シアとシェイプシフター
よろめくアリエルを支えながら、謝りながらシアとアリエルが戻ってきた。
「ただいま……ゴメンね、またサハラさんに迷惑をかけちゃったね」
「本当に申し訳ありませんでした……」
本当に瓜二つのアリエルが2人いる。
「アリエル無事ならいいんだ。それとシア、君がいい人で良かった」
正直なところ喋らなければ本当にどっちが本物か全くわからない。
「ところでそのままだとどっちがどっちかわからなくなるんだけど、シアは姿を戻せないのか?」
「いえ、戻れます。ただかなり見苦しい姿を見せると思うので……外で戻ってきます」
「別に気にしないから戻ってくれていいよ」
「そう、言うのでしたら……」
そう言うとアリエルの姿だったシアの頭から背中にかけて亀裂が入りだし、皮を脱ぎ捨て始めた。その姿は非常に気持ち悪く、吐き気を催したが、気にしないと言った手前我慢するしかなかった。
アリエルはそんなシアの姿を見て、俺にしがみついて小さく悲鳴をあげた。
皮を脱ぎ終わったシアは、まぁ裸なわけだが、なんか妙にネバネバのベトベトした物が全身に付着してぬらぬら光っている。
まさにホラーだ。
そして気になる素顔だが、髪の毛もローションがかけられたかのようにベトベトではっきり言ってよく分からない。
「あのサハラ様、温泉を借りてもいいでしょうか?」
「はい、是非どうぞ……」
「サハラさん、あたしも入ってきてもいいかな? その、臭うでしょ」
「なら俺ももう一度入るかな?」
と言うわけでまた温泉に浸かることになる。入ってから気がついたが、アリエルは良いとして、シアも湯着など当然つけていないため裸だったことに改めて気がつく。
ヌタのようなものが取れたシアの姿は高校生ぐらい、17、8歳といった実に可愛い女の子のような姿だった。
しっかし……異世界物語って美女とか多いのが定番だが、これは……
「ねぇあなた……ま、さ、か、シアの裸見て妙な気起こしてなんかいないわよね?」
「いや、起こしてない。起こしてないぞ」
「でもここは起きてるみたいじゃない! この浮気者ぉぉぉ!」
と言うわけで、アリエルに思い切りひっぱたかれ、頬っぺたに紅葉を作成されたままシアと話をすることになった。
「まずシェイプシフターとは一体何者なんだ?」
「シェイプシフターは一応魔物よ。ただ基本的には自分好みの人と入れ替わって、その地位を築いて生きるのが一般的かな」
「はい、私は人ではありません」
「なんでアリエルだったんだ?」
「その、う……」
「「う?」」
「羨ましかったんです!
今までも誰かと入れ替わろうと思いましたが、決心が今ひとつつかなかったんですが、サハラ様とアリエルさんの2人はとても眩しかったんです」
と言うことらしい。でも今の姿のままでも十分可愛いのだからそのまま人として生きれば良いんじゃと思いそれを口に出すと、またアリエルに引っ叩かれ、俺の両頬は紅葉の形に腫れ上がった。
「い、痛いぞアリエル!」
「あなたが悪い!」
こんなみっともない光景を目にしているにも関わらず、シアはクスクス笑っていた。
そしてシアが理由を話し出す。
シェイプシフターは元の姿のままだと月に一度くらいのペースで脱皮を繰り返すという。それが見つかってしまえばシェイプシフターだとバレ、殺されてしまうそうだ。
一度変身してしまえば、戻らない限りはその姿を脱皮せずに維持していけるらしい。
「別に害を及ぼしたわけでもないのにか?」
「はい、過去にその能力を使って悪事を働いた者が多くいる……と言うよりもそういうシェイプシフターの方が多いのです」
「まぁそうだろうな……」
しかし謎も残る。シェイプシフターの種の存続はどのようにしているかだが、それはシアが言うには、男のシェイプシフターは人の女に産ませ、女のシェイプシフターは人に孕ませて産み育てるのだそうだ。だがそれは同時に己がシェイプシフターだとバレる行為で、生まれてくる赤子はシェイプシフター特有のヌタに包まれて産まれてくるのだそうだ。
故に種の存続する時は、相手を殺してしまうか、子を連れて逃げるしかないと言う。
「でもシアぐらいの可愛さなら気にしないと言う男だっているんじゃないか?」
そう言うとシアは嬉しそうに照れる。鼻の下を伸ばした俺の頬にアリエルのパンチが飛んできた。
「い、痛い。マジで痛いですアリエルさん」
「レイチェルさんがマルスさんを殴っていた気持ちが分かった気がするわ!」
驚き少しひいた笑いを浮かべながら、シアは確かにそう言う人も中にはいるそうですと言った。
そしてもう一つの疑問があり、なぜアリエルと繋がれなかったのか? なぜアリエルが魔法などで逃げれなかったのかを尋ねると、シェイプシフターの脱皮した皮には、全てを遮断して隠蔽しようとする力があるのだそうだ。
「それは凄い力だな。って事はつまり……」
チラッとアリエルを見つめと、シアが慌てた様子で隠れ住んでいた岩山の中に自分の皮がたくさんあるからだと付け加えた。
どうやら巻きつけられたわけではなかったようだった。
「それで貴女はこれからどうするつもりなの?」
アリエルがシアにそう尋ねると、ここは温泉の硫黄の匂いのおかげで脱皮しても匂いがばれない為、許されるなら今後もここで隠れ住んでいくつもりだと話した。
「そうだな、君が悪事に手を染めない限りは何もしないよ」
「は、はい、ありがとうございます!」
俺とアリエル2人だけの時なら来ても構わないと約束すると、シアは嬉しそうに喜びながら岩山に帰っていった。
「シアみたいなシェイプシフターは可哀想だな」
「そうね、望んで産まれてきたわけじゃないんだしね。
ねぇあなた、それよりも……」
アリエルが口づけてきて、ほんの少しだけ口を離した場所で俺を見つめてくる。
「あなた、うううん、サハラさん聞いたんでしょ? あたしの過去」
顔を背くことのできない距離でアリエルが言ってきて、顔を動かす事ができない俺は目を逸らしてしまった。
「やっぱりね。ならお願い、あたしの為に無理をするのはもうやめて」
分かったなんて言いたくはなかった。けど、アリエルの気持ちを大事にしたいとも思う。
「……その約束は、できないな」
翌日から2人きりになるとシアが現れ、共に過ごすようになり打ち解けあっていった。
もちろん夜のなれば戻っていき、俺とアリエルを邪魔する事はしなかった。
そしてこの旅行の終わりの日が近づき、残すところ2日になった時だ。
「あと2日でお別れだな」
「こんなに楽しかった日々は産まれて初めてでした」
「一緒に来ちゃえって言いたいところなんだけど、シアは一応魔物だからねぇ……」
そして別れの日が来たが、その日シアが姿を見せる事はなかった。
「来なかったな」
「うん……」
こうして学院の旅行は終わり、俺たちはキャビン魔道学院へと戻っていった。
以前から書いてあったサハラと旅をする仲間になるクラスメイトですが、明日夜で締め切らせていただきます。




