各ブロックの決勝戦
その後順調に勝ち登っていき遂に各ブロック決勝戦になった。
第1ブロックの決勝戦はパーラメントとデュエリストのガルナという巨漢の男だ。
第2ブロックはリボースと言う冒険者と第2回戦を不問にされたアラスカ、そして第3ブロックは俺と7つ星の騎士のキース、第4ブロックは草原の民のバーバリアンのウラノスと7つ星の騎士のシリウスの8人となった。
各ブロック決勝戦からはたったの4試合のため、俺達選手全員もデュエル会場で見学になるそうだ。
パーラメントとガルナが呼ばれデュエル場に上がると大歓声が起こる。
パーラメントはいつもの革製の鞭から鎖鞭に変えていて、ガルナはなんと両手剣を二刀流で持っている。
試合開始の合図がかかるとガルナが鞭の射程を無視して一気に間合いを詰めて斬りかかる。とはいえ振り回す剣は両手剣のため、攻撃範囲が広く二刀流のため隙も少ない。
パーラメントはその剣の猛攻を躱し続けるが、反撃する余裕が無さそうに思えた。
「強いですね、あの男」
「ああ、あの二刀を躱し攻撃に転じるのはなかなか難しそうだ」
「は? いえ、私が言っているのはパーラメントの事です」
「あれ、そっか」
全然分かんねーよ。
いや、パーラメントの顔を見ると苦戦を強いられている顔ではなかった。
じゃらんと鎖鞭を垂らしたと思った直後、信じられない攻撃を見せた。それはまるで鞭というより剣。流れ行く鞭は剣の軌跡のように流れ、ガルナの攻撃よりも早く切り刻むように振るわれ、その狙いは違わず剣を払い、無防備となった剣を掴む両の腕を斬り落とした。
「勝負あり! 勝者パーラメント!」
圧倒的に有利と思われたデュエリストのガルナは両の腕を切り落とされ戦闘不能となった。
ホゥと息を吐き、ガルナの側まで行くと治癒魔法を使って治療を施しだす。
「腕を申し訳ありませんでした」
「いいデュエルが出来た。それだけで十分だ」
観客席から歓声が上がり第1ブロックをパーラメントが勝ち抜いた。
続いてリボースとアラスカのデュエルとなり、2人がデュエル場に登っていく。
冒険者のリボース、俺はこの立ち振る舞いの男に似た人物を見たことがある。もう遠い昔のことで女体化していた頃の事だ。
その男もいつも薄ら笑いを浮かべ飄々としていた。
2人がデュエル場に立つと開始の合図が出された。だが2人共一切動く事はない。
武器を構えたまま見合う。おそらくこの戦いは一撃で決まる、そんな気がした。
時が止まったように思われるほどに感じられた次の瞬間、2人が同時に動き剣が振るわれーー
両者共に倒れた。
すぐに審判が両者に脈を取り、気絶を確認する。
「両者相討ちのため、第2ブロックの勝者無し!」
さすがに予想しなかった展開に観客席からも声が出ず、静まり返ったままだった。
「アラスカ!」
俺が駆け寄り身体を抱き起こし、ドルイド魔法で気付をすると目を覚ました。
「私は……負けたのですね」
「いや負けてはいない、引分けだ」
「引き分け……申し訳ありません、マスターとの決勝の約束を果たせませんでした」
「レンジャー相手に引き分けたんだぞ。もっと胸を張れ」
アラスカは微笑みこそしたが、哀しそうな顔をしていた。
「立てるか?」
アラスカが自分が俺に抱き支えられているのに気がつき、頬を染めながらーー
「……無理そうです」
「仕方ないな」
そのまま抱き支えながらデュエル場から降りて対戦者の席まで運んでやる。
「おいアラスカ! マスター様に失礼だぞ」
「そういうのはほどほどが効果的だぞ」
次に俺と当たる7つ星の騎士のキースと同じく7つ星の騎士のシリウスが言うと、サッと俺から離れて席におとなしくついた。
……何がほどほどが効果的だ。
リボースも目覚めるとこちらを一度見つめてからデュエル場から降りると、席には戻らずにそのまま会場から立ち去っていった。
会場の空気が静まり返ったままの中、次のデュエルである俺と7つ星の騎士のキースが呼ばれてデュエル場に上がると、思い出したように歓声が上がり始めた。
「マスター様と手合わせできる事に感謝します」
剣で礼を取ってそう言ってくる。
俺がマスターというのは内緒のはずなんだけどなと思いながら、向かい合い試合開始の合図を待つ。
試合が開始されキースのいきなりの猛攻が始まる。俺の持つ杖はただのオーク材で作られたごく普通の木の棒の為、刃を潰したとはいえ鉄の剣を直接受けるわけにはいかない。それゆえに一撃一撃を躱すか、迅速な握り変えで太刀筋の軌道をそらすしかない。
修道士の気を送る事で神鉄アダマンティンと同等の強度を持たせる事も可能ではあるが、魔法的効果なのかは試した事がなかったため、デュエル中は使わないようにしている。そのためこのデュエルでは棍術は使えず杖術で戦うしかない。
キースはおそらくグランドマスター級、つまり師範級の腕だろう。以前アラスカと手合わせをした限りでは、アラスカはマスター級の域には達しているが、グランドマスター級ほどではなかった。厳しい相手ではあるがーー
マルス程じゃない。
杖を逆手に構え直し、振り下ろそうとしたキースの剣を薙ぎ払うように手首を狙う。それを柄で受けて躱し、身体が仰け反ったところに杖を叩き込み剣を弾く。
すぐに体勢を立て直したキースが剣を振り上げ、上段から振り下ろそうとしたところを踏み込み握り変えた杖を、下段から腕を狙って振り上げてその動きを止め、更に握り変えて上段から叩き込んだ。
ここで決まったと思ったが、キースは身体を大きく仰け反らせてギリギリの所で躱してきた。
チッと舌打ちを打ち、更に踏み込んで振り上げた腕を杖で打ち上げ、握り変えて今度こそ上段から仰け反り万歳状態になってがら空きになった頭部目掛けて振り下ろして寸止めした。
「ま、参り……ました」
キースが敗北を認め礼をしてきた。
そこで勝負が決し、観客席から大きな拍手と声が湧き上がった。
「さすがですね、ここまで完膚なきまでに攻撃を躱されて反撃されたのは初めてでした!」
「いや、結構ギリギリだったよ」
「ご冗談を。舌打ちを打つ余裕があったではないですか」
はははと照れ笑いをし、握手を求められてそれに応じると、観客席から更に大きな歓声が湧き上がった。
俺とキースがデュエル場を降りると、変わるようにウラノスとシリウスが上がっていく。
俺が席に戻るとアラスカが興奮したように声をかけてきた。
「マスター! マスター! 凄く、凄い試合でした!」
「いや、 意味が分からないぞ、それ」
「キース卿の剣の腕前は7つ星の騎士団の中でも5本の指に入る方なのです!」
「ほぉ、じゃあアラスカはどうなんだ?」
「私は……まだまだです!」
「あっそぅ……」
俺の返事がそっけないものだった為、シュンとなって下を向いてしまった。それにしても俺の事を知っていた理由は7つ星の騎士上位者か何かだったからだろうか。
っとそんな事よりアラスカを宥めておくか。
「デュエルと実戦は別物だろ? そう落ち込むな。後でアラスカのしたい事に付き合ってやるからさ」
「本当ですか! 本当ですね!」
これが後に失言だった事を思い知る事になろうとはこの時思いもしなかった。最も俺も楽しめたから良かったのかな……
それはさておき、ウラノスとシリウスの戦いは既に始まっていて、次にどちらかと戦う事になる。 その為アラスカとの会話がいい加減な返事をしていた。
ウラノスは巨大な斧を振り回して戦っていて、シリウスは7つ星の騎士特有の剣1本だけで応戦している。
個人的に言えばウラノスの巨大な斧相手にするよりは、シリウスの方が戦いやすいだろうと思ってはいるが、そんなシリウスも斧を掻い潜りながら反撃のタイミングを見計らっているようだ。
そしてシリウスが反撃に転じ、まるで俺が先ほどキース戦で見せた杖術のような動きで巨大な斧を捌き始めた。
武器を弾かれ、かち上げられ、無防備になったウラノスに斬りかかる。
杖術ならではと思った戦術をシリウスという男は、剣でやってのけてきた。
誰もが決まったと思った瞬間、恐ろしい速さで斧が振り下ろしてくる。それで止まらず先ほどまでとは比べ物にならない速度で振るわれる。その速度、当社比2倍か3倍。
振られる速度もそうだが、パワーも上がっているように見える。
ウラノスは憤怒を使ったようだった。アラスカのものとは違い、確かに荒々しく猛っているが我を失ってはなく、恐怖や疲労などを感じることなく攻撃を繰り出してきた。
その攻撃の前にシリウスも防戦一方になり、否応なく苦戦を強いられ後退を余儀なくされる。
決まったかと誰もが思った瞬間、シリウスが一瞬の隙をついてウラノスの持つ巨大な斧を武装解除した。
だがウラノスは武器を持たぬままシリウスに飛びかかるーー
シリウスが剣の柄を使いウラノスの首を打って意識を刈り取った。
「勝者、シリウス!」
ワァァァァと一際大きな歓声が巻き起こり、各ブロックの決勝戦は終わった。
第2ブロックのアラスカとリボースが引き分けた為、パーラメントの繰り上げとなって決勝戦に勝ち上がることになり、明日は俺とシリウスだけのデュエルとなった。
久しぶりの後書きです。
1話辺りの文字数をもう少し増やしていく方向で現在書き進めています。
武闘大会を本当は全て描こうと思いましたが、これ以上のやられるためだけに登場人物を増やしても意味はないと思い、勝手ながらすっ飛ばさせて貰いました。
さてストーリーの方ですが、もう少し平穏な日々が続くかと思いますが、もうしばらくお付き合いください。
レグルスが動き出す時、その時大きな変化が起こりますのでお楽しみに。
だいぶ長くなってきましたが、まだまだ長くなりそうです。
感想など頂けたら嬉しいです。それでは




