ドM王
ドM王ことヴォーグの侍女長となってはや3日が経った。俺は着実に侍女達の教育をこなしていき、そして……
「オフォォォォォォォォ! その程度、みなぎってくるだけだぞぉぉぉ!!」
毎日、日に3回は俺にワザと抱きつき、ヴォーグを殴るのだが、何故か毎回ヴォーグの俺様にヒットしていた。
はぁぁぁぁぁ……
「大きなため息なんかついてどうした? サーラよ」
お前が元凶なんだよ……
「俺が元気を出さすぅぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「死極までぶっ飛んでろぉぉぉぉお!」
「ムフォォォォォォォ!! この、この程度ぉぉ! 俺の俺様の熱きたぎりはおさまらねぇぜぇぇぇ!」
とんでもない王だ。こんな姿をマルスが見たりでもしたら……腹抱えて爆笑して、喜ぶだけか。
「それで決めたのか?」
「……何が、ですか?」
「闘技大会だ。参加してくれるのか?」
ぶっ飛んでるかと思えば、このように急に変わって元に戻る。とんでもなく付き合いにくい王だ。
そして闘技大会だが、ヴォーグの言う通り俺が出て優勝すればレグルスの牽制にもなるかもしれない。だがそれは同時にこの時代の住人に俺の存在を知らしめてしまう結果になってしまい、後々行動しにくくなってしまうのではないだろうか?
「闘技大会まではまだ日にちもある、ゆっくり考えてくれ」
「はい、ヴォーグ様」
今の俺が相談できる相手はフェンリルしかいない。精霊であるフェンリルに相談したところで理解してはくれないとは思うが……
などと考えながら、ベッドにうつ伏せて悩んでいるとフェンリルの方から声をかけてきた。
“何を悩んでいる?”
「闘技大会をどうするかだけど、お前にはわからないだろ?」
“つまるところ狼が群れのリーダーになる為の戦いみたいなものだろう?”
かなり違うが殺しあうわけじゃないし、勝敗を決する部分は同じだ。
“参加したくないのならしなきゃ良い”
「いや、多少興味はある」
“優柔不断な奴だ”
ウシャシャシャシャと笑うフェンリルにゲンコツをいれておく。
“痛いぞサハラ!”
フェンリルを無視して考えていると扉がノックされ、直後返事を待たずに開かれる。
「よう、夜這いに来てやった……ぜ……」
ふざけた事を抜かしながらヴォーグが部屋に入り俺を見て固まりながら、目だけがものすごい速さで動いている。
「鍵も閉めないで、スゲェ格好してんなお前……」
その言葉で自身の格好を見てみると、重ったるい侍女の服を今は脱ぎ捨てて、下着姿のままベッドにうつ伏せて足をパタパタさせながらフェンリルと話していたのを忘れていた。ちなみにフェンリルは扉が開かれた瞬間に姿を消している。
とりあえずローブを着て、ヴォーグに何の用か尋ねる。そのヴォーグは俺様を手で押さえながら床を転げ回り、苦悶の声を上げているのは言うまでもない。
「俺はドルイド魔法で女の姿になっているだけの男だぞ? 良い加減理解しろ。 それで一体何の用だ?」
「ああ、分かってふざけてやっているだけだから、遠慮なくやってくれていいぞ?」
それがふとした弾みで公衆の面前でやったらどうするんだと思っていると、ヴォーグが真面目な顔で闘技大会の話をしてきた。
「そこまで悩む理由は何だ?」
「本当にコロコロ変わるな……
理由は今後の行動が取りにくくなると思うと、得策なのかと迷ってしまっている」
フムと珍しく考え込む姿勢を見せる。こうして真面目な態度をしていればモテそうなんだけどな。
ちなみにコイツは未だ独身だ。
「お前さ、結婚とかする気無いのか? このままだとマルスの血がいきなり耐えるぞ?」
「そのうちするさ。女が若けりゃなんとかなるもんだろ?」
ふざけて俺ととか言うとばかり思っていたが、意外にもしっかりして返事が返ってきた。そして俺の事も代行者を伏せれば問題無いんじゃ無いかと提案してきた。
「どうせわかる奴以外わかりゃしねぇだろ」
「そういうもんかねぇ?」
「新しく証明証作っておいてやるよ。ドルイドのサハラでいいんだな?」
あまりにも真面目なヴォーグに驚いて油断していたら、ワシっと胸を掴んできた。
おそらくヴォーグが話したい事が済んだからなんだろう。
「そんなに俺の身体が抱きたいのか?」
ニヤッとしながらワザと言う。コイツはドM王だ。殴られるのを期待していたヴォーグは胸から手を離すと寂しそうにボソッと呟いて部屋を出ようとする。
「その反応はつまらん……」
案の定期待を裏切られてガッカリしているようだ。ここで俺がSなら一発入れてやるんだろうが……俺はいたってノーマルだ。トボトボ部屋を出て行くヴォーグをそのまま見送った。
翌日には約束通り新たな証明証が渡され、更に数日が経つ。侍女達もかなりしっかりとしてきたと思う。しかしなんでまたこんなにも侍女達の質が落ちたのだろうか?
まぁおそらくヴォーグのセクハラあたりだろうな。
その証拠に今もーーモニモニ、モニモニ。
「だから胸を掴むな揉むなぁぁぁぁ!」
ボスっとボディブローを入れたが、なぜか股間に命中する。
「俺の俺様がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
こいつ自分で軌道修正してやがる……
こうしてこのドM王の王宮で暮らし、1月が経ちアロンミット武闘大会が開催される日を迎えるのであった。




