コピーの限界
現状ベネトナシュに1票
決闘の日から翌日、俺は勝手に学院の英雄になっていた……
男女問わず俺に声をかけてくる。特に女子生徒は俺に色目で見てくるようになった。
しかし大半が10歳の女子生徒に色眼鏡で見られてもな……
もちろん中には冒険者経験のありそうな20歳を過ぎた女子生徒にもいるにはいるが……
俺の右手にアリエルが、左手にはエアロ王女がくっつき、周りを特A生徒達で囲まれていればさすがに声をかけてくるだけの勇気がある子はいなかった。
「凄い人気だね〜」
「俺は何もしてないのにな」
「決闘の舞台に立った。それだけで充分勇敢な事ですからね」
「そういうもんなんですかね?」
後ろ手に手を組みながらアルナイルが「そういうものです」と笑顔で言ってきた。
「ただ残念なのはサハラ様にはもう既にアリエルさんがいて、入り込む隙がない事ですね……」
「エアロ王女様、それはちょっと違うなぁ。あたしはサハラさん一筋だけど、サハラさんが大事にしたいって人があたし以外にもいれば、あたしはそれはそれでいいと思ってるよ?」
「おいおいアリエルそれじゃあ俺が浮気性みたいじゃないか」
『エラウェラリエルさんに、たぶんレイチェルさんも、それとセーラムさんとルースミアさん? はどうなのかなぁ……?』
『ウェ……ウェラはわかるけど、他は違うぞ?』
『ふーん、あたしの勘じゃ間違いなくレイチェルさんとセーラムさんはサハラさんの事好きだと思うけどなぁ?』
『レ、レイチェルはマルスと結ばれたんだし、セーラムは家族みたいなものだ』
『じゃあそういう事にしておくね』
アリエルの鋭い指摘に俺は何とか理由をつけて言い返すしかできなかった。いや、実際2人には告白じみた事を言われた事は確かにあるが……俺は応じてはいない!
ニヤニヤしているアリエルを見て、後でお仕置きをしてやろうと俺は心に誓ったのは言うまでもない。
そして何故か考えこみ出している特Aクラスの女子達の姿が見えた。
その日の昼食を食べに食堂に行けば注目を浴び、昼休憩もいつも皆んなでのんびりしている場所は人でごった返しになり、ここまでちやほやされた経験のない俺には、ただただ居心地が悪いだけだった。
「身体が休まらない……」
“んむ”
授業が終わり、夕飯も食べ終えて寮に戻った俺は、戻るなりベッドに突っ伏すように倒れこんだ。
アリエルが俺の横に寝転がってきたが、手を出す気力もなかった。
「イチャイチャは?」
「しない」
“んむ”
今日1日だけでこれだ。学院にいる間中誰かしらに注目されているのは、まるで監視されているようだった。
アリエルの顔をを見ると少し不満げだ。昼間の仕返しも少しあるが、悲しい男のサガなのか俺の横に寝転がるアリエルに手が伸びようとしたその時、扉がノックがされアリエルが返事をして開けに行くと、アラスカが入ってきた。
「マスター? どうかなされたんですか?」
「どうもこうもないよ。一日中誰かに見られているかと思うと、余計な心配が増えて落ち着いてなんかいられないよ」
“ウンウン”
「そういう事でしたか」
「それよりどうしたんだ?」
“だ?”
体を起こそうとしたが、アラスカがそのままで構いませんと言うので、言葉に甘えてベッドにひっくり返ったまま話を聞くと、侯爵の馬鹿息子は現在キャビンの王宮の独房に入れられ、脱走されないよう厳重に見張られているそうだ。
そしてこの事がウィンストン公国の侯爵に報告が入り、今返事待ちらしい。
「最も決闘を申し込んだのは彼方ですから、言い逃れる余地はないと思います。
もしあるとすれば、侯爵が子息を大事に思うのであれば、地位返上の上、国からの追放される覚悟が必要になるでしょう」
「正直俺は処刑もお咎めも無しでいいんだけどな。そういうわけにはいかないんだもんな」
“な”
決闘とはそれだけ神聖なものなのだ。過去に決闘を数回見た事はあるが、ルールが覆される事はまずなかった。
「まだ10歳かそこらなのに……馬鹿だな。
そういや、会場に悪魔のいた気配はあったのか?」
“か?”
「私はわかりませんでした」
「あたしも決闘が短すぎて……」
「だよなぁ……」
“むぅ……”
「しかしなぜドッペルゲンガー達はマスターに変身した直後に息絶えたのですか?」
それについてはこの数十年間悪魔退治していた時に、ドッペルゲンガーとも戦った経験が既にあり、その時も同じように息絶えた。
「俺が代行者だからだよ」
“だよ”
当然首をかしげてくる。
「ドッペルゲンガーが誰にでも変身出来てその能力までコピー出来るのなら、最初から神にでもなればいい。それが出来ないのは変身には限界があるからなんだ。
そして、その強力な変身能力には欠点もあって……」
「己の限界以上の相手に変身した場合は死ぬと言う事ですね」
頷いて答えた。フェンリルも頷く。
「さすがはマスターです!」
「その言い回し、まるでセッターそっくりだ」
“だ”
そう言われてアラスカが照れた表情を見せた。
違うのは女であり、美人のエルフだって事だな。
『サハラさん鼻の下伸びてる』
『え? マジで!』
『はぁ……サハラさんのエルフ好きは、本当に筋金入りよね』
『う、うぐ、すまん……』
俺の微妙な顔を見て首を傾げてみるその表情は、この間までの人形のようなアラスカとは違い、感情のある可愛らしい仕草になっている。
「ところで……フェンリルはなぜ先ほどからマスターの語尾を真似ているのでしょう?」
“俺はサハラの友だ。疲れたサハラの気持ちを代弁して……”
ボカッ!
“あ痛ー! 何でぶつんだ!”
「さっきからちょっとイラッとしてた」
「あら、あたしはちょっと可愛いと思ったけどな」
「確かに……愛らしい……主人思いの、ペットのようですよね……」
アラスカの言葉がトドメになったようで、フェンリルがグッハーとか言いながらゴロゴロ床を転がっていた。
アラスカが部屋を出て行くのを確認すると、アリエルを抱き寄せる。何も知らずに嬉しそうな顔をしてくっついてくるアリエルを他所に、俺は先ほどの仕返しとばかりに明日足腰立たなくなる迄抱いた。
実際翌日のアリエルは腰に力が入らない姿を特Aクラスの女子達から心配され、それに対して必死に言い訳をしていたのは言うまでもない。
そして、公開処刑の日がやってくるのであった。
今回少しだけフェンリルがピックアップしてみました。
学院にいる間は出番減りますね……
引き続き、今後後半でサハラ達と一緒に冒険させたいと思う、特Aクラスメンバーの募集をします。
まだ先になるので加わるメンバーもいます。




