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前を進んで

 シャリーが契約書を俺の手からふんだくるように取ると、羽根ペンの羽根で9と10の項目を撫でる。するとインクで書かれていた文字が綺麗に消え去り、新たに殴り書くように書き直し出しはじめた。



「これならいいですわね」


そう言って書き直し手渡された契約書には10が消え9つ目が書き直されていた。



9つ、名前はシアを名乗りその姿のまま働く事、ただし今後サハラ王様との関与は認めない




「これが受理できないのであれば、あとは私の所では雇えませんわ」


 そう言うと席を立って個室から出て行ってしまった。


「ど、どうしよう? 怒らせちゃったみたいだよ」


 シアが聞いてくるのだが、口調はもうアリエルに戻っている。

 ここで働き住むのは俺ではなくシアだ。だからシアが決めればいい、だけどシアはアリエルをコピーした事で、俺の気持ちも考えてどうすべきか契約書を見せてきたのだろう。


 人間っていう生き物は弱い生き物だ。頭でわかっていても、失いたくない人に居続けて欲しいとつい思ってしまうものだ……ん?


 足元に何かが落ちている。拾い上げてみると、大切に鞄にしまっておいたはずのアリエルからの手紙だった。不思議に思いながら鞄にしまおうとした時にふと思い出す。



『あたしの憧れた人のまま前を見て進んでください』


 手紙に書かれていた事、あれが本当に本当のアリエルの気持ちだ。

 なんで気づかなかったんだろうと思いながら、俺の隣に座るアリエルを見つめる。


「サハラさん?」

「やっぱり君はアリエルじゃなくシアだな。アリエルは俺に先に進む様に言ったけど君は俺に会いたいと言ったな」

「サハラ様……」

「ここでお別れだな。幸せに生きてくれ」



俺はシャリーを探そうと個室を飛び出した。


 ボイ〜ン……


 個室から出た直後に柔らかいエアバッグにぶつかる。いや、シャリーの胸だった。


「答えが出たようですわねぇ。それでは契約を済ませてきますわ。

サハラ王様はなすべき事をして下さいねぇ」



 シャリーが手をヒラヒラさせながら、俺をその場に残して個室に入っていった。

 どうやらまたしても俺の気持ちは見抜いていた、と言うよりも全てわかっていたようだった。



「本当に何者なんだろうな、あの人は……」




 宿屋を出てフェンリルを呼ぶと馬小屋からすっ飛んでくる。頭を撫でるフリをしながら話しかけた。


「なぁフェンリル」

“サハラどうした?”

「前へ進もう」

“そか”

「なんだそのやる気のない返事は」

“なんでもない。 それでこれからどうするんだ?”

「そうだなぁ……」



 この1年レグルスを探すために悪魔を狩りまくったが、成果は得られなかった。


「あいつが動くまで待つしかなさそうだ。それまでノンビリ行こう相棒」

“そ……”


 フェンリルが急に口を閉じ頭を下げて答えた。



「冒険者の方でしょうか?」


 理由はこの男が話しかけてきたからだった。


「実は仕事の依頼をしたいのですが、こんなまっ昼間だと冒険者も冒険者ギルドもほとんど空でして……」



 ここ城塞都市ヴァリュームはそんなに離れていない場所にヴァリューム湖があった場所に遺跡があり、ほとんどがそこに向かってしまうために昼間は町にあまり冒険者はいないのが普通だった。


「そうでしたか、ですが俺はただの旅人なので他をあたってください」



 嘘はついていない。古い名簿に名前は残っているかもしれないが、今の俺は冒険者ギルドに属しているわけではない。とうの昔に寿命を迎えている存在だ。


 俺が立ち去ろうとすると、その男はなおも食い下がることなく俺の前に回り込んできた。


「そのような立派な狼を連れている旅人様であればーー」

「申し訳ありませんが、今亡き妻の思い出の地を巡っている所ですので」


 そう言ってフードを被る。


「そ、そうでしたか……」



 男はフラフラと俺の前から離れていき、他の冒険者風の人物を見つけると俺の時と同じ様に必死に声をかけていた。




“いいのか?”


 フェンリルが男の様子を見た後、俺を見上げて言ってきた。コイツは俺と旅を続けていく間で随分と変わった。出会った頃は俺に忠実に従うだけだったが、次第に人の気持ちなどを理解する様になってきている。


「要件ぐらいは聞いてみるか」



 冒険者を未だに探し続ける男の側まで行き、期待させない様に何をそんなに必死になっているか尋ねてみる事にする。


「急ぎでなければ知り合いに頼めるかもしれないので、話を聞かせて貰えますか?」

「貴方は先ほどの……ありがたい申し出ですが、お知り合いを待っている余裕があるのかすら……」

「聞かせてもらえませんか?」


 すると男が冒険者を探し回っている理由を話し出した。

 それによると、町からそう離れていない場所に薬草を採取する為に娘が1人で取りに出かけたそうなのだけど、朝出て行ったきり昼になっても戻らないと言う。

 その場所までは30分程で行ける場所で、手持ちのカゴに一杯にして持ち帰ったとしても、昼前には戻っておかしくない程度なのだそうだ。


「町を出る様な事をなぜ娘さんなんかに任せたんですか」

「うちは貧乏なので冒険者を雇って薬草を取ってきてもらえるほど余裕がないのです……普段であれば私が行くのですが、久しぶりに大口が入ってポーション作りに追われる私を見て娘が取りに行くと……

なんでよりにもよってこんな時にこんな事に……」


 ヴァリュームから30分程度か。

 アリエル、君がいたら必ず引き受けていただろうな……



「その依頼お引き受けしましょう。詳しい場所を教えてもらえますか?」


 男は大喜びで俺に感謝をしてくる。名前はポットと言って、この町で貧しいながらポーションを作り細々生計を立てていると簡単に自分の素性を明かし、場所と娘さんの身なりを教えてもらった。





毎回書いていますが、シャリーさんという存在に関しては気にしないほうがいいです。

またシャリーさんに関しての質問にはいっさいお答えできませんのでご了承ください。

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