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ワールド・ガーディアン〜新たなる転生者〜  作者: 小さな枝切れ
第4章 学院生活とアリエル
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リリスの館

 俺とフェンリルは霊峰の町を出て街道を歩いていく。少し行ったところで人気がなくなった所でフェンリルが話しかけてきた。



“どこに行く気だ?”

「もう1人知り合いがいるだろ」

“そか”


 あまり気は乗らないが、僅かでも可能性があればそれに賭けたかった俺は、ある場所を目指す。

 そこは古びた館があり、長い年月放置されたせいかボロボロで明かりもついていない。

 ここの住人の性格を知っている俺は騎士魔法の感知(センス)予測(プレディクション)だけは一応使っておいた。


“禍々しいな”

「そう言うなよ。ここには俺の友人の妹が住んでいるんだからな」

“ああ、あの小娘か”


 実際には顔合わせはしていないが、フェンリルはピアスにいる間も見聞きする事はできるから覚えていたようだ。



 館に近づき扉に手をかける。その時俺の背後に気配を感じた。


「お久しぶりですわね、確かサ、サハラでしたわよね」

「驚かせないでくれよ」

“気がついていたくせによく言う”

「社交辞令って奴だよ」

「あら? 喋る狼……違いますわ。お前、精霊ですわね!」

「詳しくはこれから話すからとりあえず入ってもいいかな?」


 真っ赤な燃えるような瞳でジッと俺を見つめ、頬を少し赤く染める。


「い、いい、いいわよ。付いていらして」



 そういって館に案内されると中は埃まみれで、あちこち蜘蛛の巣が張っている。座る様な場所もなくこれなら外の方が良かったなと思ってついていくと、小綺麗にされた部屋に通された。



「なんですの?」

「いや、ここは綺麗になってるんだなと思ってね」

「私を訪ねてくる者などいませんが、それでも嗜みというものがありますのよ。

それで? 訪ねて来たということは当然何か頼み事でもあるんですわよね?」



 彼女の名はリリス、俺の昔の仲間にして初代マルボロ王国の国王となったマルスの妹だ。訳あって彼女はヴァンパイアとなって生き続けている。


「実は頼みと言うよりは相談があって来た」



 俺はアリエルの事は伏せて麻薬の事を話した。途中で毎回マナの暴走だとフェンリルが口を挟むのは恒例になりつつある。


「マナの暴走と言われましても、私は詳しくはないですわ。もし知っているとすれば……私をヴァンパイアにしたあの方なら何か知っているかもしれませんですけど」

「あの方とは?」

「不死の王ですわ」

「不死の王……それで何処にいるかは……わからないんだよな?」

「知ってますわよ?」


 知ってんのかよ。



 場所を聞くとなんと迷宮の町の湖上の島にある古城だと言う。それを聞いて嫌な記憶が蘇ってきた。それは悪魔王レフィクルを倒した後の話だ。俺が女体化して元に戻れなくなっている間拠点にしていた町で、そこでアリエルとも出会った。だがそれ以外は吐き気がする記憶しかない。



「そこは知っている。だけどあの城の主人はもういないと言われていたはずだが……待てよ、確か城の上階層は立ち入り禁止となっているとか言っていたな」

「ええ、彼はそこに今も住んでいますわ」

「さすがにあそこまでは今からじゃ間に合いそうもないな……」

“サハラ!”



 リリスとの会話に気を取られて全く気がつかなかった。感知(センス)にすら反応せず、いつの間にか俺の真後ろに誰かが立っている。


「氷狼の精霊、しかも最上位精霊か。それと人間?

リリス、随分と珍しい客が来たものだな」

「これは不死王様ご機嫌麗しゅう存じます」



 俺がゆっくりと振り返ると、中性的な顔立ちをした、燃えるような真っ赤な瞳と金髪に貴族服姿の男がいた。その男からは神やレフィクルに匹敵するほどのプレッシャーを感じた。



「こちらは兄様のご友人のサハラですわ」

「ほぉお、お前があの……」

「どう言った意味ですかそれは」

「我を見ても動じぬか。ただの愚か者か、それとも……」


 足音を一切立てず日その男、不死王は歩いて俺の元に近づく。フェンリルは警戒を呼びかけている。



「サハラ、残念ですけどそのお方には敵わないですわよ」

「別に戦うつもりは無い。聞きたいことがあるだけだ」

「我に問いたい事?」


 俺は真っ直ぐに不死王を見つめて頷いた。

 不死王はフムと頷くとリリスの真横に移動しソファに腰を掛け聞いてやろうという姿勢を見せた。


「実は……」


 リリスに話した事をもう一度話す。面倒だったが、アリエルの為だと言い聞かせた。


「なるほど、麻薬と言うものはよく分からぬが、マナの暴走を食い止める方法を知りたいと言うのか」

「知っているんですか?」

「教える前にまず……」


 そう言って一気に俺に近づき、手刀が俺の喉元を狙っているのがわかり、咄嗟に身を避けて修道士(モンク)の呼吸法をする。


 リリスの為に使っておいた感知(センス)予測(プレディクション)が役に立ったな。そう思いながら、身構えると不死王は音も立てない速さで更に俺に迫ってきた。



「なかなかすばしこい。そうでなくては面白くは無いな」

「不死王様、大事な兄様のご友人なんですから傷つけないでくださいませ」

「試すだけだ。殺しはせぬ」


 だが先ほど突き出した手は、明らかに鋭利な刃物のような爪が伸びており、俺の首を狙っていた。


「初撃で首を狙っておいて言う言葉か!」


 鞄から杖を取り出し、気を通して神鉄アダマンティン化させ逆手で構えた。


「あれが躱せぬようならそこまでよ」

「なるほどな、嬉しくて涙が出てくる!」


 そう言って迫る不死王の攻撃を杖で受け止め捌いていく。



「リリス! 少し館が壊れるが悪く思うなよ!」


 そう言って鞄からドングリとヒイラギの実を数個取り出してドルイド魔法を使う。

 攻撃を躱しながらそっと密かにヒイラギの実を床に置いていき、セットし終えるとドングリを投げつける。



「ハッ! 何かと思えばドングリの実……」


 次の瞬間ドングリが爆発して不死王を巻き込み吹き飛んだ。吹き飛んだ先にはヒイラギの実をセットしてあり、俺はそこにセットしておいたヒイラギの実に合言葉をかける。


「1、爆破!」


 不死王が吹き飛んだ先にあるヒイラギの実が俺に合言葉で爆発して更に追い討ちをかける。さらに爆風で吹き飛んだ先に用意したヒイラギの実を爆発させ、不死王はお手玉のように弾んだ。



「残りのおまけだ!」


 俺は手にしたドングリを投げつけ爆発させる。通常であれば十分すぎる攻撃だが、相手が相手のため手加減はしない。


「不死王様!」


 リリスも俺の戦いに驚いたのか、不死王を心配して声を上げた。



「人間にしてはなかなか上出来だ。だが……この程度ではこの不死王倒せんぞ!」



 なんだかいつの間にか戦いになっているようだ。仕方がなく次の手段を取るべく俺は身構えた。

 高速移動で動く不死王が俺に迫る。だがそれを俺はしっかりと目で捉え、不死王を上回る速度でボディブローを叩き込んだ。



「良いパンチだ。だが、呼吸を必要としない我には無駄だ」

「わかっているさ。ホラッ!」


 既に手にしていた瓶を投げつける。中は清められた水が入っていて、悪魔であれば大火傷をする。それはアンデッドも同じで、不死王にも少なからず効果はあるはずだ。


「ぬっ! これは聖水だと!」


 シュウシュウと煙を出しながら焼けただれていく。さすがにこの攻撃は不死王も苦しむ声を上げた。



「貴様か! 最近我眷族を次々と葬っている輩は!」

「それは偶然だ。悪魔を追うとどうしてもアンデッドとも対峙することが多くなる」

「ならば我も倒してみせるか?」

「倒したらお前に聞きたいことも聞けなくなるだろう!」



 それを聞き不死王の動きがピタと止まり、今度は一変して笑い始めた。

 ひとしきり笑うと俺を見つめて、手で辞めの合図らしく手を振ってソファに腰を下ろした。


「そうであったな。つい楽しくなって我を忘れてしまった」

「その割に一撃も俺に与えていなかったようだがな」

「お2人共そこまでにしてくださいませ! これ以上続けられたら私の館が壊れてしまいますわ!」


 不死王はそれを聞いてまた笑い、済まなかったとリリスに謝る。

 俺もソファに腰を下ろした。


「……それでマナの暴走を止める術だったか?」


 不死王と呼ばれた男は全くの無傷のまま俺にそう聞いてきた。





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