霊峰竜角山の金竜
竜角山の入り口は100年近く経った今も変わらない人気の場所だ。当然昼夜無関係で入り口には冒険者が多く集まっている。
フェンリルは目立つため今はピアスにいて貰い、俺は学院制服のローブから黒のフード付きローブに変え、フードを深く被り足早に竜角山の入り口に入り込んだ。
通常通りに登頂を目指せば当然明日の朝に戻るなんてありえない。
「常人なら、な」
100年近く前とはいえ、マルス、セッター、レイチェル、セーラム、そしてエラウェラリエルと共に1年近く挑戦した場所だ。忘れるはずもなかった。その頃の俺はまだ修道士でもなければ、ドルイド魔法もなかった。
視界範囲に映る距離で縮地法と高速移動を使っていき、忘れることのない竜角山内部を瞬きするような速度で移動していく。他の冒険者の目にも留まらぬ速さで、デプス46まで辿り着く。デプス46、つまり46日はかかるとされる場所に俺はものの1時間足らずで辿り着いたことになる。
そしてここデプス46にはおそらく今もあいつがいるんだろう。ゴールドドラゴンの番人のような存在のアイボールが。
「いるんだろうアイボ。俺だ、サハラだ」
「ビホッ! その声は覚えているビホッ! オル様を連れ去った1人だビホッ!
ここであったが100年目、怨み晴らさでおくべきかビホー!」
確かに100年近くは経ってるな。
ゴールドドラゴンは居ないのかと見回し声を上げるが、返事はなかった。アイボールはそれを良いことに俺を殺そうとしているのだろう。
「少し痛い目にあってもらうことになるぞ」
「図になるなビホッ!」
アイボールが主眼を閉じて複眼からビームが飛ばされる。種類は様々で石化から即死までの効果を発揮するこのビームは、冒険者にとって非常に脅威となるものだ。
俺に向かってそのビームが放たれたが、縮地法で到達する前に既に移動している。
「こっちは急いでいるんだ。ふざけた事をすると本気で怒るぞ!」
突如真横に移動した俺にアイボールが驚く。
「いづの間にビホー!」
主眼を見開き驚いた顔を見せつつも、勢いよく噛みつきに来るがその噛みつきも空を切り、俺は既にその横に移動している。
「次がラストだ。次に攻撃するなら俺も容赦しないぞ」
だがアイボールがそんな忠告を聞き入れるわけはなく、仕方なく俺は神鉄アダマンティン化させた拳を叩きつけた。
おぎょぎょぎょぎょぎょぎょええぇぇえ!
すさましくキモい悲鳴とともに昏倒し、アイボールは目を見開き口から舌をだらんとさせたまま動かなくなる。昏倒したのを確認した後頂上へと向かった。
頂上に辿り着いた俺は辺りを見回しゴールドドラゴンの姿を探すが姿が見当たらず、そこで少し待ってみることにした。
1時間程するとゴールドドラゴンが飛び戻り、俺を見つけて着地すると早速声をかけてきた。
「これは随分と懐かしいですね。オルは、私の子は無事ですか?」
「そりゃあもう、セーラムの尻を追っかけまわしてましたよ」
「あら……あの可愛いオルが随分と変わりましたね。
それで今日ここまでたった1人で来た理由が、あるのですね」
俺は頷いて答え、転移転生に関わる話以外で麻薬に関わる話を全てし、何か治す手段がないかをゴールドドラゴンに相談を持ちかけてみた。
「マナの結晶化……ですか」
“マナの暴走だ。金竜”
「お前は……氷狼の精霊、ですか。一体どうしてサハラと……いえ、それよりもマナの暴走と言いましたね。なるほど……」
マナの暴走と聞いてゴールドドラゴンがすぐに理解した様に頷いた。
「精霊と契約しているのであれば、無くはありませんが……氷狼の精霊は言ってない様ですね」
“俺もその手段は気がついたが言っていない”
2人だけで勝手にアリエルを救えるかもしれない手段の話をしている。フェンリルも知っていて言わなかったという事は、おそらくまともな手段ではなさそうだ。だがそれでも藁をも掴む思いで俺は一応聞いて確認する。
“転生だ”
「確かにその方法なら助かるとは思いますが……」
転生とは、その通り転生させてしまうドルイド魔法だ。元の肉体を捨てて復活するのはいいのだが、何に生まれ変わるかまでは選べない。人間、エルフ、ドワーフはもちろんの事、知性のある人型生物になら何にでも生まれ変わる可能性がある為、極めて危険極まりない手段だ。しかも青年期になるまでの間は記憶が失われている。
そして転生の上位に当たる能力を有していたのが、レフィクルだった。ただしそれでも自分を殺した相手のみという条件はあるが、転生とは違い肉体の強奪は瞬時に行われる。
それ以外の方法はゴールドドラゴンも知らない様だった。
帰り際にアイボールの事を思い出し謝罪しておき、勢いよく山頂から飛び降りた。ゴールドドラゴンが驚いた様に何か叫んだ様に思ったが、俺の姿は既に縮地法で地上に向かって移動していた。
人気のない場所に降り立ち宿へ向かう。
アリエルをまともに救う方法が見つからなかった事で、まだ2時間程度しか経っていなかった事に気がつかないまま、俺はフェンリルを連れて宿に戻った。
「ただいまアリエ……」
俺が見つめる先にアリエルが居るのは当然として、エアロにアルナイル、ミラ、ベネトナシュが俺を見つめている事に気がつき、出かける前の事を思い出した。
「「「「きゃーーーーー」」」」
一斉に悲鳴があがり体を手で隠したり、温泉に飛び込んだりし始めたところで、俺も慌てて背を向けて謝罪する。
「ごめん、戻るの早すぎたか?」
「とかなんとか言っちゃって、あなたタイミング見計らって来たんじゃないのぉ?」
「アリエル誤解だ。すぐ行くからみんなゴメン」
焦りながら謝って出ようとすると、エアロ王女がとんでもない事を言い出した。
「嫁入り前の肌を見られたんですから、責任もってサハラ様も一緒に入って貰いますよ」
「なんでそうなるんですかっ!……あ」
思わず振り返って叫んでしまいーー
「「「きゃーーーーー」」」
慌てて顔を背けた。
こんな状況だと言うのにアリエルはケラケラ笑って見ている。つまり、からかわれているだけか。
「アリエル、俺もう一度出かけてくるよ。
……それまでに出ていてくれ……あ」
「「「「きゃーーーーー」」」」
「あなたわざとやってるでしょ〜」
ケラケラ笑うアリエル達に呆れながら俺は夜の町に出て行った。




