ヤキモチを妬かれる
「お、お前達は一体何者なんだ?」
モリスが静寂の中口を開いた。
「俺たちの事はどうでも良い。今あった事は見てない聞いてない覚えていない、いいな?」
「そ、それは……分かった。俺の命を救ってくれた恩人だ。約束は守る」
「あら? 貴方これから処刑されるのよ?」
「あ……そうだった……」
「あんまり虐めるな。
モリス、分からない事があるから答えて欲しい。君はどうして俺に喧嘩ならまだしも、決闘を申し込んだんだ?」
モリスが思い出すように考え出し、そして一言「分からない」と言う。
決闘がどういうものかはわかっていながら、申し込んだ自分が分からないそうだ。
「確かに少し気になっていた子が、お前……サハラ……さんの所にいてイラついたのはあるけど、その程度で決闘まで申し込んだ自分が分からない」
おそらく悪魔が仕向けたのだろう。そしてドッペルゲンガーの事を尋ねると、父親にそのことを話し相談すると嬉々として送られてきたそうだと言う。
俺をそれで殺せた場合、モリスは死ぬ事はないはずだ……待て。
便乗してモリスを殺して成り変われば問題なくなる。
「たぶんだが、決闘で君が勝ったとしてもドッペルゲンガーによって、君は殺されていたのかもしれないな」
「でもそれは憶測よね?」
「そうだ。ただな、勝つだけであれば学院の生徒程度ならば、マスター級の戦士1人を雇えば十分なはず、なのにドッペルゲンガーを3人も雇い、加えて邪悪なドッペルゲンガーが言うことを素直に聞いたのはあり得ない」
もしもドッペルゲンガーではなく、マスター級の戦士であれば、俺が負けてもそれで終わりで、モリスが死ぬ事はない。
悪魔が完全にモリスに控えていたところを見ると、やはり当初では決闘に勝ち、モリスに化けたドッペルゲンガーは学院に残り、モリスを連れたドッペルゲンガー2人が連れ戻る算段だったのだろう。
「でもそれがわかったところで、もう俺は処刑されるんだから関係ないよ」
「いやモリス、君はきっと死なない」
「サハラ……さん……」
それだけ言うと俺とアリエルはモリスを残して牢屋を出て行った。
牢屋の前で待っていたグランド女王は、待ってましたと言わんばかりに俺とアリエルを連れて部屋に戻ると事の成り行きを訪ねてきて、憶測ではあるけれどと前置きをして全て話した。
「そうね、サハラ様の考えであっていると私も思います。私もなぜドッペルゲンガーを寄越したのか不思議に思っていました。
それで、モリスの処刑はどうなさるおつもりですか?」
「処刑は確か唯一奇跡的な事が起こったら、神の情けとして許されるはずでしたよね?」
「そうですね」
「では急ぎ神殿に向かいます。
アリエルは待っていてくれ」
「うん……サハラさん」
「うん?」
「エラウェラリエルさんに……よ、ろ、し、く、ね」
うわ、メチャクチャ妬いてるじゃないかよ。
焦りながら頷き俺は一気に窓から縮地法で神殿目指していどうした。
神殿に辿り着き、1番奥へ行くといつの間にか俺の横にウェラが姿を見せた。
「サハラさん待ってました!」
そう言ってウェラが寄り添ってくる。アリエルとはまた違い、ウェラのこの控えめな接し方もまたなんとも言えない良さがある……
思わず抱きしめようと手を伸ばそうとすると、その横には見覚えのあるジジィがいた。
「今、なんでお前いるんだジジィとか思わなかったじゃろうな?」
「とんでもない!」
そして腰に伸ばそうとしている手をギロリと睨みつけてくる。慌てて手を戻しウェラから離れた。
そして鞄から宝石を取り出しスネイヴィルスに渡す。
「封印の魔法石に悪魔を封印しました。以前渡した物は1番よく見かける黒目の悪魔ですが、今回のは初めて見る白目の悪魔でした」
「ほぉ、他にもいるのか?」
「一度だけですが……金目がいました」
「そうか」
スネイヴィルスはそうかだけで聞いてくる事はしなかった。
「あと1つお願いがあります。決闘で負けたモリスの処刑に情けを掛けては貰えないでしょうか?」
「ダメじゃ、と言いたいところじゃが、この地は【魔法の神エラウェラリエル】の本殿のある場所じゃから、儂は関与せんよ。
後はサハラが頼むんじゃな」
それだけ言うとスネイヴィルスは消えていった。
ウェラと俺だけなり目と目が会うとウェラが顔を赤くしながら恥ずかしそうに俺を見てくる。
「ウェラ……頼めないだろうか?」
「神に頼み事をするということは……等価交換が必要なのは……知ってますよね?」
「あ、ああ」
ウェラが手を広げて俺に近づいてくる。
「えいっ!」
「イへへへへへへへへへへへーー!!」
エラウェラリエルに思い切り頬っぺた両方から引っ張られ……
「はぁーー、これで許してあげます」
「ヒェ?」
「あ、アリエルさんと……その、仲良くし過ぎなんです……」
あー、ウェラがヤキモチ妬いてるのか。嬉しいけどかなり痛ぇ。
なので無理矢理顔を近づけてウェラに口づけをする。案の定手が頬っぺたから離れて解放されると俺を抱きしめてきた。
結構長い時間キスをしていたと思う。そっと口を離し、ウェラを見つめると真っ赤な顔をしながら嬉しそうな笑顔を俺に向けてくる。
「女神様の唇を奪っちゃったな」
「責任重大ですよ」
「ゴメンな、もう少しだけ待ってくれ。今はまだマルスやセッター達が守り続けた、この世界を俺自身の手で守ってやりたいんだ」
少し悲しげだが笑顔を向け、いつまでも待っていますと言って俺を抱きしめ、そして首元に口づけをしてきた。
抱きしめあって少し経ってからウェラがそろそろですよねと言って離れる。一瞬何の事かすっかり忘れていた。
「頼めるか?」
「寵愛するサハラさんの頼みを聞かないわけにはいきませんから」
……マジで押し倒したい衝動にかられるな。
名残惜しいがまた来ると言って神殿を後にした。
あと1話でこの章が終わり、第4章になります。
本日中にもう1話、第3章を終わらせる予定です。




