特Aクラスの試験
連れてこられた場所は馬鹿でかい訓練場だ。昔一度だけ俺はここに来たことがある。
「全員ついてきているね。じゃあ特Aクラスの試験をするよ。特Aクラスの条件は初級魔法を使えることと、基礎体力試験だからね」
学長の試験内容に驚いた何人かの歳若い生徒が、口々に基礎体力と騒ぎ出す。
冒険経験のありそうな青年達は気にしている様子はなかった。
「学長、基礎体力は何故必要なんですか?」
1人の生徒が質問をしてきた。
「特Aクラスは即戦力の育成みたいなもんだからね。将来冒険者とかこの国の兵士になる事を前提で行うから、体力もあるか見なきゃダメなんだ」
納得がいったのかその生徒は大人しく頷く。
早速初級魔法を扱えるかのテストが行われ、順番に行われていく。
最初は1番年上の俺で、念の為記憶してあった盾の魔法を使う。
「サハラ君は魔法試験は合格です」
次々と年齢順に行われ、アリエルも教えておいた詠唱を唱えるふりをして俺と同じ盾の魔法を使った。
そして次に歳若い少年少女達の番になり、9名が順番に魔法を使って見せていく。特Aクラスを希望するだけあってか、全員初級魔法を簡単に使いこなしていた。
そして最後にレグルスの番となり詠唱を唱え始めると、キャスが危ない! と声を上げる。
「我が眼前の敵を爆せよ!火球!」
馬鹿なガキが調子に乗って俺たち生徒の側で火球を使った。
「レグルス君! 火球なんて危ないじゃないか! 誰が初級魔法以上って言ったんだ!」
「すいません学長、だけど凄いでしょう? 俺は幼い頃から1人で勉強してここまで使える様になったんですよ!」
「仲間や味方に危機感持たせる様じゃ使えないも同然だよ!」
「良いんですよ、仲間なんていなくたって、魔法があれば、使いこなせば最強でしょう?」
これには俺もアリエルも呆れてしまう。
「魔法が万能だと思ってるみたいだけど……分かったレグルス君、アラスカに何か攻撃魔法を使ってごらん」
「怪我したり、最悪死んでも俺のせいじゃないですよ?」
「問題ない!」
学長が答えるよりも先にアラスカが剣を引き抜き答える。
「じゃあ手加減しますから安心して下さい。行きますよ!
魔法の矢よ敵を打て!魔法矢!」
レグルスが魔法矢を唱えると3本の光り輝く矢がアラスカ目掛けて飛んでいく。
アラスカの持つ剣が白光し、騎士魔法の聖剣を使ったのがわかる。
パシュパシュパシュッ! と音をさせながらアラスカは魔法矢を弾き飛ばした。
「何だよそれ! まるでジェダイ……」
そこまで言って、はっと口を押さえた。それを俺と学長は聞き逃さず、お互い頷きあう。レグルス、彼こそ8歳にして天才児と呼ばれている、間違いなく転生者だ。
「見ての通り、7つ星の騎士にかかれば範囲の攻撃魔法でもない限り弾かれちゃう。しかも英雄セッターは魔法を使った相手に跳ね返したらしいからね」
ほえーっといった感じで全員がアラスカに注目する。アラスカは何食わぬ顔で剣を鞘に収めると何事もなかったかの様に立っている。
「じゃあ次はアラスカにお願いして体力テストするからね。アラスカよろしくねー」
「ハッ! それではこれより諸君にはランニングをしてもらう。諸君はただ私についてきながら、私の言う事を復唱するだけで良い」
ランニングと聞いて安心したのかあちこちからため息が漏れる。
7つ星の騎士にもミリタリーケイデンスがあるのか!
アラスカが先頭で2列縦隊になって走り始めた。
「我らは7つ星の騎士ー」
「「「我らは7つ星の騎士ー」」」
「世界の平和を守るためー」
「「「世界の平和を守るためー」」」
「7つの美徳を守るのだー」
「「「7つの美徳を守るのだー」」」
「節制!」
「「「節制!」」」
「純潔!」
「「「純潔!」」」
「救恤!」
「「「救恤!」」」
「慈悲!」
「「「慈悲!」」」
「勤勉!」
「「「勤勉!」」」
「忍耐!」
「「「忍耐!」」」
「謙譲!」
「「「謙譲!」」」
決して早すぎない早さなのだが、これを延々と1時間近くやらされる。アリエル、冒険経験している3人は汗を滲ませてはいるが平然とついてきている。残る幼い9名は徐々についてくるので精一杯になってきているのが見れた。
俺?俺は……フェンリルとスキップ気分だよ?
『さ、サハラ、さん、余裕、そう、だね』
『まあな、修道士には高速移動があるぐらいだから、スキップ気分かな?』
立ち止まる生徒こそいないが、そろそろ限界が近そうな生徒は見られる。そこへアラスカの「ラスト! 学長の所まで直線でダッシュ!」の声が掛かり、それを聞いて後方からヒィと声が上がる。
ラストのダッシュは訓練場を直線に走り抜けて、学長の所まで戻るというものだが……幼い9名は走ってるんだか、歩いているんだか分からない程ヨタヨタで、アリエルや冒険経験している3人も走ってはいるが、小走りしている程度だ。
そして先行くアラスカは猛ダッシュをする中、俺とフェンリルが並走して走る。
「さすがサハラ様です! この程度では余裕でしたか!」
「申し訳ないけど、余裕というよりむしろ遅いぐらいですね」
「なら! 学長の所まで勝負です!」
「まぁ、いいですよ……」
アラスカが速度を上げる。あれだけ走り続けてなおこの速度はすごいものだと思う。だが、高速移動が出来る俺からすれば歩いているも同然だった。
一気に駆け抜け学長の元まで辿り着き、少し遅れてフェンリルも到着する。
“サハラ早すぎ”
「一応速度は落としたつもりだけどな」
「早すぎだよサハラ。それ魔法の加速使っても全く追いつかないからね」
「やり過ぎたか……」
「それはそうと……」
「レグルスか。しかしあのフレーズは懐かしいな。もう100年近くぶりに聞いたよ」
「僕はもっと昔になるけどねー」
しばらくすると完全に息を切らせたアラスカが戻ってくると、ノンビリ学長と話している俺を見て愕然としていた。
「私もまだまだ修行が足りませんね」
いや、十分だろ。
“ウシャシャシャシャ”
内情を知るフェンリルが笑い出す。
「み! 見ましたよね! 今、笑いましたよね!?」
「気のせいじゃないですか?」
「うん、気のせいだと思うよ」
そのまた暫く経つとアリエル達、冒険経験している3人も戻ってきて地べたにへたり込み、かなり経って日が暮れ始めた頃、9名の幼い生徒達全員が戻ってぶっ倒れるとそこでテスト終了となった。
「結果は明日するね。一応特Aクラスの教師はこの僕が担当するのでよろしくねー。それじゃあ解散していいよー」
無慈悲にへたり切った生徒を放って学長は戻っていった。その後をアラスカもついていく。
「俺達も戻るか。アリエル、学食あるから行こう」
「う、うん。サハラさん全然平気そうだね」
「ん、まあな」
へばった他の生徒を後目に俺とアリエルは学食のある大食堂に向かった。少し離れた所まで来るとフェンリルが“たっくさん肉を喰らうぞー”と歌い出した為、頭を殴っておいたのは言うまでもない。
“あ痛ー!”