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10・筋トレをしよう

「ほんと、もふもふね」

「もふもふは気持ちいいんだにゃー」


 魔狼をペットにして、ミディアとイヴは早速撫でだした。

 ミディアとイヴは魔狼をもふもふして、顔がとろけきっている。

 終わらないもふもふを受けて、


「くぅーん……」


 魔狼がこっちを見て、情けなさそうに鳴いた。


「……頑張れよ」


 俺は一言そう口にして、その場を後にする。

 まだ寝る前の日課をやっていなかったのだ。


 もふもふの邪魔をしてはいけないと思い、俺はそのまま外に出た。


「もうみんな寝てるのかな」


 深夜近い時間帯になっているはずだ。

 王都では夜遅くなっても人で賑わっていたが、ハウゼ村では人っ子一人見当たらない。

 ならば、好都合だろう。


 俺は近くの木の枝にぶら下がって、懸垂けんすいを始める。


「一……二……三……」


 そう——寝る前の日課とは筋トレのことである。

 こればっかりは、毎日やらないと体がむずむずするのだ。


「百……百一……百二……」

「師匠、師匠。なにしているのかね?」

「百三……お前、もふもふしてたんじゃなかったのか」


 気付くと、ミディアが家から出てきて、俺を不思議そうな顔で眺めていた。

 意識はそっちに向けるものの、懸垂を止めずに続ける。


「師匠が急にいなくなるものだから、もふもふは一旦中止だにゃ」

「百十……イヴはなにをしている?」

「あの女なら、まだもふもふしているんだにゃ。もう、あいつは子どもなんだから」

「百二十……お前も大して変わらないだろうが」

「にゃー」


 懸垂が二百回を超えたあたりで、俺は手を離し地上に降り立つ。


「そうだ、お前は冒険者になりたいんだろ?」

「にゃ?」

「だったら、筋肉は大事だ。お前も俺と一緒に筋トレするか?」

「…………」


 むっ、何故だかミディアの体が固まった。


「……ボクが?」

「そうだ」

「ボクみたいなか弱い美少女が?」

「美少女だろうとなんだろうが筋肉は大事だ。か弱いならなおさらだな」

「…………」

「嫌なのか?」

「地味な訓練は嫌いだにゃ」

「やれ」

「あっ、はい」


 一睨みしてやると、ミディアは嫌そうな顔をしながらも木の枝に向かってジャンプした。

 やはり猫だ(正しくは猫耳族だが)。

 さっきまで俺がぶら下がっていたところまでは、結構な高さがあったが簡単にそこまで届くことが出来た。

 跳躍力には目を見張るものがある。


「…………」

「ん? どうした。早く始めんか」

「……もうこれで限界だにゃ」


 なんだそりゃ。

 ミディアは枝にぶら下がったままで、そのまま腕を曲げる動作をしそうにもない。


「頑張れ」


 ピクピクと両腕が震えている。


「にゃー」


 やがて、諦めたのかミディアはパッと手を離し地面に着地した。


「もう腕がジンジンするよ」

「一回もやってないと思うがな」

「君もなかなかスパルタだね」

「俺のどこが?」

「ボクにとったら、スパルタなんだよ」

「……お前にはまだまだ懸垂は早かったかもしれないな。もう少し簡単な筋トレから始めようか」

「そうしようそうしようっ」


 俺はそう言って、地面に両手を付けた。


「腕立て伏せくらいは知ってるよな?」


 ミディアも並んで、俺と同じ体勢となる。


「もちろんだよ。猫耳村の定期体力測定でも、よくやらされていたね」

「そんなのあるのか」

「ふふふ、驚くことなかれ。そこでボクは同世代で八番目の成績を収められたんだ!」

「良いのか悪いのかよく分からん。そんなことより、さっさと始めるぞ」

「あっ、はい」

「ペースはお前に任せる。とりあえず、百を目標に頑張れ」

「ひゃ、百っ? そ、そんなのできっこ——」

「一、二、三、四、五……」


 ペースは自分次第としたのは、こいつに合わせたら目標数に達成する前に朝になっちまいそうだからだ。


 俺は高速で腕立て伏せをして、着々と数字を伸ばしていく。


「三百一、三百二、三百三……」


 始めてから()()が経過した頃であろうか。


 気になって、俺はチラリとミディアの方を見た。

 三十回くらいはこなしてるだろうか?


「ぐぐぐっ、三……よ、四……」


 ——まだ十回にも到達していなかった!


 遅すぎる。それどころか、ミディアの顔は真っ赤になっており、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。


「ご、五……にゃーっ!」


 あっ、崩れ落ちた。

 ミディアは仰向けになって大の字になり、「はあっ、はあっ」と息を荒くした。


「が、頑張ったよ……ボクは。もう限界だ。良い運動をしたにゃ」

「そうか、よく頑張ったな」

「にゃー」


 ミディアは満足そうな顔をしていたので、これ以上なにも言うまい。


「二千、二千一、二千二……」

「師匠。どこまでやるつもりかね?」

「三千一、三千二、三千三……一万回だ」

「い、一万っ! どうして、そんなにやるのかね!」

「四千一、四千二、四千三……いつもの日課だからな」

「師匠はこれを毎夜繰り返しているというのかね……」

「五千一、五千二、五千三……ん? これが終わったら、次は腹筋一万回をやるぞ」

「…………」


 絶句しているミディア。

 こんなので驚いてもらっちゃ困る。


 なんせ、若い頃はこの三倍——三万回は優にノルマと課していたのだから。


「九千九百九十九……一万……うっし」


 腕立ては終了。


 次は腹筋を始めるとしよう。


「ミディアもやるか?」

「……見学する」

「そうか」


 人に見られながら筋トレをするのは、少々やりにくいが、出来ないことはない。


 横でじーっとした視線を向けられながら、俺は腹筋一万回を始めた。




 それから、一時間くらいが経過した後だろうか。


「ふうーっ! やっぱり、運動で良い汗かくというのは気持ちいいものだね!」

「お前はほとんど見てただけだろうが」


 一通りのメニューを終え、家の中へと戻ってきた。

 すると、リビングの真ん中で。


「すうーっ、すうーっ」


 イヴが魔狼を枕にして、安らかな寝息を立てていた。


「むっ、ずるい!」


 それを見て、ミディアが怒った様子で大股で魔狼に近寄る。


「ボクもここで寝るんだにゃー!」


 魔狼の体にダイブ。


「うにゃーっ、うにゃーっ」


 その瞬間、ミディアもイヴと並んで気持ちよさそうに寝だした。


「……寝るのは早いんだな」


 まあ、起こすのは止めておこう。おとなしいのに、わざわざ起こすのも愚策である。


 そう思いながら、俺は自分の寝室へと向かった。

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