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学園戦争  作者: 奥村しんや
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四神:闇

 月野百合に案内され応接間の椅子に座っていた。

 出されたお茶を啜りながら待っている。

 温かく、苦みがありとても美味しく、落ち着くお茶だった。

 連れてきた本人は、

「少し待って頂けますか?」

と言いパソコンをずっといじっている。

 しばらくすると部屋の扉から二人の女性が入ってきた。

 一人はフワフワとカールのかかった長い髪をした落ち着いた雰囲気の女性、その後ろから黒髪の長いストレートの女性だった。

「急に呼び出してしまって申し訳ありません。こちらの方の話を聞いてもらいたくてお呼び致した次第です。」

 俺を手で指し示しながら丁寧に言う。

「いえ、この期間は予定は無かったので大丈夫でしたが・・・こちらの方は?」

 カールのかかった髪の女性が答え、俺に話を振ってくる。

「俺は岐阜県立建築工業学園の篠崎桐也だ。よろしく頼む。」

「私は中等部四年、結城姫路ゆうきひめじと言います。こちらは同じく、佐々木美礼ささきみれい。よろしくお願い致します。」

「よろしく。」

 笑顔で自己紹介し、綺麗なお辞儀をする結城姫路と素っ気ないながらもしっかりとお辞儀をする佐々木美礼。

「それではそのお話、というものを聞きたいのですが。」

「俺は、仲間を集めにここに来ただけだ。そんな話ということでもないんだがなー。それで、仲間に入ることは可能なのか?」

「この学校、というよりもわたくしの考えでは、専門学校は大会で本領を発揮することは出来ないと考えております。」

 そう答えるのは月野百合。

「と、言うと?」

 彼女の見解を聞くため相づちを入れる。

「専門学校は専門の技術を学ぶことが出来ますが、ここは特に戦闘の専門ではありません。回復、治療の専門です。戦う専門の人達が居て、ようやく本領を発揮できる。違いますか?」

 彼女は俺では無く呼んだ二人に聞くように言う。

「確かに怪我人がいなければ私たちは学んだ事の十分の一も実力を出すことは出来ません。ですが外交に付いていくと言うことは転校するという事、ですよね?」

 結城姫路は聞く。

「ええ、そうですね。」

 簡単に答える月野百合。

「私で無くとも学校には少なからず思い入れがあると思うのだけれど・・・」

「コクコク」

 佐々木美礼も同意するように頷く。

「確かにそうだな、俺も無理矢理に連れて行くなんて事、したくはえしな。」

 俺もそのことには同意する。行きたくも無い所に行きたいとも思わないし、今までずっといた場所を離れることも自分では考えられない。

「ですが、わたくしはあなた方が成長するためには必要だと思ったのですが・・・余計でしたでしょうか?」

 甘えたような顔を浮かべながら二人に言う。

「どういうことですか?」

「あなた方はこの学校では高い実力を持っている方々です。そんな方は違う世界を見ることが新たな自分を見つけられる。わたくしはそう思っています。ですからわたくしはあなた方には新たな世界に飛び込んでもらいたいのです。」

 先ほどとは変わって、真剣な表情になっていた。

 それを感じてか結城姫路は話す相手をこちらに向く。

「会長の考えは分かりましたので今度はあなたに聞きます。あなたは何故ここに外交に来たのですか?」

「ここは衛生兵の専門学校だ。衛生兵を得るためにきた。・・・と、基本的なことを聞きたいわけでは無さそうだな・・・」

 みんなを見ると、静かに次の言葉をまっている。

「まず、俺はこの準備期間に小隊を組織する事が第一の目的だ。そのためにはまず、衛生兵が必要だと考えた。」

「小隊、ですか。一週間で何名を予定しているのですか?」

「二十人いればいいところかと考えてるが、どう思う?」

「小隊のメンバーとしては十分な人数ではありますが、一週間ではさすがに難しいのでは無いですか?」

 確かに一週間で二十人を一から集めることは難しいだろう。俺も最初はそう思っていた。だが、

「確かにそうだが、やらなければならない。」

「何か理由があるのですね。では、それを聞いてもよろしいですか?」

「少し待って頂けますか?」

 そこで止めたのは月野百合。

「その質問の答えは聞いてもよろしいのですか?もし、危ない事例なのでしたら聞かない方がいいかもしれません。」

 月野百合の言葉はごもっともだと思った。迷惑事に巻き込まれることは生徒会長としても避けておきたいと言うことなのだろう。

「大丈夫。とは言いにくいが、危険と言うほどでも無いな。」

「それはどういうことなのですか?よく分からないのですが・・・」

 それもそうだろう。自分でもこのことはどう扱えばいいのか分からない。

「少し待ってもらってもいいか?」

「どうぞ。」

 俺はこのことを伝えていいのか聞くため電話をすることにした。


 しばらくコールが鳴り、相手が出た。

「はい、こちら田中佳子です。どうしたんですか?桐也君。」

「桐也君って、久々に言われた気がするんだが・・・。」

「言ってみたかっただけです。どうでしたか?」

「非常に気持ち悪い。」

「・・・それで、何のようですか?」

「前話してた学校のこと、言っていいのか聞きたいんだが。」

「学校のこと・・・、ああ、廃校の話ですか?」

「そう、その話。危険が及ぶ事は無いよな。」

「危険とかはないですけど、多くの人間に言うことはいけないですよ。一応秘密裏の情報ですから、本当はこの情報はだれも知っていてはいない事なのですから。そのことも伝えた上でということでしたら伝えることをしてもいいと私は考えます。それに、学校に伝わるのはこの期間中になると思いますからそれも踏まえて大丈夫ですよ。」

「いいんだな。」

「はい。むしろ隊に入る人には伝えるべき事だと思います。」

「分かった。」

「いえ、また何かあったら電話でも何でもくださいね。では。」

 電話が切れた。


 少し離れたていたが電話が終わり、戻ってきた。

 新しくお茶が入れられた元の席に座り、話を続ける。

「お待たせした。確認をさせてもらったところ、伝える事は出来るとのことだった。だが、」

「だが?」

 不安に思っているのか問いかけてくる。

「秘密裏に得た情報だから言いふらすような事は出来ない。だからあんたらにも言わない事を約束してもらいたい。」

「その話を聞くことは信頼の証だということですね。」

 なぜかワクワクしたように言う月野百合。

 しかし、反対に結城姫路は不安な顔をしている。

「聞いたら最後、仲間にならなければいけないということはあるのですか?」

 あの前振りをすればそういうことにも考えられるだろう。

「いや、そんなことは無い。最初にも言ったが、無理矢理入れるようなことはしたくない。ただ他の奴らには言わないようにして貰いたいってだけだ。」

「分かりました。聞きましょう。」

 覚悟を決めたように返事を返してくる。

 結城姫路の隣を見ると無言で頷く佐々木美礼。

「じゃあ、言うぞ。小隊を組む理由は学校の廃校の阻止のためだ。」

「廃校ですか?人数がいないって事ですか?」

 何でこんな事が秘密事項なのかと不思議に感じる結城姫路。

「ですが、それなら小隊を作る理由が分かりませんね。」

 訝しんだ様子の月野百合。

「人数の関係では無い。関係があるとしたら実績だな。」

「実績、ですか?」

「確かに最近はあまりかんばしい実績を出してはいないのでしょうけど、そんな学校は他にもたくさんあるはずです。それに岐阜県立建築工業学園の名は教科書に載っているほど誰もが知っている学園です。そんな学校をわざわざ選ぶ理由が分かりませんね。これは、情報以上に危ない情報なのではないですか?」

 結城姫路がそう月野百合に聞く。

「そう、ですね・・・。」

 思っていたよりあっさりと答える。

「理由まではまだ分からないが、廃校を回避するには全国まで行かなければならない。そのためには強い選手が必要だということになった。」

「それをうまく使うには小隊が一番だという結論になったと・・・。」

 結城姫路が付け足してくれる。

「そういうことだ。で、どうだろう。仲間になってはもらえないか?」

「私は・・・そうですね。お試しでは駄目ですか?」

「お試しとは?」

「とりあえず一週間同行させてもらって決めると言うことです。」

「そうか、分かった。それで構わない。君は?」

 佐々木美礼にも聞く。

「私は戦う方が得意。けど、話によれば衛生兵が欲しいということ。なら私は力になれない。」

 初めて声を聞いたが、暗いが綺麗な声をしていた。

 申し訳なさそうに答える佐々木美礼。

「だが、お前はこの会長が選んだ一人だ。それだけ優秀な選手がいるのに断る理由は無い。それに、得意ではないにしても学ぶことはしたんだろ?」

「ですが・・・」

 それでも自信が無いのか小さく否定する。

「でしたら、この子があなたの力になるのか否かを判断して頂けますか?」

 そこに結城姫路が助け船を出してこちらにウィンクを掛けてくる。

「じゃあ、その方法は得意な戦い、決闘の方がいいか?」

「そうですね。」

「え?え?」

 二人で話を進めると佐々木美礼が戸惑った様子でどうすればとキョロキョロしている。

「では、百合先輩、今使える演習場はありますか?」

「え?あぁ・・・なんでしたっけ?」

 聞いていなかった様に聞き返す月野百合。

「演習場は空いてるか?」

 俺が再び聞くと先ほどのことをごまかすように大きくリアクションして答える。

「あぁ、そのことですか。えーと、第三演習場が空いていますね。」

 パソコンで演習場の情報を調べながら答える。

「では、準備があるので先に行ってもらえますか?百合先輩も先導お願いします。」

 戸惑っている佐々木美礼を引き連れ部屋から出て行く結城姫路。

「それでは、参りましょうか。」

 先ほどから様子がおかしい月野百合の先導で演習場に向かうため部屋を出た。


「桐也さん。あなたは戦の四神が今、何をしているのかは知っていませんか?」

 演習場に向かう道中いきなり話を振られた。

 戦の四神。つまり、俺たちの大先輩だ。

「なぜ、知りたいんだ?」

「昔、わたくしの友人が戦の四神について調べていたことがありました。ですが、いつの日かその友人との連絡は途絶えました。わたくしは戦の四神にはそれだけの秘密が隠されていると思っています。」

 そんな過去があったから俺の学校の話題になったときに様子がおかしくなっていたのだと理解する。

「そんな情報を俺が知っていると思うのか?」

「秘密裏の情報を知っていたあなたなら知っているかもしれないと思っただけです。すみませんでした。」

 本当は知っている。彼女が知りたがっている情報を・・・しかしそれを話していいものなのだろうか。彼女の友人が行方をくらましてしまったのがこの情報だとすれば伝えれば彼女も危ないことに巻き込まれるかもしれない。

 どうしたものかと考えながら付いていく。

「あんたはそのことについて調べるつもりか?」

 単純に心配になった。そこまでの情報を知りたがる彼女がこれまで調べてこなかった訳が無いと。

「はい。今まで色々あなたの学校から戦の四神まで調べてきましたが、何も有益な情報は得ることが出来ませんでした。ここまで来ると何かあると思うじゃないですか。それに友人のこともあります。調べなければならないんです。」

「友人が危険なことに巻き込まれたのに首を突っ込む。あんたも同じ目にいたいのか?」

「ですが、何かあることが分かっていて何もしないのはわたくしには出来ません。」

 強い決意をぶつけられる。

 調べていくときに気づかれるより、今本当のことを聞いた方が安全なのではないだろうか。しかし、先ほどから、誰かが付いてきている。

「あんた、人に付けられた事は?」

「え?あぁ、ありませんよ。」

 付けられていることに気付き答える。

「となると、今のは俺目当てか。」

「おそらくは。」

「さっきの話だが、今は教えられない。だから調べることはやめた方がいい。」

「今は、ですか。やっぱり、知っていることはあるのですね、ですが、分かりました。」

 月野百合はしばらく見せなかった笑顔を見せた。

 しばらく話しながら進むと演習場に到着した。


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