歴史が大きく動く時
会場を後にし、公爵の屋敷に戻った俺達はヴォーグの広い部屋に入った。
「サハラ、まずは俺たちでもわかるように説明してくれよ」
移動している間で少しだけ落ち着いた俺はまずはアルの事を話す。信じてもらえないと思い、アルにこの部屋以外の時間を止めさせた。そしてアルが未来から来た事と時空を操る魔法を使える事を説明し、歴史が大きく動く時まで時を超えて待っていた事を話した。
「にわか信じられない話だが、これを見させられたら信じるほかないんだな」
「あの……サハラ様、こなたの方は……」
「ヴォーグ、マルスの孫だ」
合点がいった様に頷いた後、キョロキョロしながら俺が怒った原因の事を話してきた。
「サハラ様、アリエルさんの姿が見えんせんが……! ま、まさか、それであの時わっちの事を……」
「あぁそうだよ、アリエルは死んだ。アルお前は何か知っていたんじゃないのか?」
「……はい、未来の記憶が変わっていんす。レグルスがアリエルさんを……そんな 、そんな 事って!」
アルが体をブルブルと震わせながら涙をボロボロこぼし、何でいつも少しずれたタイミングになるのかと嘆き出していた。その姿を見て俺もアリエルを思い出し頬に涙が伝った。
「アル、麻薬は、麻薬は未来でどうなったんだ?」
「レグルスの作り出された麻薬のせいで次々とマナの結晶化させられんした。ただこれはこなたの時代での話でありんすぇ。レグルスは定命でありんすから、寿命を迎えて死んでいんす」
アルの話に俺はもちろんヴォーグにベネトナシュ、アラスカも驚きを隠せない。
「それは一大事じゃないか! こんな大会で暇ブッこいてる場合じゃねーぞ」
「いや、まずはアルの話をしっかり聞こう。前回の時も未来を変える一線があった。今回だってそれを見つければ変えられるはずだ」
アルにどうなるかの詳細を聞くと、やはり動き出すのは15歳を迎えてかららしかった。
最初が1番ひどく、何も知らない人達が快楽を求めて麻薬にこぞって手を染めた。金額も安いため気軽に手を出すものが多く、悪魔達がマナの結晶化を回収して回るんだという。
「なら先に知ったんだから注意を呼びかけておけば良いだけだな。全員は無理でも各国の王侯貴族には伝えておける」
「この大会の後にお前の爺様がやった様に一度集まって話し合え。その時の護衛は俺が保証してやる」
「我ら7つ星の騎士団も手伝いをさせていただきます!」
アルがアラスカを見て首を傾げた後、声を上げて「セッターの娘のアラスカさん」と名を呼ぶ。
ヴォーグはもちろんベネトナシュも驚く。
「サハラさん、学院で言ったあれ……本当だったんだ……」
「サハラに俺に英雄セッターの娘か。これは出会うべくして出会ったと言う他ないな」
「だが今回は戦争や悪魔達が襲ってくるのとは違って見えない敵だ。アル、どうやったら変えられそうだ?」
アルが考え込み、ボソッと私では変えられないと小さく答える。前回の時もそうだが、アルは未来を知っているためどう変えようとしても同じ未来に結果的にたどり着いてしまうのだそうだ。それを変えられたのは俺であり、たぶんその時代に生きる者達だけだろうと言う。
そこで俺が気になった麻薬中毒の治し方だが、未来でも不明のままだと言う。
「待てよ、という事はポットさんに俺が解毒方法を頼んだのは無駄だったのか」
それを聞いてアルがその人物は誰かと聞いてくるので、ヴァリュームで出会った薬師だと言うと突然アルが俺に抱きついてきた。
「サハラ様はやっぱり未来を変える力がありんす! 麻薬の治し方を探したとはありんした が、薬師と出会ったとは聞いていんせん!」
「お、おいアル!」
「マスターから離れなさい!」
アッとアルが俺から離れ、顔を赤くさせながら頭を下げてきた。そう言えば未来の俺はコイツとはどういう関係だったのだろうか。
「それじゃあそのレグルスって奴が15歳になんのは後どんだけあるんだ?」
「あと3年ないぐらいだ」
「十分あるな、そのなんだ? ポットって奴はヴァリュームにいるんだろう? 王宮に引っ越させて研究させるか?」
「あとで確認してみる」
これで話も終わり、アルが時を動かそうとした時にベネトナシュをジッと見つめる。
「失礼でありんすが、ぬし、お名前はベネトナシュ様で間違いないでありんすか?」
「……うん」
ベネトナシュ、そういう時は「はい」だろうと心の中でツッコミを入れる。しかしなぜベネトナシュの名前が出てきて、様付けなんだろうか。まさか俺がベネトナシュと恋仲にでもなると言うのか?
ベネトナシュを見ると俺の視線に気がついて首を傾げてくる。
いやいやいや、それはない、絶対ない。アリエルが亡くなったばかりでそんな気持ちすら沸かない。しかも相手は15歳、俺はお胸ペッタンさんは嫌いじゃないがロリコンじゃねぇ。
名前は確認したが、特に必要なことではないのか頷いただけで時を動かした。
薄くなっていた空気が一気に流れ込み、心なしか軽くなった気がする。
「とりあえず今日のこの話は秘密にしておいてくれ」
「わかった、ところでサハラその子はどうするんだ?」
アルがぴったりと俺にくっついてきて不安そうな顔を見せる。
「どうするって寝床の事だろ? 俺の……侍女長用の部屋でなんとかする」
「なら後でここの出入り用の証明書書いて持ってこいよ」
「悪いな」
ヴォーグの部屋を出てアラスカと別れたあと、俺はアルの証明書を作成を済ませて再開を祝おうとベネトナシュを連れて首都の中でも高級な店に入って食事を楽しんだ。
ベネトナシュはこれだけ高価な店は初めてだそうで恐縮していたが、まぁそれは普段とそうかわった様には見えなかった。
ちなみに俺はソファでベッドに2人で使って貰ったわけだが、夜中にアルの悲鳴が何度も上がったのは言うまでもない。




