転生者
もうそろそろホノボノ終わりますよ〜。
キャビン魔道学院は完全寮生だ。その為衣食住の全てを約束してくれる。特Aクラスの試験を終えて食堂へ行くと、通常の新入生や先輩方でごった返しているが、それでも尚あまりあまる座席の数に驚かされる。
「はい、そこの君ー、特Aクラス希望の新入生だよね? 学食はここに並んで好きなものを好きなだけ食べていいからね。ってうわぁ! き、君が噂の氷狼を連れてる新入生だったのか」
「あ、はい。流石に食堂は不味かったですか?」
「いや、学長の許可も出ているし、氷狼の毛は抜けても溶けるそうだから構わないよ。それに……皆んな興味津々だ」
その言葉に気がついて見回すと、フェンリルを見る為に覗き込んでいる生徒達が大勢いた。
お盆を取ってバイキング形式のような学食を選んでいくと、フェンリルが体を押し付けてアピールしてくる。
「分かってるよ、お前の分もちゃんと取っていくから安心しろ」
そう言ってお盆に肉の塊も乗せていると、周りから「可愛いー」と女子生徒の黄色い声が上がった。
選び終わり、アリエルとテーブルに着くとフェンリルもプルプルしながら椅子にお座りをして、ジッと俺が運んだ学食の肉の塊をヨダレをダラダラ垂らしながら見つめている。
その姿を見た女子生徒達からまた黄色い声が上がるのだが、気にしていても仕方が無く、皿に肉をフェンリルの一口大に切り分けてやる。
「いいぞフェンリル」
言うが早いかフェンリルが肉を一切れ口にし、飲み込むように食べる。
“うまっ!”
小さく声を上げたが、周りがざわついていた為聞かれなかったようで助かった。
カチャ……
「こ、ここ、空いてますか?」
驚いたことにレグルスが俺たちの正面に座ってきた。
「君の嫌いな犬っころがいても良いなら構いませんよ」
「サハラさん、これから一緒のクラスになるかもしれないんだから、もう少し仲良くしよう?」
『あまり敵意を出すのも良くないよ』
『そんなに敵意をむき出しにしていたか?』
『嫌味たっぷりじゃない』
『分かったよ』
「ごめん、言い方悪かった。フェンリルがいても良いならどうぞ」
「……べ、別に、さっきはゴメンなさい」
何か会話をするでもなく黙々と食べていく。そんな空気に耐えられなくなったのか、レグルスが口を開いた。
「あ、あの、アリエル、さんとこいつ……サハラ、はどういう関係なんですか?」
「サハラさん? あたしの恋人よ?」
「そ、そそ、そうなん、だ」
どうやらこの転生者君はアリエルに好意があるようだった。これで先ほどの態度も頷ける。
「アリエル、俺は先に学生寮に戻るから、レグルス君と少し会話でも楽しんだらどうだ?」
「うーん、そうねぇ〜」
「そ、そうだ。それならアリエル、さんにだけ特別に面白いもの見せてあげますよ!」
アリエルが俺を見てくる。それを俺は頷いてお盆を返しに席を立った。
「それじゃ折角だから見せてもらおうかしら?」
出会いはあんなだったけど、なかなか良いやつかもしれない。初々しさを感じながら俺はフェンリルと先に寮に戻った。
“サハラ、あいつの体から嫌な匂いがした”
「嫌な匂い? どんな?」
“よく分かんない。けど、大地の精霊に聞けば分かるかも”
「なんで大地の精霊なんだ? あと一応アリエルにも気をつけるように言っておくか」
“植物か土っぽい匂いがしたからだ。
それと言っても何に気をつければいいか分からないぞ?”
「そうだけど、念には念をだ」
俺はすぐにアリエルに精神的に繋がってこの事を話しておいた。フェンリルには大地の精霊に聞いてもらうように話すと、大地の精霊は行動が遅いから2〜3日かかるかもしれないと言われる。
俺は俺の従属化によりゴッドハンドになっているアリエルの視覚を通して状況を見て見ることにした。これはアリエルの目で見ているものが俺にも見えるようになるが、あくまで視覚のみのため音や臭いまでは分からない。
ベッドに横たわり、視覚を通して状況を見て見ると目の前にレグルスの後ろ姿が見えた。そして場所はどうやら男性寮のようで、見つからないようにコソコソと移動しているのが分かる。
暫く行くとおそらくレグルスの寮部屋らしい場所に入り込んだようだ。アリエルが椅子にでも座ったようで、辺りを注意深く見回している。
目に飛び込んできたのはやはりリバーシで、レグルスが説明をしているようで、駒と照れた顔のレグルスが交互に見れ、アリエルが説明を聞いて頷いているようだ。
しばらくすると実践とでも言うのかリバーシを楽しみだし、1時間程するとアリエルは自分の寮部屋に戻っていった。
そこで俺は体を起こして何もなかった事に安堵の溜息をつく。
『アリエル、どうだった?』
『あ、サハラさん。レグルスにリバーシを教わって少しだけやってきたわ』
『うん、見ていたから分かる』
『あれ、面白いね。あたしハマりそう』
『ハマりそうって、また行くつもりなのか?』
『サハラさん妬いてる?』
『いや、妬いてるかと言われれば……妬いてるが、それ以上に危険かもしれないから余り近寄りすぎない方がいいと思うよ』
『それだけ聞ければ満足かなぁ? ふふっ』
『勝手に言ってろ。だけど本当に気をつけてくれ』
『分かった。じゃあ、あたし相部屋だから少し同室の子と仲良くなっておくね。サハラさんはいいの?』
『俺、1人だけだ……』
『そうなんだ、でもフェンリルいるからいいじゃない』
『だな。じゃあまた明日な』
『うん、じゃあね』
どうやら俺は偶然にも1人部屋になったようだ。あるいわフェンリルがいるからかもしれない。そこへドアがノックされる。
ドアを開けるとそこには学長の姿があった。
「やぁ、1人きりで寂しかったかな? なんてね」
「やっぱりキャスが指示したのか?」
「そりゃね。でもフェンリルがいるおかげで案外職権乱用ってほど難しくなかったよ」
「そっか、助かるよ」
“サハラ、褒めろ褒めろ”
「別に何もしてないだろ」
“ちぇ”
「あはは、でもこうすれば僕も話に来やすいからね。毎回学長室だと色々面倒だし」
「なるほどね」
そこで真面目な顔になったキャスが、レグルスについて話してくる。
「やっと誰が天才児かこれで分かったね。本当は自分で調べたかったんだけど、学長として入り込むの結構大変でねぇ。何とか入り込んだはいいけど、今度は魔道学院の知識や学長の知識を覚えるので時間がかかっちゃった」
「1年じゃまぁ仕方がないさ」
「それで、明日から調査をしたいと思うんだけど、学長にして特Aクラスの教師である以上僕も自由があまりない。そこでアラスカに頼んで調べてもらう事にしたよ」
「肉体トレーニングの方はいいのか?」
「だから空いてる時間だけになっちゃうんだ。でも7つ星の騎士であるアラスカなら、調査だと言われれば国王であっても拒否できないから、すぐに調べは着くと思うよ」
「7つ星の騎士ってスゲェな」
「そりゃ世界の平和を守っている集団が調査に来て隠し事してたら……」
チョーンと首を手で切る動作をする。運命と言うものがあるのであれば、俺とアラスカの出会いは必然だったのだろう。
それにしても……今更だがエルフの姿になっているキャスは声と動作が全くと言っていいほど釣り合ってなく、違和感しか感じなかった。
前書きでも書きましたが、もうそろそろホノボノしたような話が終わっていきます。
ええっという展開になると思いますよ。