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12・ビーフキノコを採ろう

 一通り、ワッセルとのドライブを終えて。


「ワッセル、ありがとう。疲れてないか?」

「あんっあんっ」

「そうか」


 大丈夫のようだった。


「じゃあミディア、イヴ……お昼ご飯でも食べよ……ん?」

「…………」

「イヴ。どうしたんだ。難しい顔をして」


 イヴが顎に手を置いて、俯き加減になって黙っている。


「……ワッセル。もう一度、乗せてくれない?」

『む。われは別にいいが』

「どうしたんだイヴ。もうワッセルも疲れてるんだ。今日のところは終わりにしてあげな」

『魔狼はこれくらいでは疲れないのだ』


 そうは言っても、やはり気を遣うものだ。


 しかし。


「おとーさん、一つ気になることがあるの。だから、ね。もう一度だけ」


 とイヴは引き下がらなかった。

 ワッセルに向かって、手を合わせてお願いをする。


「気になること?」

「うん。さっき、森の中を走っていたらとってもすっごいものを見つけたような気がしたんだ」

「そんなのあったか?」

「おとーさんには分からないかもね。でも、イヴの考えが合ってれば、おとーさんも喜ぶと思うよっ」


 ウィンクするイヴ。


 うむ……ワッセルの方を見た。


「あんっ! あんっ!」


 尻尾を振っている。まだまだ元気そうだ。


「……ワッセルもそう言ってるみたいだし、後一度だけだぞ」

「うん! ワッセル、おとーさんありがとー」


 ワッセルにイヴが飛びついて、ぎゅーっと抱きしめた。


「しかし、俺も一緒について行く」

「ボクも! ボクも行くよ!」

「ダメだ。定員オーバーだ」

「がーん」


 こうして、再びイヴを後ろに乗せてワッセルにまたがった。


『……お主が行く必要あるか?』

「あるんだ」


 俺だって、さっきの風を切って走るような感覚が忘れられないのだ。




 しばらく森の中を走った時であった。


「あっ、ワッセル。ここで止めて」


 急にイヴが、後ろでそう声を上げた。


「あんっ」


 ワッセルがずざざと停止し、まずはイヴから降りた。


「やっぱり……」

「どうしたんだ?」


 続けて俺も降り、後ろからイヴを覗き込んだ。

 どうやら、イヴは木の幹の前で座り込んで、地面を見ているらしかった。


「これ」


 イヴが指を差す。


「ん? キノコじゃないか」


 キノコのかさが、ふかふかの地面からひょっこり顔を出している。

 それがぽつぽつと、何個か同じようなものがあった。


「まさか、これが生えてるなんて……」

「キノコなんてそんな珍しいものではないだろう?」

「おとーさん、これはただのキノコじゃないよ。キノコはキノコでも、ビーフキノコだよ」

「ビーフ……キノコ……?」


 長く冒険者をやって来て、キノコや薬草には詳しいつもりであったが、そのような名前は初めて聞いた。


「うん。かなり貴重よ」

「貴重……なのか?」

「かなり、ね」


 心なしか、イヴの声が震えているように聞こえる。


「どうして、こんなどこにでもあるようなキノコが?」

「ビーフキノコはキノコでありながら、牛肉のような味がするのよ。焼いたら匂いも良くて、かなり美味なことから、世界中の美食家がビーフキノコをこよなく愛している」

「まるで文献をかじったような言い方だな」

「本読むの好きだからね」


 えっへん、とイヴが胸を張った。


「よくこんなの見つけたな」


 ワッセルが走っている速度はなかなかのものだ。

 これでも、手加減してくれてるとは思うが、バランスを取るのが慣れるまで難しく、振り落とされないようにするだけでも精一杯だった。

 その中で、こんな小さく生えているキノコを見つけるイヴの動体視力って……。


「おとーさん!」


 力強く、そして大ききな声で名前を呼ばれる。


「王都暮らしが長いおとーさんは忘れてるかもしれないけど、イヴ達村人にとったら、こーいう自然から採れるものって大事なわけ! だから、いつでも目を光らせておかないと……」

「村人だからこそ、気づけたってわけか」

「そうよ。ここの付近を通った時、ビーフキノコが光り輝いて見えたんだ

 そう語るイヴは、どこか誇らしげであった。

 俺も昔は、自然の中で発動する『勘』みたいなものが冴え渡っていたのかもしれない。


 しかし——緑が少ない王都で暮らしていくうちに、そういうのが知らず知らずのうちに衰えたかもしれないな。


「あんっあんっ」


 そのやり取りを見て、ワッセルが短く鳴いた。


「……じゃあ、かなり美味しいならさっさと取ろうじゃないか」


 帰って、ミディアのヤツにも食べさせたら喜ぶだろう。


「ちょっと待って、おとーさん」


 だが、ミディアが手で制す。


「ん?」

「このビーフキノコはね、地面の奥までしっかり根を張ってるの」

「ということは?」

「並の力じゃ引っこ抜くことが出来ない、ってこと」


 試しにビーフキノコを軽く引っ張ってみた。

 うむ……確かに、イヴとかのか弱い女の子の腕じゃ引っこ抜けそうにない。


「だったら、キノコの柄を切ればいいじゃないか」


 わざわざ根ごと引っこ抜かなくても、十分なのだ。


 しかしイヴは首を振り、


「うんうん。それもダメ。このビーフキノコはかさのところじゃなくて、柄にぎっしり油が旨味が詰まってるの。丸々一本として引っこ抜かないと、意味が少ないよ」

「なるほどな」


 地面からキノコのかさがひょっこり顔を出しているだけだが、それ以外のところに旨味がある。

 だから途中で切って、かさの部位だけ手に入れるのではダメだ、とイヴは言っているのだ。


「じゃあどうすればいいんだ?」

「力尽くで食べるのは不可能って言われてるわ。だから、魔法でも使わないとダメなんだけど——」

「ふんっ」


 イヴが色々言ってる間に、今度はちょっと力を入れてビーフキノコを引っこ抜いてみた。


「おっ、引っこ抜けたぞ」

「…………」


 根ごと、ビーフキノコを引き抜くことに成功した。

 根はかなり長かった。変な形をしてるし、ずっと見てると気持ち悪さも感じた。


「……おとーさん、あいかわらず馬鹿力だね」

「まあ、いつも鍛えてるからな」

「ビーフキノコを力尽くで引っこ抜く人なんて、初めて見たし聞いたよ」

「そうけなすな」

「褒めてるの」


 うむ。


 ビーフキノコを引っこ抜くと、途端に焼いた牛肉のような香ばしい匂いが鼻まで届いてきた。

 引っこ抜いただけでもそうなのである。焼いてみたら、どれだけ良い匂いがするのだろうか。

 それとお酒を合わせるところを想像するだけで、口の中でヨダレが出てきた。


「じゃあ残りのものもさっさと引っこ抜くぞ」

「うん」


 それから同じ手順で、そこにあるビーフキノコを全部引っこ抜く。


「丁度、三十本か」

「ビーフキノコがこれだけあるなんてすごいすごい!」


 イヴが嬉しそうに手を叩いた。


 ……さて、良いものも手に入れたし、急いでハウゼ村に帰るとしよう。


「あんっあんっ」


 ワッセルもビーフキノコを食べるのが楽しみなのか、声を弾ませた。

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