フィリップ侯爵家
朝から騒がしい。それもそのはずで、今日は例のフィリップ侯爵の馬鹿息子の公開処刑の日だからだ。この日も休校となり、希望者のみの参加となった。
そして俺は王宮に今いて、フィリップ侯爵家の侍女と言う人物が馬鹿息子の財産を運んできた。
「これで全てでございます。まだモリス様は幼い故財産と呼べるほどのものはございません」
「いえ、こちらの品は親である侯爵様に渡してください。俺には必要ないものばかりですが、両親にとっては大切な物でしょうから」
暗い顔をしていた侍女が顔を上げて俺の顔を見つめてくる。
「よろしいので?」
「ええ、どうぞ……いや、ちょっと待ってください」
俺の目に一冊の本が目に止まる。分厚い表紙でシッカリした作りになっている。おそらく表紙は人皮だろう。
「その本だけ頂いてもいいですか?」
俺がそう言うと侯爵家の侍女は、本を見た瞬間目を見開く。
「どうぞ! どうぞお持ちになってください!」
淡々と作業をしていた侍女が突然取り乱し始めた。
怪しいな……
俺は侯爵家の侍女に何を慌てているのか尋ねてみると、この本は古くからフィリップ侯爵家が所有しており、侍女達の間では不吉を呼ぶ本と言われ続いている物だそうだ。その理由はよくわからないらしいのだが、侯爵家は常に33歳という短命と関わりがあるらしい。
その本だけ貰うと後は持って帰ってもらい、俺は本を開いて読んでみる。
コイツは……
部屋を飛び出しグランド女王の元に急いだ。
「サハラ様どうなさいましたか? そんなに慌てて」
「申し訳ありませんが、侯爵の子息に会わせてもらえないですか?」
「え? ええ、構いませんが……」
「出来れば2人きりで話がしたいんです」
「それは……どういった理由かはお聞かせ願いますね?」
俺はグランド女王に侯爵家の短命について話をし、そして例の本を差し出した。グランド女王ももちろん侯爵家の短命については知っていたが、その理由まではわかっていなかった。
「これは? 人皮の表紙……いったいこんなものをどこで手に入れたのですか?」
「子息の所有する財産の中にあったもので、これだけいただいたものです。
そして今回のこの堂々の発端もこれが原因でしょう」
ウィンストン公国の侯爵家フィリップ一族は、その昔に悪魔と契約を結んで、その地位を得ることに成功する。だが、その条件に33歳を迎える時に魂を頂くと言うものだった。
短命の理由はこれが原因で、この本を所有するフィリップ家の者が対象者となる為、今まではその時の侯爵が魂を抜き取られて33歳で亡くなっていっていた。
だが今回は違って、今のフィリップ侯爵は自分の息子にこの本を渡すことで免れようとしていたようだった。
「ですがそれだと33歳の契約が違われるのではないですか?」
「おそらく悪魔からすれば年齢は関係ない事なのでしょう」
「それと、処刑されるフィリップ侯爵の子息、モリスはこの本を見ていたのではないですか?」
手渡された後におそらく見ているだろう。ただ、モリス自身も33歳前にこうなるとは思ってはいなかったはずだ。
「つまり、自分自身の父親の身代わりにされたとサハラ様はおっしゃるわけですね」
「はい、ただもちろん俺の推測でしかないです。それを確かめる為に会っておきたい」
「わかりました。それでは特別に許可を出しますので、ついてきてください」
グランド女王の後についていき、牢屋へと向かう。
『アリエル! 急いで王宮に来てくれ』
『え? うん。と言うか王宮にいるけど……』
『ならちょうどいい、すぐに牢屋に向かってくれ。そこに俺とグランド女王がいる』
そして一つの牢屋の前まで来ると兵士が敬礼してくる。
「少し待ってください。もうすぐ……来ましたね」
「サハラさん一体どうしたの?」
「話は後だ。悪魔狩りの時間だ」
そういった瞬間アリエルは全てを悟ったように顔を引き締める。
「私はどうすればいいのかしらね?」
「グランド女王はここで待っていてください。
アリエル、塩だ」
「了解」
牢屋の入り口に塩を丁寧に巻き始める。そしてそれが終わると俺とアリエルが牢屋の中に入った。
「誰だ! ……貴様! 俺を嘲笑いに来たのか!」
「少し黙っていてくれないか? これは君に関わることなんだ」
「な、んだと?」
そういっている間にもアリエルは牢屋の隅に塩を時敷き詰めていく。
「終わったわ」
「よし。
フィリップ侯爵家のモリス、君に話がある」
「お前らさっきから何してんだよ!」
「いいから聞いてくれ。この本に見覚えはないか?」
本を見せるとモリスは「俺の次は父上を脅す気か」と言ってくる。それを無視して俺はモリスの父親の年齢を訪ねた。
すると案の定、既に33歳を過ぎていると言う。
そこで俺はモリスがこの本を読んだか尋ねるとやはり中身を知っていた。
「いいかモリス、君には辛い事を言うようだが、今回の君の処刑は全て父親が生き残る為にやった事だ」
「嘘だ! 出鱈目だ! そんな事、そんな事父上がするわけない!」
「そうか? ならその根拠を教えて欲しい」
「そんなの簡単だ! 父上は俺を大事に育ててくれて……」
「どうした? 続けてみろ」
「……大事に? いや違う。父上が俺と会話した事は殆どなかった。本をもらった時だけだ……なんでだ? なんで今まで気にならなかった?」
「やはりそうか。
どうやったかまでは俺にも分からない。ただ一つ言える事は、モリス、君は父親の身代わりにされたんだよ」
「そんなの、そんな事あるか! お前こそそこまで言うのなら根拠を言ってみろ!」
「良いだろう。ただし、今から見聞きする事は誰にも言うなよ」
モリスが頷くのを見て俺はアリエルに頷いてみせる。
「【自然均衡の神スネイヴィルス】の名の下に、この地この場所この空間を清浄なる地と変えん。清浄!」
アリエルが神聖魔法によりこの牢屋を一時的に神聖な地へと変える。すると3人しかいなかったはずの場所にもう1人の姿が現れた。
その悪魔は珍しい事に真っ黒な目ではなく、真っ白……白目だけの悪魔だった。
「グオオオオオオ! なぜ姿が!? 貴様何者だ!」
その姿と声を聞いてモリスが小さく悲鳴をあげた。
「やはり、か」
「お、おおお、おい! あれは一体何者なんだよ!」
「あれは悪魔だ。この本にある契約を交わした、な。
さて、これではっきりしたが、モリスどうする?」
「な、何が……」
「もし君に弟か妹が産まれればまた同じ様にされるだろうが、それでも君が死んで父親を生かしてやるか、それとも契約を破棄し、悪魔と縁を切るかだ」
「け、契約を破棄したらどうなる」
「おそらく悪魔の手助けを失った父親は、爵位に見合う働きが出来ず数年以内に爵位を失う事にはなるが、君も父親も33歳で死ぬ事はなくなる」
モリスが考え込むように頭を下げ、しばらくすると小さく何かを言う。
「聞こえないな」
「……契約を破棄する。契約を破棄する! だから、だから俺を助けてくれ!!」
俺は姿を見せた悪魔の方を向いて肩をすくめて見せる。
「そう良い事だ。契約は破棄だ、そして貴様には死極に戻ってもらうぞ!」
「破棄だと? ハハハハハハハハハハ! 悪魔と一度でも契約を交わして破棄などできない。残念だがその小僧の魂は俺様が頂く!」
言うが早いか悪魔がモリスに向かって走り出す。俺はあらかじめ用意しておいた塩をモリスにぶちまけた。
ブワッ!ぺっぺっ何しやがるという声が聞こえたが無視して悪魔を見ると、塩が邪魔をして入り込めないようだ。
「残念だったのはお前の方だな」
「くっ! くそぉぉぉ! 貴様覚えていろ! この恨みは必ず果たしてやるからな!」
そう言うと悪魔は黒い煙となって逃げ出そうとするが……
「逃がさないわよ。既にこの部屋は塩で囲って清浄化してあるわ!」
アリエルがそう言う通り、悪魔は部屋から抜け出そうとしたが何かに阻まれ進めないようでもがいている。
「ならば、貴様らを殺すまでダァあぁぁ!」
黒い煙が人型の姿に戻ると今度は襲いかかってきた。だが俺もアリエルもあらかじめ予測を使用しているため、既に悪魔は後手に回っていて軽々と攻撃を躱していく。
そして隙をついてアリエルが聖なる言葉の準備に入ろうとしたところで俺が手を出して止める。
『どうしたのサハラさん』
『これはちょうど良いサンプルになりそうだ』
『え?』
俺は鞄から宝石を取り出してアリエルに見せる。
そしてすぐにそれを握りしめると、一瞬で間合いを詰めて悪魔の脇腹目掛けて殴りつけた。
ゴファッ! と言う空気が漏れる様な声が聞こえーー
「シール!」
俺がそう叫ぶと悪魔は宝石に吸い込まれるように消えていなくなり、残ったのは俺とアリエル、そしてモリスの3人だけになり静寂が訪れた。
継続してこの先サハラが旅立つ時に同行する特Aクラスのメンバーの希望を募集します。
現状ベネトナシュ1票
あと数話でこの章も終わり、コメディ要素の強い、学院生活の話が中心となる予定で、少し長くなるかもしれません。
あと本日は一応この1話だけの予定です。




