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入学式

 学長室をコッソリ抜け出して学生寮の方へ戻り、割り当てられた自分の部屋を探す。

 フェンリルもおとなしく黙って付いてくるが、廊下で出会う他の生徒達から多少悲鳴じみた声も上がる。


 マズイなぁ、早く部屋に行かないと……っと、あった! ここだ。


 ようやく自分の割り当てられた部屋にたどり着き、滑り込むように中へ入った。

 学生寮は男女で完全に別れていて、相部屋になっているのだが……俺以外誰もいなかった。

 普段悪魔絡みの始末をしていた癖で、隠れている者がいないか騎士魔法の感知(センス)を使う。


 感知(センス)とは7種類あると言われる騎士魔法の1つで、イルカのエコーのように辺りの様子が脳裏にうかがえる。魔法で隠れている者も引っかかるため、騎士魔法が扱える7つ星の騎士に奇襲は成功しない。


「誰もいないようだな。隣からの声や物音も聞こえないから、ここならフェンリル喋ってもいいぞ」

“分かった!”

「それで、この後はどうするんだ?」

“聞いてなかったのか? 夕方までに着替えを済ませて大広間に集合だぞ”

「おお、流石は我が相棒」

“褒めろ褒めろ”


 頭を寄せてくる為撫でてやると嬉しそうな顔をする。部屋の窓から外を見ると日が暮れ始めようとしていて、慌てて用意された制服の様なローブを着て大広間を探し歩く。当然俺の横にはピッタリとフェンリルが付いてきていて、気がついた生徒達からまた悲鳴じみた声が上がったりする。



 感知(センス)のお陰でウロウロする事もなく人が大勢集まる場所を目指す事で大広間まで辿り着いた。ほとんどの生徒が10歳ぐらいの子供ばかりで、その中に俺の様な年配者もチラホラ見れた。そして俺とフェンリルが中に入ると注目を浴び、ざわつきが一層大きくなる。


 フェンリルは俺と契約を結んだ氷の最上位精霊の為、宿っている俺の耳のピアスからあまり離れる事は出来ない。内心ではピアスの中にいて貰っておけば良かったと後悔する。



「おい! お前なんで学校に犬っころなんか連れてきてんだよ!」


 不意にそんな声が聞こえ、声が聞こえた方に顔を向けると、ひときわ幼く見えるガキが指を突き出しながら睨みつけている。


「入学の際に学長自ら許可が下りたんですから別に構わないでしょう? それにコイツは犬なんかじゃなく、氷狼ですよ」


 辺りがシーンと静まり、俺とそのガキのやり取りを注目している。そんな中、年配の数名から氷狼と聞いて驚きの声が漏れる。



「狼だか氷だか知らないが、許可されたからといって何処でも連れて歩いて良いとまで言われたのか?」


 生意気なガキだが、確かに言ってることが間違っちゃいない。言いくるめられ言い訳のできなくなった俺は参ったなと頭を掻いていると、生徒達を掻き分けてアリエルが俺の元に来た。


『サハラさん後はあたしに任せて』


「そこの貴方、学長に許可を貰ったからと言って確かに何処でも連れて良いかまではわからなかったのかもしれないけど、もし後で教師に注意されたら次から連れなければ良いだけでしょう?

貴方がそこまで言う権利は無いわよ」


 アリエルがそう言うと言い返すこともせずに静かになった。


「お、おま……君の名前は?」

「あたし? アリエルよ。文句があるならいつでも言いにくると良いわ!」

「アリエル……そっかアリエルさんか」


 そんな事をブツブツ言いながらガキは静かになった。




「全員こちらを向きなさい!」


 大広間正面にいつの間にか教師達が並んでいて、その中にアラスカもどういう訳か並んで立っていた。俺と目があうと少しだけ頭を下げてくる。



「学長から挨拶です。しっかり聞く様に!」


 そう言うと学長(キャス)が壇上に上がり、挨拶をし始める。流石にこういう場だからシッカリと喋るのかと思ったのだが……



「やあ皆んな! 入学おめでとぉ!」


 普段と全く変わらないテンションだった。そして挨拶が終わると、教師の紹介に入る。

 教師は全員で8人いて、それぞれ力、防、幻、召、変、占、精、総と9系統ある魔法系統の担当教師で分かれている様だ。



 力系統はエネルギーの操作

 防系統は魔法的、物理的な障壁や無効化

 幻系統は他者の知覚や精神を欺く

 召系統は召喚や転送

 変系統は生物や物体、状況の性質を変化

 占系統は隠されたものや呪文を見破る

 精系統は行動に影響を与えたり操る

 総系統はここに含まれないものとなる

 死系統は死の力や不死なる存在を操る


 8人という事から死系統はやはり教えないか、人には知られていないのだろう。



 教師一人一人が自己紹介していき、やはり死系統はいなかった。肝心の教師の名前はいちいち覚えていられない為、系統教師で覚える事にする。


 そして最後に何故かアラスカが自己紹介をする為に前に進みでる。

 アラスカの外見は凄い美形エルフで、男子学生は鼻の下を伸ばし、女子学生からは溜息がこぼれたのだが……



「諸君! 入隊おめでとう! (わたくし)は7つ星の騎士のアラスカだ! 縁あって短い期間ではあるが、諸君らの肉体トレーニングを任されることとなった。よろしく頼む! 以上!」


 シーンと静まり返る。


 想像していた人物像との違いからなのは俺でもわかる。そしてそれ以上に間違っているのは俺達は入隊じゃなく入学だ。


 案の定他の教師にすぐに注意され、謝るという言い方より謝罪の方が似合いそうなぐらい頭を下げていた。



 キャビン魔道学院における教育は、最初の1年は全魔法系統の特色などの勉強をするそうだ。そして2年目から各自の気に入った系統の魔法を習い始める。

 ところがそうなると元々冒険者で、既にある程度魔法が使える者達は無駄に1年過ごす事になってしまう。そこで特Aクラスというのが存在する。この特Aクラスと言うのは、本来なら1年やる全魔法系統の勉強を1ヶ月だけで終わらせ、速やかに習いたい系統の魔法を勉強していくクラスだ。



「それじゃあ特Aクラスを希望する人以外は解散していいよ。特Aクラス希望者は残って貰ってテストを受けてもらうね」


 そう言うと大半の生徒達は各自の学生寮に戻っていく。残った教師も学長(キャス)とアラスカだけで、他の系統教師も退出していった。

 残った生徒はと言うと、椅子の側に大人しく伏せているフェンリルと俺とアリエル、それと冒険者経験がありそうな若者3名に、まだ冒険者ギルドに登録可能となる15歳には早すぎる幼い少年少女達が9名いて、その中の1人に先ほどフェンリルを連れていたことで喰ってかかってきたガキもいた。



「それじゃあここに残った14名には、特Aクラスでやって行けるか今からテストをするから、僕についてきてね」


 学長(キャス)が移動し始め、それに俺たちも続こうとした時だ。


「学長、コイツは犬っころ連れたままで良いんですか?」


 先ほどのガキがわめいた。

 学長(キャス)が移動をやめてガキを見つめた後、俺とフェンリルを見て俺にわざとらしく聞いてきた。


「君は確かサハラ君だったね。その氷狼は君の言うことはちゃんと効くのかな?」

「ええ、それはもう意思疎通出来んばかりに」


 フェンリルが一瞬笑いそうになる顔を見せたが、クシャミをしてごまかした様だ。


「じゃあ、問題ないね。それとコイツはやめよう?」

「学長、ふざけないでくださいよ! それだけで許可するんですか!」


 まぁそうだよな。


「それじゃあこうしよう。サハラ君、その氷狼に僕の命令を聞く様に出来る?」

「もちろんです。

フェンリル、今の分かったな?」


 フェンリルは尻尾を振って答える。


学長(キャス)どうぞ」

「うん、フェンリルおいで」


 シュタッと学長(キャス)の横に着くと、生徒達からおおっと声が上がる。


「そうだなぁ……そこに敵意のない7つ星の騎士のアラスカがいるよね?

……襲いかかれ!」


 次の瞬間フェンリルが唸り声とともにアラスカに向かって飛びかかる。当のアラスカは避けようともせずに立ったままだ。


 生徒達からはウワァっと声が上がり、目を閉じる少年少女達もいた。


 喉元目掛けて飛びついたフェンリルは……ペロンっとアラスカのほっぺたを舐めて尻尾を振る。


「う……唾液が冷たい」


 アラスカがそう言うとフェンリルが一瞬ヤベッと顔をさせて大人しくなる。



「なんで命令を聞かなかったんだよ!」

「相手に敵意がない、けど命令をされた以上従ってみたってところか、又は最初に学長(キャス)が敵意のないって言ったからですね」

「そんな犬いる訳ない!」

「君、名前は何だったっけ?」

「レグルスです学長」

「サハラ君、レグルス君に命令を聞く様にして貰えますか?」


 フェンリルを呼び戻して、レグルスと名乗ったガキの命令を聞く様に言い聞かせるふりをする。


「これで大丈夫です」

「こい! 犬っころ!」


 当然フェンリルが無視をする。


「言うことを聞かないじゃないか!」

「当たり前ですよ。ちゃんとフェンリルと名前で呼ばないからです」

「ちっ! フェンリル来い!」


 ちゃんと名前を呼ばれた以上仕方がないといった感じでフェンリルがレグルスの側まで来た。


「あいつを襲え! フェンリル!」


 事もあろうかレグルスは俺を指差して襲えと言ってきた。俺はてっきりフェンリルが先ほどのアラスカの様にしてくるのかと思ったが、そのまま無視して立ったままでいる。


「言うこと聞けよ! フェンリル、あいつを、サハラを襲え!」


 再度命令されるとフェンリルはその場で後ろ脚立ちして、レグルスの頭を前足でチョップした。

 その光景が笑えたのか、数名の生徒達が噴き出す様に笑い、レグルスは顔を真っ赤にさせながら怒鳴り散らし始めた。


「俺の命令、全く聞かないじゃないか!」

「レグルス君、いくら命令されたからといってフェンリルが主人に噛み付く様なら、僕は連れ込みを禁止したけど、今のを見てむしろ安心したよ。これだけ信頼関係が出来ているならば全く問題無しだね」


 アラスカもフェンリルを感心した様に見つめ、他の生徒達からも拍手される。ただ1人レグルスだけが納得いかない様子だった。


「これ以上は無駄に時間費やすだけだから移動開始するよ」



 学長(キャス)が歩き出し、アラスカと生徒達も後をついていった。




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