サイコパス
俺の隣に座るアルナイルが真剣な表情で俺に話し続けてくる。
「私まだ特定のクラスの人と親しくなっていないので、席に座って見ていたから気がついたんですけど……
サハラさんからアリエルさんを引き放せたりした時、彼、レグルス君まるでしてやったと言わんばかりにニヤけるんです」
「たまたまじゃないですか?」
「いえ、もう何度か見ています。さっきだって……」
そこにベネトナシュとシャウラが近づいてきたためアルナイルが話すのをやめた。
「フェンリルちゃん見つけました」
「ベネトナシュ、そこはまずサハラさんとアルナイルさんでしょぉ?」
「あ、そ、そうでした」
「サハラさん、あたし同じクラスのミラです」
「14人しか居ませんからね。全員覚えていますよ」
「サハラさん、その、フェンリルちゃん、触ってもいいですか?」
「フェンリルも喜んでるみたいですからどうぞ」
嬉しそうな顔でベネトナシュがフェンリルの頭を撫で始めた。
「まったくもう! ベネトナシュってば友達作りよりフェンリルばっかりなんだから」
「2人は知り合い同士なんですか?」
「家が隣同士なのよ。
それとサハラさんあたし達より年配なんだから敬語使わなくてもいいのに」
「慣れるか親しくなるまで癖で使っちゃうんですよ」
「じゃあ早く慣れてね。あたしだけだと馴れ馴れしく思われるから。
それにしてもサハラさんとアルナイルが2人きりなんて珍しいよね?」
「え? あれ? 私別にそういうつもりじゃ」
「分かってる。レグルスのことでしょ? あいつちょっとおかしいよね」
気がつけばアルナイルとミラが会話に盛り上がり、ベネトナシュはフェンリルと自分の世界に入り込んでいた。
午後は肉体トレーニングで、アラスカがまた鬼教官ぶりを見せ、クラスのみんなを徹底的にしごいた。
そしてその日の授業が終わった時に俺は学長に呼び出される。
学長室に俺とフェンリルが入ると学長が魔法で扉をロックする。
「あれ、アリエルは?」
「アリエルは呼ばれてないからって来なかった」
「なるほど……事態は深刻かもしれないなぁ」
「どういう事だ?」
「レグルス君の事を昨日アラスカに調べてもらったんだよ。そうしたら彼を知る者がほとんどいないんだ」
「そりゃおかしいだろ? リバーシを売り出して儲けたはずなのに、名前を知られていないなんてあり得るはずがない!」
「実はねーー」
それは巧妙な手口だった。裏ルートで知り合った商人にリバーシを教え、利益の一部を受け取る。それは決して高額ではなく、利益の1割にしか満たない程度だそうだ。
その代わり名前を明かさずキャビン魔道王国にいる天才児が発明したとだけ明かすように仕向けたんだそうだ。
「なんで名前を明かさなかったんだろうな?」
「何か別の活動がし難くなるからと僕は思っている」
「何か?」
「うん、リバーシはその元手なんだと思うんだ。だから利益を少なくしているんだと思う」
「その何か、はまだ不明って事か」
「そういう事」
“サハラ、サハラ昨日寝ちゃって言えなかったけど、大地の精霊に聞いてみたぞ”
「何か分かったのか?」
“分かんなかった”
「それ報告する意味あるのか?」
“うう、ゴメン。一応変な匂いが気になったんだ”
「変な匂い? サハラそれはなんの話なの?」
「ああ、フェンリルがな、レグルスの身体からするんだと」
「それだけじゃちょっとなんとも言えないなぁ。っとそうだった。僕の机の横にいてもらえるかな? もうそろそろレグルスが来るはずだから」
つまり俺を呼んだ理由は、アラスカがレグルスを調べて分かった事の報告と、学長がリバーシの件を話すつもりだったらしい。
「話すのか?」
「んにゃ言わないよ。不可視化をかけるから、どんな事があっても絶対にしゃべらないでよね?」
「分かってる」
不可視化を掛け終え少しするとドアがノックされた。
どうぞとドアが開くとレグルスが中に入って来るが、ドアが閉まる直前、その後ろにアリエルの姿があるのが見えた。
気のせいだと慌ててアリエルの視界を使ってみると、やはり学長室の前の風景が見え愕然となる。俺にはついても来なかったからだ。
「学長俺に何の用でしょう?」
「うん、実はねこれの事なんだけど」
そう言ってリバーシの駒をレグルスに見せる。
「それが何か?」
「これを考えた人が気になってね。調べたんだよ。巷で有名な天才児が誰かってね」
「そうなんですか。それで何で俺が呼ばれたんですか?」
「君でしょ?」
「さぁ、さっぱり分かりません」
レグルスはばれているにも関わらずしらを突き通している。
「それが仮に俺だとしたらどうだというんですか?」
「うん、じゃあ仮定で話をするね。
昔、古い文献に前世の記憶を持ったまま生まれた子供がいたんだ。その子供はこの世界には存在し得ないものを作ったんだって。ところがそれが創造神の逆鱗に触れたんだ」
そこで言葉を一度切ってレグルスを学長が見つめる。
「どうなったんですか?」
「殺されたそうだよ。詳しくは分からないけど、【死の神ルクリム】が作り出す死の監獄に魂を封印されて、輪廻に還れなくされたそうなんだ」
それを聞いてレグルスは恐怖に震えだす。
「学長どうしましょう。それ俺です。俺、殺されちゃうんですか? 俺、知らなかった。知らなかったんですよ?」
この突然の変わりように学長も驚いた顔を見せたが、すぐにレグルスの肩を掴んで優しく答えた。
「大丈夫だよ。まだ殺されていないって事はリバーシ? は許されたんだと思う。だけどこれ以上何かを創り出したら僕でも分からない。
それより、そうすると君は……」
「はい、俺は前世の記憶を持って生まれ変わっています。こんな事になるなら記憶なんてなくなっていればよかった」
「大丈夫。この事は僕は誰にも話さないから。普通に生きればきっと大丈夫だよ」
「はい、はい、分かりました」
そう言って涙をぬぐった直後、俺は見てしまう。アルナイルが言っていたように、レグルスがニヤけているのを。
レグルスは頭を何度も下げ学長室から出て行った。外で待っていたアリエルがレグルスの顔を見て驚いているところで扉は閉まってしまう。
「サハラ、もう大丈夫そうだね」
「いや……あれはヤバい。アリエルが危険だ」
「へ?」
「あいつたぶんだけどサイコパスだ。お前に同情してもらった後ニヤけてやがったし、平気で嘘を言っていただろ。それに最近じゃすっかりアリエルがあいつにつきっきりだ」
「今も、だったね……」
「ああ……」
“サハラ、サイコパスってなんだ?”
「一言で言えば、良心や善意を持っていない。自分以外は物程度でしかなく、自分に関係ない物に同情も共感もしないから、退屈しのぎで平気で人を騙したり、傷つけるのを躊躇わない。アリエルはあいつが今執着している物の1つに過ぎないんだろう」
「これは芽を出す前に何とかしないといけないかもね」
ついに牙を剥き始めたレグルス。
魔物相手なら無敵、かは分かりませんが、サイコパスの転生者が相手となりました。
うまく表現できているか不安ですが、サイコパスの洗脳を表現していきます。
気分を害する内容も多くなるかもしれませんが、それは読んでいる人が正常な精神の持ち主だからだと思ってください。