虚無感と再会
翌日にはアリエルの葬儀というものを行った。
葬儀にはキャビン魔道学院の生徒全員が来ていた。
クラスメイトがサハラを力付けようと来たようだが、サハラの姿を見ると何も言わずにみんな帰っていった。
全てが終わり、アリエルはキャビン魔道王国の墓地に入れられると、サハラはそこに何日も居続けた。
キャスやグランド女王、クラスメイト達も心配して声をかけに来ていたが、サハラの耳には何も聞こえていない様だった。
そして数日が経ったある日の事。サハラが立ち上がり、フードをを深く顔を隠す様に被るとふらふら歩き始めた。
俺も何も言わずにその後をついていく。
ちょうど様子を見に来たキャスが、サハラの歩く姿を見つけてに駆け寄ってきた。
「……行くの?」
「ああ」
「そっか」
たったそれだけ言葉を交わしてサハラと俺はキャビン魔道王国を去った。
それからサハラと俺は各地を転々とし、僅かな情報でも手に入ればそこに赴いた。
アリエルの死後は俺とも会話はほとんどしなくなり、町に行っても必要以上の会話を一切しなくなった。
そして悪魔との戦いになれば、ゴリ押しとも言えるような、作戦もなくただぶっ潰していく姿は、まるで命を惜しんでいる様子のない無茶苦茶な戦いぶりだった。
「答えろ、レグルスはどこにいる」
「フン、貴様が最近我らを倒しながらレグルスを探しているという冒険者か」
「御託はいい、答えろ」
「言うとでも思っているのか?」
「ならお前にもう用はない」
以前のサハラには無いぐらい恐ろしく冷酷さで、悪魔の息の根を止めた。躊躇などは一切見られないその顔に以前の面影はもはや残っていないように見えた。
そんな旅が続くと、中にはサハラの噂を聞きつけ、勝負を挑んでくる馬鹿な冒険者もいたが、そういう輩には何を言われようがサハラは徹底的に無視し、応じることは決してなかった。
そして各地を放浪し悪魔と戦いに明け暮れた日々を過ごし、1年が経とうとしたある日のこと、偶然立ち寄った霊峰の町で宿屋を探していると一件の宿屋の前で立ち止まり、サハラが珍しく俺に声をかけてくる。
「フェンリルここ覚えているよな?」
町中にいるため俺は頷くだけにとどめサハラを見つめる。フードから覗くその顔はアリエルの死後見られなかった優しげな表情……アリエルを思い出している様だった。
宿屋に入ると店主に離れは空いているかとサハラは尋ね、空いているのを確認するとここで休むことに決めた様だ。
離れの一軒家風に作られた宿に入ると、懐かしむ様に中を見回した後、サハラは疲れを癒すように温泉に浸かりにいった。
少しするとひょこっと見覚えのある姿が見え、それがあの時のシェイプシフターの女だと気がつく。
サハラを呼ぼうと思ったが既にサハラも気がついていた様だった。
思えばこの1年ほどサハラは奇襲などの攻撃を一切受けていない。町での些細な人物の接近すら許しておらず、俺が警戒する必要の無いほどだ。
そして魔力も帯びていないはずの棒を思い切り振り回しているところから見て、常時使える能力は全て解放したままのように思う。
「お久しぶりですサハラ様。その様子ですとアリエルさんは……」
サハラは何も答えず、ジッとシェイプシフターの女を見つめていた。
「……あの、実は渡したいものがあるんです。サハラ様達が帰られる日にアリエルさんに手渡された手紙です」
それを聞いたサハラが温泉から飛び出しシェイプシフターの女に近寄った。
「アリエルから手紙? 見せてくれ!」
「は、はい、今持ってくるので待っていてください」
手紙を持ってくるだけのはずが結構待たされお待たせしました失礼しますと声が聞こえた。その声は聞き間違う事無いアリエルのものだ。
そして扉が開かれるとそこにはふざけた事にアリエルの姿をしていた。
「シア、それはどんな悪い冗談だ?」
サハラがそう言うとシェイプシフターの女は慌てて叫ぶように弁解してきた。
「申し訳ありません! でもアリエルさんに頼まれていたんです 」
アリエルの姿をしたシェイプシフターの女が恐る恐るサハラに手紙を手渡す。
俺もサハラのそばに行き、アリエルの残した手紙を覗いてみた。その中にはこう書かれていた。
ーーサハラさんとフェンリルへ
あたしの姿をしたシアを怒らないで、もう1通の手紙をシアに読んでもらう事!
たったそれだけの手紙を見てサハラがズッコケていた。
「アリエル、らしいなぁ……」
薄っすら目に涙を浮かべながらサハラがそう言った。




