不死王
あれだけの攻撃を加えて無傷はさすがにありえない。それに聖水で火傷を負ったはずだった。驚く俺に気がついたのか不死王が答える。
「ん? 傷か? そんなものは既に治った」
「さすがは不死王と言ったところか?」
「だがここまでやってくれた人間は貴様が2人目だ」
そこで初めて俺はある事を思い出して聞いてみることにした。
「マナの暴走の前に1つ聞きたい。バルロッサと言う名前に聞き覚えはないか?」
ピクッと不死王が反応を示し、頷く。
「知っている。先ほど言った、我と相応に戦った人間の名だ。実に懐かしい名を知っているな」
やはり、と俺は鞄からバルロッサに渡されたロケットペンダントを取り出して渡す。
「これは、我がバルロッサに友情の証としてくれた物だ。なぜ貴様がこれを持つ!」
「話せば長くなるが、バルロッサは、バルロッサ王は俺の師匠だ」
「否事を言う。彼奴はとうの昔に死んでいるはずだぞ?」
そこで俺はバルロッサがリッチになったこと、そして今はある場所にいることを話した。不死王はそれを黙って聞き、最後にこう言ってくる。
「つまり、貴様と我は出会う運命だったのだな。だが師匠と言う割に魔法は使ってこなかったようだが?」
それを言われ即座にそっぽを向き、顔を指でコリコリと掻きながら答える。
「俺には……魔法の素質が無いらしい」
それを聞いて不死王は爆笑する。何故かその姿がどことなくマルスに似ているなと思った。
「これを渡したということは、我は貴様の友として力を貸さねばならんな。これからは遠慮なく我を頼れ」
「まさか不死王が友となるとは夢にも思わなかったな。なら友として頼む、マナの暴走を止める方法があったら教えて欲しい」
不死王は燃えるような瞳で俺を真っ直ぐ見つめると、口を開きだした。
それによると1番簡単なのは不死王の眷属になること。これはエラウェラリエルも言っていたことで、不死王の眷属になれば生命活動の源と言えるマナを必要としないため即座に解決できると言う。
当然それは受け入れられないのだろうと、もう1つの手段を話してきた。
「実現はほぼ不可能に近いがもう1つだけある。
それは神になることだ。神になればマナも重要だが、それ以上に神威と言うものが必要になる。神威と言うものは一種の神の生命でもあり、それがある限り死ぬ事はない」
アリエルの事を話してはいないため、不死王はあっけらかんと「まぁ無理な話だ」と笑って言った。
「アリエルを……神にすれば助かるのか……」
今まで黙っていたリリスが突然口を挟んできた。
「少しお待ちになって。そのアリエルと言うのは一体どこのどう言った方なのかしら?」
「俺の、妻だ」
アリエルの名を出してしまった以上隠す必要もなくなり、俺はリリスにそう答えた。
それを聞いたリリスが突然気が抜けたような顔になる。
「ハハハ、リリスよ、どうやら想い人にフラれてしまったようだな」
まぁ、マルスの死の間際でなんとなくわかってはいたけど、ヴァンパイアが人に恋するなよ。男女逆だがどこぞの映画か。
「ありがとう不死王。それとゴメンなリリス」
不死王は見開いたままの燃えるような瞳を細めて口元をつり上げ、リリスはまだ呆然としているようだった。
「貴様宛でもあるのか?」
「俺は、自然均衡の神の代行者だ。もしかしたらなんとかなるかもしれない」
「ハッ! そういう事だったか。ならば友よ、可能性は限りなくゼロではなくなったな」
俺が立ち上がり帰ろうとすると不死王が呼び止める。
「これは貴様が持っておけ。もし俺が必要なことがあったらいつでも呼ぶがいい、貴様を助けよう」
「分かった。ありがとう不死王」
不死王と握手を交わした俺は館を立ち去る。
“凄いなサハラは”
「何がだ?」
“神に精霊に不死の王だろ、まるで世界全体が力を貸してるみたいじゃないか”
なぜかフェンリルが嬉しそうな顔で言う。
「フェンリルは知らないだろうが、あともう1人……いや、ドラゴンもいるぞ。お前がよく知る相手だ」
“赤帝竜か!”
「そのうち会いに行く」
“倒しにか!?”
「いや、ルースミアは、赤帝竜は俺を手助けしてくれた大切な仲間だ。お前にとっては仇かもしれないが、分かって欲しい」
“サハラがそう言うのなら従う”
コイツは聞き分けがいい。本当に可愛いペットのようだ。
“それでどうするんだ?”
「とりあえず黙っておく。神にしてくれなんて言って簡単にして貰えるようなもんじゃないから確実性に欠けるからな」
“わかった。俺も黙っておく”
「助かるよ」
霊峰の町まで戻り町を歩いていると、ふとある事を思い出した。
確か昔ここに来た時って、湯着があって男女混浴じゃなかったか?年代とともに変わってきたのか、それとも単に茶化されただけだったのか……
どちらにしても湯着の類は着ていなかったから当然避けるべきだよな。
「で、リリスはなんで付いてきているんだ?」
霊峰の町に戻って1人と1匹で町をぶらついてしばらくしてから後をつけてくるのは気がついていた。
「気がついていたのならもっと早く声をかけるのが、紳士なのではないのかしら?」
「悪いけど俺は紳士じゃなくてね。俺を追ってきたのか?」
「べ、別にサ、サハラを追ってきたんじゃないですわ。そう! 獲物、獲物を求めてですのよ」
「そう言う理由だと、悪いがお前を倒さなければいけなくなるぞ?」
あ……まずい泣きそうな顔してる。
「冗談だ冗談。どうせ妻が気になったんだろ?」
「う……」
大当たりか。
「ち、違いますわ! 私は兄様の言いつけ通り、サハラが困っているようだから助けようと思っているだけで、サハラの妻が気になってるわけではなく……」
「分かった分かった。紹介するからそうしたら帰れよ。それとあそこで話した事は秘密だ」
「奥様はマナの暴走を知らないのですの?」
「いや知っているが、ハッキリとした助ける術が見つかっていない以上、ぬか喜びはさせたくないだけだ」
「羨ましいですわね」
「なんか言ったか?」
「いいえ別に何でもありませんわ」
しばらく話をしながら歩くが、なかなか戻ろうとしない俺に業を煮やしたのか、リリスが不機嫌になっていく。
仕方がなく時間を潰している理由を話すと納得してくれたようで、それならとにこやかに腕をとって歩き始めた。
「おい、他のやつに見られたらどうすんだよ」
「あら、別に友人の妹とでも言えばいいだけではないんですの?」
マルス……この言い回しや行動、リリスは間違いなくお前の妹だな。
十分な時間を潰したと思い、宿屋の離れに戻った。




