不安
学食を食べ終えアリエルに声をかけようとしたが、レグルスと話をしていた為、俺は1人男性寮の自室に戻った。
“いいのかサハラ”
「あまりよくないけど、あそこで強引に連れ出したらヤキモチ妬いてるみたいだろ?」
“そういうもんかぁ? 人は面倒なんだな”
「精霊はどうなんだよ?」
“精霊にはそんなもんない”
「へぇ、じゃあどうやって生まれるんだ?」
“身体から千切れるように生まれる”
初めて知った。精霊は男女っぽいものはいるけど、別にだからと言って恋愛とかはないらしい。
“そうそう、大地の精霊に一応聞いてみた”
どうだったと聞こうとしたところでドアがノックされる。またキャスだろうとドアを開けるとデノンとビクターだった。
「よ! 1人で寂しいと思って来たぜ!」
「まぁ他にも理由はあるんですけどね」
「とりあえず中にどうぞ」
中に入るなりデノンが酒を取り出す。本当は酒は好まないが飲めなくもないし、せっかくの好意を無駄にするわけにもいかずチビチビ飲みながら会話が始まる。
やはりと言うか、話はレグルスの事だった。デノンは恋人のアリエルを奪うようなことをしているが許せないらしく熱くなっている。
ビクターがそれを抑えながらも俺に放っておいていいのか聞いてきた。
「平気かと言われれば平気ではないですけどね。でも、ヤキモチ妬くみたいでみっともないでしょう? 相手はまだまだ8歳の子供ですよ?」
「8歳なら十分精通してっぞ?」
ヒックと酔いが回り出してるのかデノンがズバッと言ってくる。
「デノンさんそれは話が飛び過ぎですよ」
「ビクター、甘い! 甘すぎるぞ! 若いってのは恐れを知らない。放っておいたら歳下ならではの甘えを使ってきかねん!」
「何ですかその経験者みたいな言い方は……」
ガハハハーーとデノンが酔っ払いながら豪快に笑う。
「デノンじゃないですが、私もあれは行きすぎてると思います。早めに何とかするべきですよ」
俺はアリエルと精神的に繋がって会話もできるし、視界なら見れる為そこまで気にしていなかったが、2人は本気で心配してくれているようだった。
デノンがだいぶ酔っ払い、そろそろ危ないんじゃないかと心配し始めたところで、デノンがそろそろ限界だと部屋を出て行く。それが終わりの合図になったようにビクターもデノンと一緒に部屋を出て行った。
“心配じゃないのか?”
「話、してみるよ」
『アリエル……』
『サハラさん、ゴメンね。心配掛けちゃった?』
『いや……まあね』
『サハラさんレグルス君とあまり会話しないから分からないかもしれないけど、彼、話してみると素直で楽しいよ』
『そうなんだ』
『それに今日は2人きりじゃなくて、サルガス君とアダーラちゃんも一緒だったんだよ。それで2人もあたしとサハラさんの事気にしていてくれて、レグルス君に言ったの。そうしたら泣きながら謝っていたよ』
『そうか』
俺はアリエルと繋がりながらもイラついていた。実際には遥かに離れている年齢の子供の事ばかり話をしてばかりいるからだ。
その後もしばらくアリエルはレグルスとサルガスとアダーラと一緒に話した事を楽しそうに話しているのを聞かされる事になる。
『ーーそれでね』
『アリエル……もういいよ。そろそろ寝よう。俺、少しだけど酒が入ってて眠いんだ』
『うわ、そうなんだ。じゃあ、また明日ね』
『ああ、それじゃあ』
アリエルと繋がるのを終え、吐き気を覚える。
“サハラ大丈夫か?”
フェンリルが心配そうな顔で俺を見つめてくる。
「大丈夫だ。ちょっと飲みなれてない酒に酔ったみたいだ」
本当は嘘だ。俺は修道士の力のおかげで毒や病気、精神に及ぼすものは効果がない。非常に孤独感を感じながら俺は眠りについた。
翌朝、教室に向かうとデノンとビクターがよぉと声をかけてくる。2人がチラッと一瞬見る方向にはアリエルとレグルスが仲よさそうに話している姿で、部屋に入ってきた俺に最初は全く気がついていないようだった。
「あ、サハラさん、あれ大丈夫? 顔色悪そうだよ?」
お前のせいだろ。
「いや、大丈夫。ちょっと昨日デノンとビクターと飲んだ酒が残ってるみたいだ」
「そうなんだ。サハラさん普段お酒飲まないからね。気をつけてね」
「ああ、うん」
アリエルが全く気がついていない。と言うかあまり俺の心配をしているようには見えなかった。
「アリエルさん、もうちっと俺たちに気にしないでサハラとの仲を見せつけてくれてもいいんだぜ?」
「そうですよ、あまり過激なのは私たち以外は若いですから避けたほうがいいですけどね」
アリエルがあははと笑っているが、その視線はチラッとレグルスを見ているのに気がついた。
最悪だ。こんな事になるなら、魔道学院に来るんじゃなかった。
一体アリエルはあいつの何処がそんなに気に入ったんだろうか。レグルスをチラッと見ると、サルガスとアダーラと話をしている。俺は冒険者繋がりからでデノンとビクターと親しくなれたが、レグルスはリバーシの事も言わずに話す人とどんどん親しくなっていく。
「ーーサハラさん、サハラさんってば!」
「ん、ゴメン。聞いてなかった」
「っもう、本当に今日はどうしちゃったの?」
「まだ酒が残ってるのかもな」
「そっか、サハラは酒弱かったのか? すまない事したなぁ」
「いえ本当に久しぶりに飲んだからだと思いますよ」
そして学長が教室に来て授業が始まる。内容は各系統の魔法の特色などの話だった。
昼食時間になり、俺が食堂に向かうと金髪の美少女のアルナイルが俺のそばに来る。
「あの、サハラさん、大丈夫ですか? 朝から気分悪そうでしたよ?」
「いや、大丈夫ですよ、昨日少しお酒飲んで残っているみたいですね」
俺がそう答えると何かを言いかけたが、そうですかと黙り込んだ。
「サハラさん、お昼行こう。あれ? アルナイルちゃんだっけ? どうしたの?」
「いえ、ただサハラさんの体調が優れないようだったので気になっただけです」
「ふーん、そうなんだ?」
「な、何ですかその何か言いたげな顔は」
「別に〜」
俺はアリエルとアルナイルの3人と1匹で食堂に行き、食べるものをとってテーブルに着いて食べ始める。
「あ、アリエルさん、俺も一緒にいいですか?」
レグルスがわざわざ探してまでアリエルのところにやってきた。
「別にいいわよ、ね? サハラさん」
「ん、ああ」
「それじゃあお邪魔します」
レグルスが加わり、アリエルに話しかけ始めたことで微妙な空気になり、俺は食べるのをやめて席を立った。
「あれ? サハラさんもういいの?」
「うん、なんか受け付けないみたいだから、少し風に当たってのんびりするよ」
「そうなんだ。気をつけてよね」
アリエルはついてくる様子は見られない。
俺は苦笑いを浮かべながら片付けをして、廊下を歩いて行くとアルナイルが駆け寄ってくる。
「さっき言い逃したんですが、本当はアリエルさんの事ではないですか?」
「まぁ無いとは言い切れませんが、大人げ無いでしょう?」
「いえ、ただ私、レグルス君は少し怖いんです」
「怖い?」
移動しながら話をしていき、訓練場の木陰が出来ている場所に行き座り込むと、アルナイルも隣に座ってきた。
と言うわけで、やっとここまで来ました。じわじわと来ますよ。