新婚旅行
パーティーも終わり寮部屋に戻った俺とアリエルがイチャつきだしたところでドアがノックされ、アリエルが扉を開けるとキャスとアラスカが部屋に入ってきた。
「お邪魔してゴメンねぇ」
「……失礼します」
いや、本当にその通りです!
2人が来た理由は当然結婚した俺達を祝福しに来たのだが、それともう1つ学院からのお祝いと称した特別な配慮だった。
「ーーという訳で明日からの旅行は2人には特別に新婚旅行として宿屋はスイートルームを用意したからね」
「わぁ、ありがとうございます!」
まだ何か話そうとするキャスをアラスカがコホンコホンとわざとらしい咳払いを繰り返す。
「キャス様、いつまで居座る気ですか?」
「ーーあ」
そう言って半ば手を引っ張るように部屋を出て行こうとし、出て行きざまにアラスカがおめでとうございますと一言言って扉は閉められた。
「サハ……あなた、初夜よ。初夜」
「明日は早いから控えめにな?」
「んふふふふふぅぅ」
一運動し終え、俺に張り付いて余韻を楽しんでいるアリエルに俺が気になることを聞いてみる。
「なぁ、身体の調子は大丈夫なのか?」
「んー、マナが減ってって事よね? 別に何ともない……かなぁ?」
「そうか、なら良かったよ」
俺の腕枕で眠るアリエルを見つめ俺は心に誓う。必ずレグルスには後悔させてやると……
翌朝、アリエルのキスで起こされ着替えを済ませ訓練場に集まる。
ニヤつくクラスの連中を無視して俺はアリエルを片時も離さなかった。
「なんだかサハラさんの方がアリエルさんにゾッコンって感じですね」
「あー、アルナイルもそう思う?」
「ありゃあ昨晩間違いなく骨抜きにされたな」
「……毎晩ですよ、それは……」
一斉にビクターを見る。ビクターはわざとらしくクンクンとさせ、鼻がいいのも困りものですと呟いていた。
学長の挨拶が簡単にあり、現地に到着したらの注意事項を話し始める。
基本的に自由行動ではあるが、注意してきたのは霊峰竜角山へ行く事だった。こちらは各クラスごとに希望する人のみ護衛をつけて行くから、勝手に単独では行かないようにというものだった。
「僕は、僕は絶対に行きますよぉ!」
「特Aクラスは全員行くんじゃない?」
「キャ〜、サハラ様守ってくださいね!」
「おー! 俺も俺も!」
「安心したまえ! 諸君らの命は私が必ず守る」
アラスカがエアロ王女とモリスを睨みつけるように言うと、2人は苦笑いを浮かべながら俺達から距離を置いた。
「しゅっぱーーつ!」
そんな声が聞こえ、次々と学長の出した魔導門を生徒達がくぐって行く。
一瞬で辿り着いた霊峰の町だが、正直これが旅行かとは思ったが、思えば魔導門の魔法は教えられていない為、扱える者も実際少ない事を思い出した。
町に辿り着くなり宿泊する宿屋へ向かい、各部屋に割り当てられて行く。
「はい、新婚さん。ここの宿屋の離れだよ」
「ありがとうございます学長」
2人寄り添いながら離れに向かうと、一軒の建物が見えてきた。日本庭園を思わせるような作りの綺麗な庭には露天風呂まである。
アリエルが俺から離れ早速この離れを散策し始めた。
「わぁ! あなた見て見て! 室内にもお風呂があるわ。あ、ベッドも大きくてフッカフカ」
喜ぶアリエルを見て俺は学院生活が終わったら、アリエルと2人でこうして少し旅行でもしようと思った。
「思えばこんなにゆっくりする事なかったもんなぁ」
“サハラ”
小声で俺に話しかけてくる。
「どうしたフェンリル?」
“俺はどうしたらいい?”
「うん?」
“お前の気持ちが分からないほど馬鹿じゃない。しばらくは黙っている方がいいのか、いつも通りの方がいいのか、それを決めてくれ”
それを聞いて俺はフェンリルにまで気を使わせていた事に今更気がついた。思えばマナ結晶以来フェンリルはあまり喋りかけてこなくなっている。俺はどうするか考えたが、最後のその日まで何事もないままの方がいいと思い、フェンリルにもそのように伝えた。
“わかった”
言うが早いかフェンリルが勢いよく庭に飛び出し駆け回っている。犬かよ!
はしゃぐアリエルとフェンリルを眺めながら考える。
マナの暴走……俺にはまだ何か聞き出せるかもしれない相手がいる。神が知らなくとも不死者と竜族がいる。神といえど人の神、人知を超えた存在であれば何かわかるかもしれない。
そこへアルナイルやミラが呼びに来るフリをして離れを覗きに来た。
「わぁ〜すご〜い。個人温泉の露天風呂に室内風呂って半端じゃないですね」
「うんこれを独占は羨ましいね」
「なんなら使うか?」
「「いいの!?」」
そんなわけでアルナイル、ミラ、ベネトナシュ、エアロで後で準備ができたら来る事になるのだが……
「えっと、その間サハラさんは……」
「俺はその間出かけているから安心して使って貰っていいよ」
「あたしは別に一緒でも良いけどね?」
「ははっ、間に合ったらお願いするよ」
「あなた、何処か行くの?」
「町をぶらついてくるよ。それとも一緒にいた方が良かったか?」
アリエルからはそうだねぇと言う声が上がったが、ミラとアルナイルからはサハラさんなら良いかもと嬉しいヒソヒソ声が聞こえた。
『明日までには戻る』
『え?』
『ゴールドドラゴンの処へ行ってくる。俺は少しでも可能性があればお前を助けたい』
『……うん、ありがとう。
でも、気をつけて』
俺はフェンリルを連れて竜角山に向かった。




