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ワールド・ガーディアン〜新たなる転生者〜  作者: 小さな枝切れ
第6章 アロンミット武闘大会
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火事場の馬鹿力

 ボルゾイは俺が代行者である事を知る、今や数少ない人物だ。だが何故俺と旅をしたがるのだろう。



「寂しい……寂しいんじゃよ。決して長い付き合いとまでは言わんが、それでも苦楽を共にしてきた仲間達が寿命を迎え消えてゆく」


 その気持ちは俺にも痛いほどわかる。カイ、マルス、セッター、ズィー、その他多くの仲間や知人が死んでいった。


「……俺との旅は死よりも辛い旅になるぞ?」

「仲間の為に生きれるなら本望じゃよ」


 情に流された気もするが、ボルゾイが居てくれれば何かと助かるだろう。詳しい話は後ですることにして、そろそろ始まるであろうアラスカの試合を見に行くことにした。



 会場に戻ると第2ブロックのデュエルが始まっていた。アラスカの姿が見えないことから次あたりなのだろう。


「サハラ様、お帰りなんし」


 アルが俺の帰りを待っていた。後から来たボルゾイが俺の横に来たのを見て、ニッコリ微笑んでいた。



 そして次のデュエルになり、アラスカが姿を見せる。対戦相手はどうやらデュエリストの様だ。


 デュエリストとは冒険者でも兵士でもなく、こういった闘技場を主として生きる者達のことで、優雅に動き打撃を受け流し目にも止まらぬ刃の猛攻で反撃する。通常剣術というものがあるが、デュエリストは剣技と言われる技術を習得していて、あらゆる近接戦闘における技術を持っていると言われている。

 俺も初めて見るデュエリストの戦闘に興味があった。


「アラスカはどう動くのかな?」

「あの細っちょろいエルフはお前さんの知り合いか?」

「あぁ、アラスカはあのセッターの娘だよ」

「ほ! 史上最強の男の娘か。騎士魔法無しでデュエリスト相手にどこまでやれるか見ものだわい」


 ボルゾイもアラスカがセッターの娘と知り興味を示した様だ。



 デュエル開始の合図が出されーー

 直後デュエリストの持つ両手剣が振り下ろされ、アラスカがとっさにその一撃を受け止める。斬撃はそこで止まることはなく、両手剣を軽々と振り回し、アラスカは防戦一方の様だった。


「残念じゃが……まだ力量が足らなかった様じゃのぉ」


 ボルゾイの言う様にアラスカは防戦するのが精一杯の様で、反撃にすら移れそうに見えなかった。


「それはどうかな? 彼女は守りに入ったら負けはしないと言っていた。おそらく何かやらかしてくれるはずだ」



 内心不安ではあったがアラスカを信じて見守っていると、時折反撃をする様になってくる。だがそれも簡単に受け流されて逆に反撃をされギリギリで受け止めていた。


 両者が一歩も譲らず剣の打ち合いを続けている様を観客達もただただ見惚れていた。



 気のせいか次第にアラスカの反撃する回数が増えてきている様に思ったが、それは見間違いではなく、確実にアラスカが押し始め出していた。

 まさかと思っていると、やはりアラスカは憤怒(レイジ)の力を発揮して我を失っている様だ。

 今や攻撃を受け止めているのではなく、弾き返しつつある。流石のデュエリストもこれには驚いたらしく、デュエル開始して初めて後ろに下がり出した。



「サハラよ、あの娘さんの母親はエルフなんじゃろう? なぜ憤怒(レイジ)を使っておるんじゃ?」

「分からないが、以前俺と少し手合わせした時もああなったんだ」


 フームとボルゾイが考え込み、ふと俺に聞いてきた。それはアラスカが何かに追い詰められているのではないかと聞いてくる。

 それを聞いて思い出す。彼女は常日頃から父親であるセッターの名に恥じない様に心がけている。それを話すとボルゾイが納得がいった様に頷いた。



「ウォーレンに一度だけ聞いたことがある」


 そう言って説明してくる。

 憤怒(レイジ)の力は血脈以外にも一つだけ引き出す術があり、それが追い詰められるほどの重荷を背負うと、本人の意思とは無関係で憤怒(レイジ)の力が出てしまうそうだ。


 つまるところ発狂状態、火事場の馬鹿力みたいなものだった。


「その場合の憤怒(レイジ)の力は目的達成が成されるまで終わらぬ事じゃな。

可哀想じゃがあの娘、勝っても負けになるじゃろうな」

「なんでだ?」

「おそらく……相手を殺してしまうじゃろう」


 思い返せばわからなくもない。しかし……アラスカの額に『肉』が書かれてた覚えは無かったはずだ。


 と馬鹿な事を考えている間にデュエリストは押され始め、ついには一撃を受けて片腕がぶった切られた。

 そこで審査員達も戦闘不能としてデュエル終了を言い渡すが、アラスカが止まる事は無かった。

 観客達のあちこちから小さく悲鳴じみた声が聞こえるなか、


 ポロ〜ン……


 すぐ側から音色が聞こえてきた。


 その僅かな音色が聞こえただけで会場が静まり返り、アラスカも動きが止まって我に返った様で攻撃を仕掛けようとしていた腕が止まっている。


「沈静の魔曲を奏でんした。これでもう大丈夫でありんしょう」


 アルがそう言ってニッコリと微笑んだ。


 バードの魔曲、一応これで2度この目にしたが、威力こそ絶大だが対象が敵味方関係ないところが使い勝手の悪さかもしれない。

 そして気になるアラスカだが、審査員が明日までに告知するという事で退場する事になった。



 急いで控え室に向かったが、そこにアラスカの姿はなく、既に何処かに消えていた。


「おそらく治療室に行ったのじゃろうな」


 ボルゾイの言葉通り治療室にアラスカの姿は見つかったが、デュエリストの男に謝罪をしている最中だった為、俺達が口を挟む事じゃないだろうと黙って戻る事にした。



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