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アリエルの手紙

 アリエルの姿をしたシアが、懐からもう1通の手紙を取り出し、クルクルとめくって少し見た後俺に尋ねてくる。



「あのサハラ様、アリエルさんの指示通り読んでよろしいんでしょうか?」

「そう書いてあるならそうしてくれ」

「はい、それでは……」


 改めて聞くような事なのか分からなかったが、俺がそう言うとシアが読み上げ始めた。



「サハラさんがこの手紙を聞いているという事はあたしはもう居ないんだね。

シアには無理を言ってあたしの姿になってもらっているので、怒らないであげてね」


 アリエルの姿をしたシアが前フリのように言ってきた。


「長い付き合いだから分かるんだけどさ。

サハラさん、この先アルと出会う時代まで生き続けなきゃいけないんだから、今からそんな調子だと今後やっていけないよ?」


 シアのシェイプシフターの変身能力で、なんだか本当にアリエルが目の前に居るみたいだ。


「全くひっどい顔しちゃって……でも、そう言うところもあたしは好きなんだけどねぇ」


 思わず苦笑いを浮かべながらシアの読み上げる手紙の内容を聞いていた。


「ねぇ、ちょっと聞いてる?」

「え?」

「もう! サハラさん余計な事考えてたんでしょ!」

「いや、え?」


 まるでアリエルが話しかけてきているようで、つい返事をしてしまう。


「まぁ、いっか。 それはそうと今後はどうするの? 学院辞めちゃってレグルスを追ってるの?」

「ちょっと待て、シア。それは本当に手紙を読んでるのか?」

「あたしとシアの区別も出来ないんだ?」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 混乱してくる。今目の前にいるのが本当にアリエルのようだ。


「やだ。答えて、あたしは誰?」


 そこで俺の答えを待つかのように見つめてくる。続きを待っても読み上げる気配がない。


「ねぇ、なんで答えてくれないの?」

「ふざけるのはいい加減にしてくれないか?」

「ふざけてなんかいない。答えてよ」


 怒りも多少込み上げてくるが、アリエルの姿をしている為か我慢するしかなかった。


「しょうがないなぁ……あたし今ね、シアに無理言ってほっとんどコピーして貰ってあるの。つまり今のシアはほとんどあたしなの」

「なっ! 本当なのか? じゃあ本当にアリエルなのか!?」



 シェイプシフターは入れ替わる者だ。完全にコピーすればシェイプシフター本人以外は絶対にわからないと言われている。


「わかった?

じゃああたしから1つだけ条件があるんだけど、その条件聞いてもらいたいの」

「条件?」

「そう、シアはあたしになってくれることを了承してくれたの。だからあたしを愛してくれるのと同じぐらいシアも愛してあげて欲しいの。

それとね、シアも寿命はあるからいずれ、結局あたしもシアもサハラさんの前から居なくなる覚悟だけはしておいて欲しいの……」

「それならまた真円の指環を着ければいいじゃないか」

「あのねぇ、身体の元はシアなんだから今のあたしは魔物なんだよ? サハラさんのゴッドハンドにはなれないよ」



 そこでふと思い出す。アリエルは死の間際に生きる事に満足したと言っていたはずだ。にも関わらず今のアリエルのやっている事はまるで真逆……


「アリエルなんでだ? なんで、そうまでして突然生きる事に固執したんだ?

それともやはり手紙の内容と言うのは嘘で、シアが適当に言っているのか?」


 するとアリエルがニコッと微笑んだ。


「シア、だから言ったでしょ。あたしを使っても無理だって」


 今度は一人芝居をし始めた。


「シア! ふざけているのならいい加減にしろ! 前に言ったよな、悪事を働くなら容赦はしないと!」

「サハラさんちょっと待って」

「まだ言うのか! 人の心を弄んでそんなに楽しいのか!」

「だから待ってって言ってるでしょっ! 今のあたしはあたしだよ! サハラさん分からないの?」


 どういう事だ、本当にアリエルだと言うのか?


「サハラさん聞いて、さっきも言ったけど今のシアはほとんどあたしなの。

手紙の事は嘘をついて悪かった、謝るわ。

実はこれには訳があるの」



 アリエルが理由を説明し始める。

 アリエルが自分の命が残り少なくなってきた時点でシアの元に行き、俺がいつか必ずここに来るから、その時にこのもう1通の手紙をシアが見てから渡して欲しいとお願いしてきたのだそうだ。

 するとシアがアリエルになって俺と一緒にいてはダメかと条件を出してきた。

 当然アリエルは、無駄だと思うよとは言ったがダメ元でもいいからとお願いされたんだという。


「シアにね、こんな所でずっと死ぬまで隠れ生きるのはもう嫌なんだって言われたの。

そのシアの気持ちが分かったあたしは断れなかった……」


 アリエルはソーサラーに生まれたが故に人から忌み嫌われ孤独だった。そしてシアもまた、シェイプシフターと言う人に寄生しないと生きていけないにも関わらず、危険な魔物と誤解される種族の為孤独に生きてきた。

 そんなシアにアリエルは自分と重ねて見てしまったのだろう。



 俺はもう一度だけ確認する為にアリエルの気持ちを聞いてみた。



「あたしの夢は全て叶ったわ。もう十分なぐらい満足したし、だから後悔なんてしていないわ」




 目の前のアリエルは、死を目前にした時に俺に言った事と同じ事を言ってきたーー




ベネトナシュに決定しました。

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