決闘
現状ベネトナシュに1票
決闘当日は学院は休校となった。全て侯爵の馬鹿息子の手回しで、なんとグランド女王まで見物に来ることになった。
訓練場に俺が姿を見せると侯爵の馬鹿息子がヘラヘラしながら近寄ってきた。
「逃げ出さずに来たその勇気だけは褒めてやるよ。あとはお前が公開処刑されるのを見物するだけだぜ!」
「頑張れ」
「お前がだろ!」
ペッと地面に唾を吐き去っていく。その後ろ姿を見てため息を吐く。
「サハラさん、頑張ってください!」
「サハラ! あの貴族の息子の鼻っ面をへし折ってくれな!」
あの馬鹿息子を殴るわけじゃないんだけどな。
「サハラさん、ご武運を」
「サハラ先輩! 冒険者の強さを見せつけてやってください!」
アリオト、冒険者関係ない……
「サハラさん、勝つよね?」
「サハラさん……後でフェンリルとモフモフさせて……」
ベネトナシュは本当にフェンリルだけだな……
「サハラさんが負けることはありえませんが、怪我はしないでください」
含んだ口調でアルナイルは言ってきて、そして最後にエアロ王女が声をかけてくる。
「この決闘が終わったら、私と婚姻を結んでくださいね!」
「それは無理ですね」
「す、少しは空気を読んでここはハイと言ってくれるものでは無いのですか?」
「言いませんよ!」
グチグチとエアロ王女は言っているが、本気では無いのは確かだ。おそらく俺の緊張をほぐそうとしてわざと言ったのだろう。そうだと思いたい。
アリエルはにっこり微笑んで手を振って、行ってらっしゃ〜いと軽い表情だ。
そして離れた場所からアラスカが俺に頭を下げていた。
「じゃあ行ってくるよ」
特Aクラスの皆んなに笑顔で答え、俺は今は闘技場となった訓練場に足を踏み出した。
今日の俺は学生用ローブではなく、着慣れたフード付きの黒いローブで、手にはまっすぐの棒にしか見えない杖を手にしている。
皆んなから離れるとフードで顔を隠すように引っ張り深く被る。
決闘の場、普段は訓練場だが今は円形闘技場のような姿に変わっており、特Aクラスの生徒はもちろん、他の生徒達も決闘を観戦しに来ている。そしてそれ以外の多くの観客達もいて、その中にグランド女王の姿もあった。
『アリエルこの中に悪魔がいるかもしれない。キャスと……アラスカにも伝えて警戒してくれ』
『うん、サハラさんも一応頑張ってね』
『おう』
そして侯爵の馬鹿息子の代理人が姿を見せた……しかも3人。
会場からブーイングの声が上がりだす。しかしそれも決闘のルールをもう一度声高々に説明されると黙り込んだ。
1つ、決闘を行う者は代理人を立てても良いとする。ただし獣は禁ずる。
つまり人数は書かれていない。
『サハラさん、あたしも戦う?』
『いや、いいよ。何人増えようが構いはしないさ』
『サハラさんがそう言うのなら……』
お互い近寄りその姿がはっきりする。華奢で痩せていてひょろ長い手足にのっぺりとした鼻がない顔をした人型をしている。
「ドッペルゲンガー、か……」
「ヒヒヒ……」
「キヒヒ……」
「クヒヒ……」
お互いが一定の距離まで来ると、決闘の開始の合図が出されたーー
3人の姿が変わっていく……そして3人共俺の姿になっていく。
馬鹿だな……
俺の姿になった3人が苦しみもがき始めた。そして開始早々何もする事なく3人は息絶えた。
闘技場内でも「どうした、何があった」とどよめきが上がる。
「どういう事だ!! 貴様何をした!!」
侯爵の馬鹿息子が叫び、決闘場に入り込んできた。
「どうもこうも勝手に死んだみたいですね」
「そんなわけあるか! ドッペルゲンガーがモノマネをして死んだなど聞いた事ない!」
「そう言われても困りますね。それより……これは俺の勝ちという事になるんですよね?」
侯爵の馬鹿息子が怒りに震えながら怒鳴り散らし出す。
「ふざけるな! ふざけるなっ! ふざけるなーっ! 俺の負けだと! こんなの決闘じゃないっ! 断じて認めないっ!!」
だが無情にもグランド女王により決闘の終わりの拍手が送られる。
それに伴い闘技場で観戦していた客達からも拍手が捲き起こった。
そしてグランド女王の指示により会場に魔道兵が現れ、ルールにのっとり侯爵の馬鹿息子を拘束しに向かってくる。
「貴様ら近寄るな! 俺を誰だと思っている! 俺はウィンストン公国のフィリップ侯爵の子息モリスだぞ!」
だがルールはルール、決闘は始まってしまえば身分に関わらず従わなければならない。もし従わなければ恥となり、貴族であれば爵位剥奪もあり得る事だ。そしてやっとコイツの名前を知った。
侯爵の馬鹿息子が拘束されると学長がルールを高らかに読み上げる。
「代理人を立てた場合、敗者は直ちに身柄を拘束され、然るべく日にて公開処刑とする。
これに従い、後日キャビン魔道王国広場にて公開処刑とする!」
キャスらしくない発言により決闘は終了となり、侯爵の馬鹿息子は連行されていった。
決闘の終わった俺が特Aクラスの皆んなの元に戻ると早速質問の嵐に会う事になった。
「サハラ一体お前何したんだ?」
「私が見る限り、あれはドッペルゲンガーだったように思いますが、なぜ変身した直後苦しみだしたんですか?」
「いや、俺にも訳がわかりませんよ」
「あれがドッペルゲンガーだったんだ! すげー! デノ先輩ビクター先輩さすがですね! サハラ先輩もよくわかんないけど凄いです!」
「あれがドッペルゲンガーなんだ。でも3対1ってズルいよね〜」
「貴族は……慣れてるから、卑怯な手段は……得意」
フェンリルをニコニコ撫でながらベネトナシュが言う。
「ベネトナシュって妙なところ詳しいね」
「ミラと違って……私は本が好きだったから……」
「そうなんですね。ちなみにどういった本が好きなんです?」
「はい……1番好きなのは……英雄記……」
やべぇ聞かなきゃ良かった。
「そ、そうですか」
「何にしても良かったですねサハラさん」
「あ、ああ、はい、アルナイルさん、ありがとう」
助けてくれて……
アルナイルも意味ありげな笑顔を向けてきた。
「これでとりあえず一件落着ですね! 魔道兵が後はすべてやってくれるでしょう」
ドゥーぺがまとめるように言った。




