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ヴォーグ王

 翌日早朝、俺は城塞都市ヴァリュームを出た。目指すはマルボロ王都だ。

 見送りに来てくれたシャリーが女の姿の俺に手をヒラヒラ振りながら、にこやかにまたのお越しをお待ちしていますわぁと言っていた。


 つまりまたここを利用しに来ることがあるということなんだろうな。



 サーラの姿で町を抜け一路王都を目指す。フェンリルは当然ピアスに戻ってもらっている。

 縮地法と高速移動で行けば、今日中に王都までたどり着けるだろう。だが急ぐ必要もないし、この姿のままでいる方がトラブルに巻き込まれることが多い気もする。


 木陰に入り変幻自在(シェイプチェンジ)で元の姿に戻って着替えを済ませてからフェンリルも出てきてもらう。


 ちなみにフェンリルはピアスにずっといるままでも問題はないのだが、実体化できるからか俺と一緒に移動する方が好きなようだ。



“急がないのか?”

「急ぐ理由があるか?」

“そうだったな”


 歩いて城塞都市ヴァリュームからヴィロームの町を目指し野営をしながら向かう。この町はその昔オークの軍勢が現れた巨大な沼地が側にある事で有名な場所だ。

 100年程経った今もその根絶の為に住処を探して冒険者達が戦い続けている。

 最も冒険者達からすればただの狩場となっているだけでしかないようが……


 そしてヴェニデ、ヴォイドを抜けて王都にたどり着く。



「めちゃくちゃ街道が安全になったなぁ」

“そうなのか?”

「ああ、昔は街道で普通に魔物でたもんだぞ」

“そか”


 どうでもいい時にコイツはこういう返事をする。それはいいとして……ラークの奴生きてるんだっけ? まぁ国王が変わってたらパイプは途切れちゃうかもしれないけどそれはそれで仕方がないか。


 王都に侵入(・・)し王宮に向かう。門からは流石に入り込めないためだ。



「何者だ!」

「えーと、ラーク王に用事があるんですが……」


 まぁ当然それで通してもらえるはずもないだろうな。こんな時にアリエルがいれば上手い考えを教えてくれたもんだが……今は繋がりもなくなって感じ取ることはない。


「一応名前を伺わせてもらおう」

「……サハラ」


 俺が名前を言うと2人の番兵のうちの1人が早足で走り去っていく。そして残された番兵が頭を下げてきた。


「その名を語る者が現れたら必ず通すように仰せ遣わっております」

「そうですか」



 しばらくすると使いの者が現れて、俺を王宮に通した。謁見の間に通されると衛兵などおらず、ただ1人玉座に座る男が俺に声をかけてきた。ラークよりどちらかといえばマルスに近い容姿で年齢も俺と同じぐらいだろうか? そして俺もひれ伏す理由もないため立ったままでいた。



「サハラを名乗るのはお前か?」

「ラークではなくラークの子か。名前は?」

「ヴォーグだ。親父に聞いていた通り無礼な男だな!」


 どうやら容姿だけでなく、性格もラークよりもどちらかといえばマルスに近いように思う。



「って、ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」


 ヴォーグが剣で斬りかかってきた。こんなことになると思っていなかった俺は慌てて回避する。


「悪りぃ、俺は親父と違ってよ。俺自身で確かめなきゃ納得しねぇ!」

「何をだよ!」

「マルボロ王国王家は、血の繋がる限りサハラを支えろ。だとよ!」


 なるほど、マルスの奴泣かせてくれる家訓だ。


 鞄から杖を取り出し構えを取り、ヴォーグと向き合う。



「全力でかかって来い! 一撃与えられたら納得してやるよ!」

「……本当に全力で良いんだな?」

「証明してみせろよ!」



 この手の奴は手加減するのは良くない。修道士(モンク)の呼吸法、騎士魔法の感知(センス)予測(プレディクション)、縮地法全てを使って俺は……



「いやー、さすがだ。何にも見えないうちにやられたぜ!」


 一試合というのかわからないが、そう言いながら手を差し出してきた。


「ヴォーグ、お前はラークよりもマルスにそっくりだ。言葉使い以外はな」

「へぇ! 爺さんにか。そりゃあ光栄だ。

……それはそうとだ、約束通りお前を支える。最も俺が勝っていても支えていたがな」



 突然真面目な顔つきになり、ヴォーグは俺を全力で支えると約束してくれた。しかも俺が負けていてもだと言う。



「なんでだ?」

「そんなことしたら婆さんに怒られちまうからな。一応女神なんだろ?」

「あー……まぁそうだな、お前の婆さんなら今にでもーー」

「全く人を婆さん婆さん言うなぁぁぁぁぁ!」



 やっぱり出てきたか……そりゃここマルボロ王国はレイチェルのホームフィールドみたいなもんだからな。

 しばらくレイチェルとヴォーグがごく普通に言い合っている姿を俺は見つめていた。ひとしきり言い合いが終わるとレイチェルが俺を見つめてきた。


「サハラ……」

「悪いなレイチェル、しばらく神とは関わりたくないんだ」

「……そう、だよね。ゴメンね」

「こっちこそ自分勝手な事を言って済まない」



 俺が言い終わるかどうかのタイミングでレイチェルは消え去っていった。


「なぁ、うちの婆さんと喧嘩でもしたのか?」

「長いこと生きてると、色々あるんだよ」

「お? それ深良い言葉ってやつだな?

それで具体的には俺はどうしたら良い?」



 ここで俺は素性を隠したいから、サーラとしてここの侍女をしている事にさせて貰いたいことを伝えると、ヴォーグが顔を歪ませた。


「以前、サーラという人物がいるかと尋ねてきた奴が来たらしいと話を聞いている。知り合いだったか?」



 それを聞いた次の瞬間にはヴォーグの襟をひっつかんで、どう答えたのか、どんな奴だったかを尋ねていた。



「おいおい、俺一応国王なんだしコレはやめてくれないか? 誰かに見られたら言い訳も難しいぞ。

……とりあえずその感じからすると、敵か?」



 頷いて答えると、ヴォーグが顔をニヤッとさせ、報告だけだから実際には見ていないからわからないと言われた。ただ報告では年端のいかない少年だったこと、そして侍女については貴族でもなんでもない一介の少年には教えられないと伝えたと聞いていると言われホッとする。

 だがこれで間違いなくレグルスが最低でも1度ここに来たことだけはわかった。




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