殴る
今年は明日2話更新します。
あの日から数ヶ月が経ち、ど定番となる海イベント……ではなく温泉旅行が始まる。
場所はメビウス連邦共和国の霊峰の町だ。ここは霊峰竜角山で有名な観光場所であり、登頂を目指す冒険者も多数集まる。
この霊峰のお陰でこの町は豊かな温泉が湧き上がり、観光と冒険で人気がある。
そしてキャビン魔道学院は年に一度、此処へ旅行と決まっていた。
「……というわけで、明後日から待望の温泉旅行だよ。町には他の観光客や冒険者でごった返しになっているから、迷子になったり調子に乗って霊峰に行かないようにねー」
そしていつも通り緩い学長の挨拶が全学院生に行われる。続いて各属性先生から一言づつルールなんかを説明していった。
最後の締めは鬼教官と呼ばれるようになったアラスカだ。
「諸君! 明後日から旅行と言えど先ほど各属性の先生方が言ったことを肝に命じておくように! 解散!」
「アラスカ先生、勝手に解散しないでくださいよ」
「ハッ! 大変失礼いたしました! 解散は取り消しだ! そのまま待機!」
相変わらずのアラスカだった。
その後は各クラスごとで説明があると結局解散となり学院生達は各自教室に戻っていった。
教室に戻るとドゥーぺやアリオト、モリス、ミラ、エアロ王女、ベネトナシュ達はキャイキャイと異常な盛り上がりを見せている。
「サハラ〜、お前らはやっぱ行ったことあるんだろ?」
「ええ、あそこの温泉はやっぱり最高ですからね」
「ビクターはどうなんだ?」
「私も一度だけ。霊峰に挑戦で行ったことがありますね」
訪ねてきているデノンは全く楽しみにしているようには見えず、むしろ嘆いているようだった。
「どうしたんですかデノンさんさっきから」
「聞いて、聞いてくれるか? いいか、言うぞ!」
「あー、あたしわかっちゃった。デノンさん霊峰の町の出身なんでしょ?」
ワナワナとデノンが震え、そして事もあろうかアリエルに抱きつきやがった。
「きぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「人の女に何してんだ、この変態野郎があぁぁぁぁぁ!」
思わずレグルスと重なり、加減なしにデノンを殴ってしまった。
ドカンドコンごろごろごろごろ……
バコーーン!!
クラスのあちこちから悲鳴が上がった。それもそのはず、俺のパンチでデノンは教室の1番前の席から1番後ろまで吹き飛んだ。
「ちょっとサハラさん! 今のはヤバいって!!」
アリエルが飛ぶような速度でデノンの元に行き回復の魔法をかけた。
「とりあえずこれで大丈夫っと……」
アリエルがふぅと額の汗を拭っている。俺は固まっていた。いくら咄嗟だったとはいえ本気で殴るなんて……
アリエルが気を失っているデノンをアリオトに任せ、俺の元に戻ると俺を抱きしめてくる。
「大丈夫! サハラさん、あたしここにいるから! もう大丈夫なの!!」
ガクガク震える俺をアリエルがそう言ってなだめてくる。
「い、今のは……」
「サハラ先輩ぱねー!」
「何という、力ですか……」
「凄い……」
「……サハラ、様」
「……ドルイドの力?」
「サハラさんかっこよすぎだぜ」
それぞれの声が聞こえる。
「アリエルごめん……やっちまった……ごめん」
「いいの、いいから。大丈夫だよサハラさん」
デノンが目を覚まし体を起こし、そして俺の方に近寄ってくる。
終わったな……
「サハラ……オメー……
お前ちょー強えんだな!」
「は?」
「え?」
「いやー悪ぃ悪ぃ。旅行先が故郷だったもんでショックだったんだ」
「そうじゃなくて今死にかけた……」
「ああ、一瞬だけなんか【死の神ルクリム】を見た気がするな」
たぶんそれは間違いないだろう。きっと今頃お怒りだ。
それより……
辺りを見回すとクラスの全員が俺を見ている。その目は恐怖に慄い……てない?
「しっかしサハラ、お前アリエルが関わるとすげー力発揮すんだな。
次からは気をつけなきゃ本当に死にかねねぇな」
そう言ってデノンは大笑いする。エアロ王女以外は全員笑っていた。
そこへ教室に慌てた様子で学長がやって来た。
「サハラ! 今すぐ来て!」
以前から告知していました、もう一つの読み切りの話ですが、まだ書き終えていないのですが、文字数が非常に多すぎる可能性があります。
活動報告の方から質問させていただきますので、お答えいただけると助かります。




