自由な学園
俺は夢の世界から帰ってきた。
「ふわぁー。着いたのか?」
あくびしながら運転席の拓武に聞く。
車は動いていないように感じたが、外を見ると学校まで続いている行列の中にいることが分かった。
「いえ、外交を歓迎している学校なだけあって来校の人が多いんだと思います。だから、まだ中には入れてません。」
「さっきからずっとこの渋滞の中にいるんですよ。」
「だけど、着実に動いてる。あと数分で入れる。」
拓武の言葉に補足を入れる姫と美礼。
確かに一台、また一台と中に入っていくのが見える。
「ところで隊長?あの序列十位に勝てるとお思いですか?」
確かに全国で十位の実力を誇る人間が強いのは分かるが、実際に見たことはない。どのくらい強いのかが分からない、どうなるかは会って、相対してみないと分からないだろう。
会ってすぐの三人が不安に感じるのは当然だろう。
「わからん。けど、なんとかなるんじゃないか?」
「まあ、会ってみないと分からないですが・・・」
「そうですよね。僕は大会の中継を見たことがあるんですが、彼女はとにかく速く、正確な剣技の使い手でした。ですが本気には感じなかったんですよね。」
「それって、全国大会ですか?」
「うん。そうだよ。全国大会でも本気を隠せるだけの余裕があるってすごいと思ったんです。」
全国大会で余裕を見せるだけの実力者か、だがそんな選手がいるのに優勝できないとは他の序列トップランカーはどのくらいの強さを持っているんだろうか。
「トップランカー同士の戦いは見たことはあるのか?」
ただ一人前回の大会を見ている拓武に聞く。
「いや、僕も全部見ていたわけではないので、見たことはないよ。ただ、彼女の散り様は凄かった。」
「散り様がすごい?」
どういう散り様だったのか疑問に思い聞き返す美礼。
「三つの学園に囲まれた絶体絶命の場面でみんなを逃がすために一人残って戦ってた。鬼神のごとく駆け回り、敵を切り倒し、一日中戦い続けた結果彼女は戦死したんです。そのおかげで敵軍は瓦解、学園順位も三位の結果を残したんです。」
いつにもなく熱くなる拓武。
一日中戦い続けるだけの体力だけでも凄いのに、三つの学園を瓦解させる強さも持っているとは期待以上だ。やはり仲間に引き入れることが出来れば絶大な戦力になる。
そんなことを話していたら学園内に入ることが出来た。
校舎は必要最低限のような感じで、基本的な大きさをしているが、そのほかの施設が多く、敷地は大きく感じる。
男性生徒に案内されながら駐車する。
その間にも多くの店が見える。
「んんー。到着-。」
伸びをしながら車から降りる。
長い時間車に座っていたため、みんな車を降りて体を動かしている。
「みなさんお疲れさんです。何のご用で来られたんすか?」
気の抜けた様な感じで話し掛けてくる見た目もだいぶ着崩した男性。
「序列十位が目的だ。」
男性は腕に付けた時計を見て答える。
「今が十七時なんで、今日は二十時まで待ってもらえますか?来る奴らが多いから、その時間までに来た奴らをまとめて相手にすることになってるんです。」
「そんなに来てるんですか?」
疑問を口にする姫。
「強い奴と戦いたいだけの奴、仲間にしたい奴と色々な奴が来てるからな。・・・ざっと五十人ぐらいじゃないか?」
「「五十人!?」」
驚きを隠せない姫と拓武。
強い者を求める人間が五十人も集まるのか・・・
自然と顔がにやける。
「どうしたんですか?」
そこを姫に見られていたらしい。
「いや、良いことを思いついただけだ。それより、武器屋はどこにある?」
自分は武器を使うことはあまりないが、使えない訳ではない。今も少しは持っているが、強い選手と戦うなら少しでも強い投擲武器が欲しいところだ。
「了解した。じゃあ、案内する。」
けだるげな感じだがこっちだと案内をしてくれる。
彼は思い出したように振り向き言う。
「ああ、そうだった、自己紹介がまだだったな。この学園の生徒会庶務、須賀剣悟だ。よろしく頼む。」
こちらも各々自己紹介をする。
「あんた生徒会だったのか?」
「よく言われる。やりたくてやってるわけじゃないしな。会長に無理矢理やらされてんだよ。」
しかし、そんなに言葉とは裏腹に嫌な顔はしていなかった。
「お店が多いようですが、どんなお店があるんですか?」
やはり女子はそういうところが気になるんだろう。姫が聞く。
「食事処から、武器屋、日用雑貨まで色々ある。自由な校風ですべて生徒が携わってんだ。店の多さもそうだが、質もいいらしくてな、それが目的で来る人もいるらしい。」
淡々と説明する須賀。
「あとで回りませんか?」
小声で言ってくる姫。
「いいんじゃないか?」
「てきとー。」
少しつまらなそうに反応する。
しばらく歩くと大きな店が見えてきた。
「おう!須賀ちゃん、客を連れてきてくれたのか。サンキュー!」
店に入ると勢いよく店主と思われる男性が飛んできた。
「俺、渡辺媒徒!よろしくー!」
そう言うと次々に握手をしていく渡辺媒徒。
「うぜぇ。」
そして迷惑そうな顔をしている須賀。
「うぜぇってなんだよー。俺とお前の仲だろ?」
須賀の肩に手を回す媒徒。
「うざいのもんはうざい。っていうかうるさい。」
そう言って耳に手を当てる。
「ま、いいけど!」
「いいんだ!!」
自然に突っ込む拓武。
「で、何をお探しで?」
急に話を変え、店主として聞いてくる。
「投擲用の武器を探してるが、配布されてる物でもいいから、貰えないないか?」
配布される武器とは、学園のレベルに合わせて無料で配布される物だ。
つまり、県大会でも勝つことが出来ないほどの学校での配布武器より全国三位の学校の方が格段に良い武器が配布されている。
「配布物でいいのかい?」
「ああ。」
「そうか。そうだ!きみの配布武器を見せてもらってもいいかい?」
言われたとおりに今持っている投擲ナイフを見せる。
「おお、この金属は!」
すごい喜びようで騒ぐ媒徒。
そんなに貴重なものではないはずなんだがな。
「そんなに貴重な金属には見えないのですが、どんな金属なんですか?」
疑問に思った拓武は媒徒に聞く。
「これはね、薄く膨らませると綺麗に輝くんだよ。だからアクセサリーによく使われるんだよ。俺はアクセサリーはよく作るからほしいなー。」
期待の目で見てくる。
「分かった。学校に戻る予定があるから、その時に大量に持ってこよう。」
「よっしゃー!!どれくらい持ってこられそうだい?」
「最高で車一杯に積むことは出来るだろうな。」
「無料だから出来るだろうけど、そんなにあるの?」
「武器屋は知り合いがやってるからある程度なにがどれだけあるか分かってるが、大量にあるはずだぞ。壊れやすいから不良品も多いが、金属だけなら壊れてても関係ないだろ。」
武器屋をやっているのは蒲なのだ。なので時々手伝わされている。どれだけ暇な時間を蒲の店で過ごしただろうか・・・
「じゃあこれをあげよう。」
そう言って手渡してきたのは素人にも分かるほど上質な手裏剣の束と、投擲ナイフだった。
「こんなにいいのか?」
「これでも貰える金属に比べたら安いし、君が言っただけの半分でも経営的には黒字になるからね。」
先ほどまでとは違う商売人の顔をしている。
そこに扉が開き一人の女性が入ってくる。
「おつかれ!媒徒、儲かってる?」
この店の常連なのだろうか親しそうに媒徒に話し掛ける背の高くスタイルの良い女性。
店の中に居た他の客は彼女を見てざわめき始める。
「おう!零!聞いてくれよ!今な、すごい商談が決まったんだよ!!」
「商談?じゃあ、この人達は商人?」
こちらを指しながら言う零と呼ばれた女性。
「お前が目的の外交だ。」
そこに須賀が入る。
「そうなんだ。」
こちらを眺め、楽しめそうだ。と口ずさむ。
「きみ、私に勝てると思う?」
俺にピンポイントで聞いてくる零。
この女性が序列十位。
須賀や媒徒は会って只者では無いだろうとは思っていたが、彼女はその比ではない程に強さを感じる。
しかし彼女からは恐怖を感じさせてはいなかった。
「どうだろうな。実際やってみないと分からないが、勝てなくはないだろうな。」
すると彼女はニヤリと笑みをこぼす。
「私も見て感じた。君は強い。私が勝てるかどうか分からないと思うほどに・・・」
心なしかワクワクしている様子の零。
零の言葉に周りの客のざわつきが増す。
「私は雨霧零。君の名前は?」
「俺は篠崎桐也。」
よろしくと手を差し出してきたので握手に応える。
「媒徒、これお願い。彼に勝てるようにお願いね。」
そう言って持っていた青色を基調にした綺麗な剣を手渡すと、媒徒はそそくさと店の奥へと消えていった。
「どう?もうすぐ夕飯の時間なんだけど一緒に食べない?君のことをもっと聞きたいな。」
まさか序列十位の彼女に食事に誘われるとは思ってもいなかった。俺も序列十位の話は是非聞いてみたい。しかし、他の三人をどうしようか・・・
それを察したのか零は提案する。
「もちろんみんな一緒で良いですよ。こちらも生徒会メンバー呼びますから。その中にみんなでってことで、どうですか?」
「わかった。是非、頼む。」
「こちらこそ無理なお願いをしてごめんなさい。受け入れてくれてありがとうございます。」
とても魅力的な笑顔を向けてくれる。
「俺はみんなに連絡する。」
須賀が店の外に出て行く。そんな姿を見てか、零は、
「暗くてごめんね。須賀くん本当はとても優しい人なんだけど・・・」
「大丈夫だ、始めの時からそんな感じはしてたから。」
「隊長と似てるところがありますものね。」
いたずらっぽく言ってくる姫に、無言で頷く美礼。
「そうだったんだ。みんなは仲が良さそうだね。生徒会のみんなも仲のいい人達ばかりだから楽しみにしててね。じゃあ、少し待っててね!」
そう言うと店の奥へと様子を見に行った。
「隊長、この店内見て回っていい?」
なにかみたい物があるか、目を輝かせて言い出す姫。
「何か見たい物でもあるのか?」
「アクセサリーがいっぱいあるから見たくて!」
そう言う姫の瞳は光り輝いていた。
どんだけウキウキしてるんだ。
「好きなようにしな。」
あまりアクセサリーには興味の無い俺はあまり乗り気にはなれない。
そんなことを思っていると二人がアクセサリーを見て一喜一憂していた。
姫と拓武が・・・
拓武?
美礼は?隣にいた。
「美礼は行かないのか?」
「あんまり興味がない。」
女子はお洒落には目がない生き物だと思っていたが、そういうものでもないみたいだ。
「好きな物とか、集めてる物とかあるのか?」
だったら何が好きなのか気になった。
「ぬいぐるみ・・・」
ぼそっと言う美礼。
美礼の顔は少し朱に染まっていた。
「可愛いな。」
思わず声に出てしまった。
「そんなこと、ない。」
プイッと反対側を向いて応える美礼。
それからは話すことはなく静かに二人並んで待っていた。