさんと街まで買い物デートしたい」
イヴが目を輝かせる。
話がまとまりかけていたが、
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ! ボクを置いていく気かい?」
ミディアから「待った」がかかった。
「まあそうなるな」
「薄情者!」
「そう言うな。ワッセルに乗れる定員は二人までなんだから」
ワッセルの体格的に、三人並んでまたがるのは少々無茶な気がする。
二人だけで行かせるのは却下だ。こんな可愛い子達だけで、商業都市に行かせられない。治安の悪い場所もあると思うしな。
「嫌だ嫌だ嫌だ! ボクも行くんだにゃー!」
しかし、ミディアが地面で地団駄を踏み出した。
「わがまま言わないでくれよ」
『われは一向に構わないぞ。その猫耳娘分の体重が増えたところで、大して変わらん』
「そういう問題じゃないんだよ……ん? そうだな」
閃いた。
……少々危険かもしれないが、試してみる価値はあるだろう。
「ミディア。だったら——」
結局、ワッセルには俺が先頭でその後ろにはイヴが乗った。
「えへへ、おとーさんの背中大きくて安心する……」
イヴが俺の体の前まで腕を伸ばし、しっかりとしがみついている。
「行けー、飛ばしたたまえー!」
そして——俺はミディアを肩に乗せていた。
「ミディア。しっかりバランス取れよ。危なくなったら、すぐに言うんだ」
「ボクを誰だと思っているのかね? ボクは……猫耳族だよ!」
そう言って、ミディアが俺の頭をパンパン叩いてくる。
俺のことを馬かなにかだと思っているのだろうか?
『よし、出発するぞ』
「頼む」
地面を蹴って、ワッセルが疾走する。
少し気を遣ってくれてるのか、さきほどよりも速度を落としている。
しかし、初めてだったら十分恐怖を覚える速さであった。
「行け−行けー、もっと飛ばせー!」
それを受けても、ミディアはバランス崩すことなく、俺の肩の上ではしゃいでいた。
やはり、ミディアは力はないもののバランス感覚に優れているようだ。
風を切って、森の中を突っ切る。
こうして今日もまた、多くの謎に包まれている猫耳族の生態が分かったのである。




