懐かしき古き友
大会2日目はちょうど初日の半分となるため、昨日よりも早く終わるが観客を楽しませ、また開催国は嫌でも観客達で賑わうため国益も潤う。そのためワザと1日に全ブロック1回戦だけにとどめることになり、各ブロックの勝ち抜きに5日、そして決勝戦に3日の8日間となっている。
昨日に引き続いてベネトナシュはヴォーグに預け、アルは一般の観客席に混ざり、俺とアラスカも自分の試合までアルと共に観客席からの観戦となる。
「アルジャントリーは顔をどうしたのだ?」
「え! え? えっと……」
「昨晩ベネトナシュと一緒のベッドに寝てな、寝返り打つたびに殴られていたみたいだ」
「な、なるほど……」
ところどころ腫れ上がっている顔を見てアラスカが顔を引きつらせていた。と、そこで思い出した様に俺が再生を使ってアルの腫れを治す。
「サハラ様ドルイド魔法が?」
「あぁ精霊と契約したん、っとその話は後だ」
早速注目のパーラメントの試合の番が回ってくる。
「昨日は一撃だったが、今日は果たしてどうなるかな? 昨日は大半の連中は手の内を見せてないだろうからな」
「そうですね」
昨日と違い、今日はパーラメントが先に姿を見せる。鞭が武器ということと昨日の初めて見る戦い方に観客が大いに湧く。ローブ姿に丸めた鞭姿は変わらずで、そして対する相手が姿を見せた。
「あれはロメオ・イ・フリエタの重装歩兵ですね」
「ロメオ・イ・フリエタは実はまだ一度も足を運んだことがないんだ。そうか、あれが噂に聞く動く城壁か」
ロメオ・イ・フリエタの重装歩兵、大半のドワーフが【鍛冶の神スミス&トニー】を信仰する中、ドワーフ王国であるロメオ・イ・フリエタを守る兵士の大半は【守護の神ディア】を信仰している。同じドワーフの作った精巧な作りの鎧で身を固め、頑強な城壁を思わせる盾を持ち、それぞれ得意とする武器で戦うその姿は動く城壁と言われているんだそうだ。
「魔法効果のない鎧なのかもしれないが、あれじゃあ継ぎ目でも狙わなきゃダメージも通らないだろう」
「残念ながら継ぎ目はドワーフの作る鎖帷子で守られています」
「はは……そりゃ動く城壁だ」
開始の合図でパーラメントは昨日と同じく、衝撃波を使って攻撃を仕掛けるが、盾を構えウォーハンマーを構えたドワーフには全く通じていない様だった。
その硬い守りに観客達も大いに湧いている。
鞭であれは普通に考えれば倒せないだろう。さてパーラメントはどう出るかな?
パーラメントが鞭を大きく振るい、ドワーフの盾目掛けて攻撃を仕掛ける。当然ドワーフによって作り出された盾はビクともするはずはなく、むしろ一歩ずつ前進してきた。
休むことなくパーラメントは鞭を振り続けていくと、次第に音が変わりだす。
はじめはバシィ! ピシィ! であったものが、ズガン! ドゴン! となっていき、やがては一撃一撃がパアァァンッ!! パアァァンッ!! と衝撃波を連続で生み出しながらに変わっていった。
これには流石のドワーフも歩みが止まり、相手が疲れるのを待つ様に盾をしっかりと構えて城壁と化した。
「残念ながらパーラメントに勝ち目は無さそうですね」
「そうだな、正直俺でも勝機が見えない」
「……ご冗談を」
会場中に響き渡る鞭の音に静まり返り、固唾を飲みながら勝敗の行くへを見守っている。
そして勝敗は決する。低く姿勢を落とし、盾をしっかりと構えていたドワーフの盾が僅かに浮いた瞬間、鞭が足を捉えそのまま引きずり倒したのだ。
後ろのめりに倒れたドワーフが慌てて立ち上がろうとする前にパーラメントが駆け寄り馬乗りになると、唯一守られていない目の部分に手に持つ短剣、おそらくスティレットであろう武器で突き刺す姿勢を示した。
ドワーフの手から盾とウォーハンマーが手放されて大の字になり負けを認めた様だ。
「勝者パーラメント!」
そう声が上がると大きな歓声が沸き上がっていた。
パーラメントが手を差し出してドワーフを立たせると握手を交わし、そして立ち去っていった。
「アラスカ、とんでもない化け物が現れたな」
そう言う俺にアラスカは頷いて答える。
「次は私がお見せ致しましょう!」
アラスカがそう言って控え室に向かって歩いていった。
「なぁアル、ちょっとあのドワーフに会ってくるよ」
「はい」
ドワーフの控え室に向かいドアをノックする。中から「誰じゃ」と声が聞こえたかと思うとドアが開かれた。
「初めまして俺はーー」
「サハラじゃろ」
「まさか……ボ、ボルゾイだったのか!」
「久しぶりじゃな」
ボルゾイとは俺がこの世界に来たての頃に出会ったドワーフで、【鍛冶の神スミス&トニー】を信仰する神官戦士だ。当時神になる前のエラウェラリエルの仲間でもあった。
「生きていたんだな!」
「当たり前じゃ! まだまだ現役じゃぞ」
ドワーフの寿命は250と言われているのだから、出会った頃の年齢は分からないが、おそらくまだ半分ぐらいしか達していないだろう。
「お前さんの活躍はたまに耳にしていた。
ここに来れば出会えるかもしれないと思ってな……どうじゃ? 今回の戦いは負けてしまったが、お前さんと旅をさせてもらえんじゃろうか?」
嬉しい言葉と懐かしさから、気がつけば涙が頬を伝っていた。




