表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/212

ポットの娘

 ポットの依頼を受けた俺は町から出るフリをして人気のない場所まで行き、フェンリルにピアスに戻ってもらうとそこから一気に縮地法を使って空中に飛び上がって、ポットに言われた辺りの上空から見下ろす。


「縮地法便利、なんだけどなっと、空をっと、飛んでいるわけじゃ、ないからっと、飛び飛びでっと、しか見れないのがっと、欠点だなっと」


 そんな独り言を呟きながら、瞬間移動と辺りを見回しを繰り返しながら人影を探す。

 葉を撒き散らしながら籠が落ちているのを見つけてそこに降り立った。


 感知(センス)で辺りの生物などを感じ取るが、人を感知することはなかった。

 そして落ちている籠の周りを見ても血痕のようなものはないため、出血の心配はなさそうだ。


“サハラ、こっちに匂いが続いている”


 ……俺の分析は無意味なものだった。



 フェンリルが臭いを追って走り出す。その後を杖を取り出して追って行くと突然フェンリルが止まった。


“この先だ”



 覗き込むと木の陰の所で猿ぐつわをされた女性が1人、それと3人の男が腰かけて話をしていた。


「コイツを売りゃあ結構な値段になるだろ」

「こんな時間に女1人でこんなとこほっつき歩くなんて馬鹿だよなぁ」

「あ、味見してから、う、売ろうぜ」

「馬鹿野郎! 処女だったら上乗せできんだ。売ったわけ前で娼婦館でも行け!」



 3人は時間的に冒険者が少ないのを知っているようなところから、計画的な犯行だろう。


 それじゃ助けに行くかぁ、と踏み出そうとした時に近づく馬車の音で一度身を引く。



「おー、おっさんタイミングばっちりだぜ!」

「馬鹿、騒ぐな! 早く馬車に乗ってマルボロ領を出ないとマズイぞ!」


 どうやらポットが冒険者ギルドに依頼を出した事を知って慌てているようだった。

 暴れる女性を抱え上げ馬車に乗せようとした所で俺とフェンリルは顔を出した。



「あんだぁオメェ?」


 3人が一斉に武器を抜き放ち、警戒しながらこちらの出方を待っている。

 俺は被っているフードを引っ張って更に深く顔を隠すようにして杖を構え、フェンリルは姿勢を低くして唸り声を上げる。



「オメェ、俺達に何の用だ?」

「そこで拘束されている女性を連れ戻す依頼を受けてね。返してくれれば見逃してもいい」


 もちろんそんなつもりはない。それにどうせ……


「お前と犬っころだけで俺らを倒せるとでも思ってんのか? こう見えて俺達3人共マスター級だぞ?」


 マスター級か……久しぶりに聞いたな。

 この世界では武器だけで戦う者を戦士と言う。そしてそれぞれの扱う武器ごとにランクのようなものがあり、マスター級はその通りその武器の扱いをマスターした者を言う。



「で?」


 俺がそう言うと3人が「は?」と同時に声を上げた。


「お前馬鹿か? マスター級が3人だぞ? 勝てる自信があるってのかよ!」

「馬鹿モン! そいつの容姿を見てみろ。おそらくウィザードだ!」



 俺が平然としている事からウィザードと勘違いをした馬車を引いてきた男がわめいた。


「なるほど、それでマスター級と聞いても平然としてやがんのか」

「狼は詠唱の為の時間稼ぎ用ってとこか?」

「お、おらが叩き潰してやる!」


 やれやれ……ならご期待に応えてやるか。


「精霊よ古の契約に基づきその義務を果たせ。

エンタングル!」


 男達が慌てて攻撃に移ろうとしたが、既に俺のドルイド魔法が発動していた。


「うおっ! 蔦が、蔦が絡みつく!」

「動けねぇ! クソがぁ!」

「こ、こんなものオラの力でぇぇぇ!」

「貴様、ドルイドだったのか!」



 4人の身動きを封じ、俺は悠々と猿ぐつわをされた女性の元に近づき解放した。



「大丈夫か?」

「あ、は、はい。助けていただいてありがとうございましゅ」


 あ、噛んだよこの子。


 噛んだ事が恥ずかしかったのか、顔を赤くさせて俯いてしまっている。


「君のお父さんに依頼を受けた。町に戻ろう」

「あ、はい。あの、その前に薬草を取って来ないと!」


 おいおい、今君攫われかけたんだぞ?

 見ればぽや〜んとした顔をしていてどこか抜けているというか……ってまぁ良いか。



「君のと思う籠と薬草ならこれかな?」


 鞄から薬草の詰まった籠を取り出すとひったくるように俺の手から奪い取った。


「あ〜良かった。これで注文の分は足ります。 助けていただいてありがとうございました、それじゃあ帰りますね」


 テクテクと歩き去っていった。



 おーい……俺、置いていっちゃうのか? と言うか攫われかけたのにそれで良いのかぁ……


 エンタングルで身動きが取れない4人も、俺とポットの娘さんのやり取りをあっけにとられたまま眺めていた。



「あのぉ俺達どうなるんでしょう?」


 人さらいの1人が俺に聞いてきた。


「まぁ未遂……になるのか? 次にもし悪事を働いているのを見かけたら許さないってことでいいか?」


 4人がコクコクと首を振る。


「それじゃあ、もうちょっとしたら自由になるから……」



 俺も4人もあっけにとられたままそこで別れ、俺はわけわからないまま取り敢えず確認とポットに報告だけはしておこうと町に戻った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ