1・200連勤にブチギレました
200連勤を達成した夜、とうとう限界を迎えた俺はパーティーからこっそり抜けることにした。
◆ ◆
みんな寝静まっている夜、宿屋から抜け出して一週間が経過しようとしている。
俺はまだ暗いうちから、馬車で王都を出発し、故郷へと向かっていた。
「今頃、みんな俺のこと捜してるかな……」
馬車に揺られながら、俺は横になってパーティーのことを思い出していた。
俺が「冒険者になる!」と言って、田舎を飛び出したのは二十年も前になる。
旅をしていくうちに、俺は王都に辿り着いて、気の合うヤツ等とパーティーを組んだ。
パーティーを組んだ方が、大規模なクエストもこなすことが出来、早く成り上がることが可能だと考えたからだ。
まだその頃は俺も若かったので、不眠不休でクエストをこなし、冒険者ランクを着々と上げていった。
そして三十に到達しようかとする頃。
とうとう、最高到達点である『SSSランク冒険者』まで辿り着いたのだ。
ああ、あの時は嬉しかったね。
これで故郷の人達にも、胸を張れるって。
しかし——その考えは甘かった。
『休みが欲しい? なに甘えたこと言ってんのよ。あんた、根性が足りないわね』
これはパーティーの一員である魔法使いのフラヴィに、常々言われていたことである。
『……われは修行中のため、休みなどいらない』
修行僧でもあるカミロが口にしていたことである。
『もっと仕事を仕事を仕事を仕事を……仕事をしてないと、落ち着かない落ち着かない落ち着かない落ち着かない……』
いつもは清楚ながら、ちょっとでも仕事が途切れると虚ろな目をして髪を振り乱す治癒士エリスもいた。
そしてなによりも、俺達のリーダーであるアレックは、
『みんな、もっと頑張ろう! 世界が平和になるまで、俺達は戦い続けなければならないのだ!』
目をキラキラさせて、そう高らかに宣言していた。
「ああ、立派な考えだよ」
しかし反吐が出る。
そう——俺のパーティーは、全員ワーカーホリックだったのだ!
そのせいで、俺もクエストに付き合わされ、滅多なことで休みを取れなくなってしまった。
いや、俺も冒険者として成り上がることを夢見た端くれだ。
実際、俺達が休むと村が一個滅びてしまうような依頼もある。
成る程。そういうのは、仕方ないし喜んで俺も受けるとしよう。
しかし——どうして、SSSランク冒険者が薬草を摘まないとダメなんだ?
そういうのは、もっと低ランク冒険者に任せればいいじゃないか!
そう訴えると、
『ロマン。低ランククエストを馬鹿にしてはいけない。これだって立派な仕事なんだから』
とアレックに諭された。
その通りだよ! 俺だって、低ランククエストを下に見てねえよ!
だが、俺達が薬草を摘むことによって、低ランク冒険者が困っているじゃねえか! その人達の仕事まで取らなくてもいいだろう!
『根性が足りないわよ。全く、最近のおっさんは……』
『これもまた修行』
『仕事仕事仕事仕事……! ああ、仕事が欲しい!』
しかしワーカーホリックなパーティー一員に、俺の意見が通ることは最後までなかった。
それから、30連勤40連勤は当たり前。
休みを取れたとしても、月に一回あるかどうか。
最近ではエリスの仕事中毒っぷりも酷くなっていき、三ヶ月近く休みを取ることが出来なかった。
それでも、100連勤を達成した時、
『ああ、そういえば最近休めなかったね。大丈夫。後、百日は予定が詰まっているけど、それを過ぎたら長期休暇を取るつもりだから』
そんなアレックのその言葉を信じ、俺もフラフラにながら頑張ってきた。
そして約束通り、200連勤を達成してアレックに休暇を要求した。
するとアレックは……。
『えっ? そんなこと言ってたけ? ごめんごめん。でも後、一年は予定が詰まってるんだ』
——増えてるじゃねえか!
アレックはまだ若いから良いかもしれないが、俺は四十になろうとしているおっさんなのだ!
少しは休みが欲しい!
——というわけで、こっそりパーティーを抜けたということである。
「馬車はここまでだ。降りてくれ」
「うむ。ありがとう」
どうやら、村の近くまで着いたらしい。
約束通りの賃金を払い、俺は馬車から降りた。
「……とはいっても、俺の記憶が正しければこっからでも半日は歩かないと、辿り着かなかったと思うんだがな……」
まあドが付く程の田舎なので、仕方がないだろう。
この森を突っ切ると、少し近道出来るはずだ。
モンスターが出てくるかもしれないが、それも仕方ない。
というわけで、俺は村に向かって歩き出した。
森の中は鳥のさえずりも聞こえ、踏みしめる地面の感触がひどく心地良い。
「このまま無事に着けばいいんだが……」
ああ、早く田舎に帰って久しぶりにイヴにでも会いたい。
そこで俺はほどほどに働いて、のんびりと田舎での生活を楽しむのだ。
今度は週休二日で!
残業もなしで!
そんなことを夢見ながら、森に入って一時間くらいが経った頃だろうか。
「——やあっ! やあっ!」
誰かが戦っているような声が聞こえた。
ここで無視して突っ切ってもいいんだが——聞こえてしまったものは仕方がない。
後々気になってしまっては、ご飯も美味しく感じられないだろう。
音を聞く限り、どうやら苦戦しているようだし。
俺は背負っていた巨斧『ダナロッグ』を右手で持ち、音のする方へと駆け足で向かった。
そこには……。
「やあっ! やあっ! このクソっ!」
——巨大なイノシシと戦っている、小柄な少女がいたのだ。
少女は両手に持ったダガーを振り回すものの、イノシシに傷一つ付けられていないようだ。
「ほほう……ワイルドボアーか……」
俺からしたら、そこまで強くないモンスターではあるが、あの少女相手だったらきついかもしれない。
「わわわわ!」
ワイルドボアーの突進を間一髪で避け、勢い余って俺の胸へと飛び込んできた少女。
「むっ……ありがとう。って、にゃー! 誰えええええ?」
「それはこっちのセリフだ」
少女が目を丸くして、俺から離れようとするが、鼻息荒くしているワイルドボアーを見て、
「ひっ!」
とすぐに俺の腕を掴んできた。
「誰かは分からないけど、助けてくれにゃ! こんなところで最強モンスターのワイルドボアーに遭遇するとは!」
「……どいてな」
俺は少女を一旦遠ざけ、ワイルドボアーの突進に構える。
「ブオオオオ!」
ワイルドボアーが地面を蹴り、俺に突撃してきた。
そのの巨体が俺に当たろうかとする瞬間。
「——蒼破」
俺はダナロッグを、ワイルドボアーに向かって真っ直ぐ振り下ろした。
衝撃によって小さな地割れが起きる。
そして——ワイルドボアーの胴体と首は巨斧によって、一瞬で切断されてしまったのだ。
「うむ……しばらく馬車に乗ってたせいで、体がなまっていたからこんなもんか」
俺は巨斧をもう一度、背負い直す。
足下を見ると、靴に少しだけ返り血がかかっていた。
百%の状態なら、返り血を少しも浴びることなく、ワイルドボアーを殺すことが出来たはずだった。
「おい、大丈夫か?」
腰を抜かしている少女に手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……」
戸惑いながらも少女は俺の手を取って、立ち上がった。
……ん?
少女が俺の目をジーッと見つめてくる。
青くてクリクリした目が印象的な子だ。
そして少女は「うんうん」と何度か頷き、突拍子もないことを口にするのであった。
「決めた……! 今日からボクは君のことを『師匠』と呼ばせてもらおう!」
「嫌だ」




