長い1日の終わりに
空気を全く読まない馬鹿な狼が、さっくりとアラスカに憤怒について問いただしてきた。
顔を赤くさせてうつむいていたアラスカがフェンリルに向けて顔をあげる。
「憤怒の力とはバーバリアンのもつ血脈の事ですね。
実は私自身、こんな無様に自分を見失うなど初めてなんです」
アラスカはそう言ってうつむく。
「母親が実はエルフの蛮族だったとかはないよな?」
俺がそう聞くと俺の方を一瞬だけ見てすぐに顔をそらした。
「父から聞いた限りではそんな事はないはずです……」
「ねぇ、アラスカさんさっきからなんでサハラさんを見ないのかなぁ?」
今そんなことどうでもいいだろ!
アラスカが黙ったまま口をモゴモゴさせている。それを見てアリエルが小悪魔な笑みを浮かべる。
「アラスカさんさ、サハラさんの事好きでしょ?」
ボッと音が出そうなぐらい顔を赤くさせたアラスカがワタワタと手を振って否定する。
「わ、私如きがマスターを好きになるなんて恐れ多いことで、押し倒されてキスされたから舞い上がってしまったなんてありえないことです!」
「そうなんだ、なるほどね〜」
ハッとアラスカが自分で言ったことに今度は慌てて否定し始めた。
「アラスカさんエルフだから、チャンスあるかもよぉ〜? だってサハラさんってば、エルフの事大好きだからね〜」
「それは本当ですか!? あ、いえ、ですがそれはマスターがエルフの事が好きなのであって、私のことではなく、それにアリエルさんがいるではないですか!」
一体なんの話になってるんだよ。
「それがねぇ、サハラさんってばあたし以外にもぉ……」
首元を指差しながら続ける。
「いるんだよねぇ。しかもモテるし。正直あたしもヒヤヒヤしてるんだから……うえ〜ん」
う、うえ〜んって……
「そ、そうですか! 私にもチャンスが……」
そしてアラスカはアラスカで握りこぶしを作って、なにやら勝手にウンウン頷いている。
な、なんだこれは……まさか、これが噂に聞くモテ期という奴なのか!? もしそうであるならば、この世に生まれ出て……えーと、100年以上経ったか? 初めてのことだ。
いや、ルースミアやカイ、レイチェルの時もあるから2度目なのかもしれない。しかしあの頃はそんな事を考える余裕もなかったな。
“なんか話が随分とズレてないか?”
フェンリルがいい加減恋話に飽き飽きした様子で話を戻そうとしてきた。
結局原因は不明で、どこまでアラスカが記憶に残っているか聞いてみる。
「確か……初撃で一本取られそうになった後、数回振ったあたりからだと思います」
「やっぱりその辺か」
「本当にすみませんでした」
憤怒の力が発揮されたのは、今回が初めてだとすると対処のしようもなく、今後とりあえずはアラスカとは稽古をしないことにしようということで決まった。
決まったところでアラスカが後一つ聞きたい事があるのですがと尋ねてくる。
「ところでマスター、先ほどアリエルさんが指差したあたりが赤くなっていますが、私の振った木剣が当たったりしたんでしょうか?」
「は?」
「え?」
それを聞いて俺とアリエルが聞き返す。するといえですからともう一度聞いてきた。
「えーと、アラスカさんってキスマークって知らないの?」
「キスマーク……何ですかそれは?」
「「マジで!?」」
アリエルが必死に、だからこうであーでと説明し始める。アラスカはそれを顔を赤くさせながら何度も、それは本当ですか! と聞き、そして頷いていた。
何だかなぁ……ウブっぽいところまでセッターにそっくりだ。
つまり、アラスカは間違いなく……
ま、まぁそんな事はどうでもいいとして、アリエルの長い長いアダルティな話をアラスカに聞かせ終わると、ぽや〜とした状態で夢遊病者のように挨拶もしないで部屋を出て行ってしまった。
「ちょーっと刺激強すぎちゃったかな?」
「たかがキスマークの話でか?」
「エッチな方もしておいたのよ」
「うおぉぃい!」
“もう見てらんない”
こうして長い長い1日が終わり、明日にはまたひと騒動起こるのがわかっていると気が重くなってくる。
アリエルを見るとそそくさと寝ようとしていて、不思議に思い何か忘れてないか思い出す。
「アーリ、エーール……」
「クークー……」
「寝ちゃったのかぁ……そうかぁ……」
「クークー……」
俺はある秘策を実行するべく、今晩は半徹夜を覚悟するのである。
明日の朝が楽しみだ。
真夜中の更新。
とてもいいペースで下書きが進んでいますので。
コメディータッチの予定だったんですが、今下書きしているあたりから笑えなくなる話になってきてしまった……




