決闘のルールとアラスカ
決闘のルールにはこう書かれていた。
1つ、決闘を行う者は代理人を立てても良いとする。ただし獣は禁ずる。
2つ、武器は自由、魔法も許可
3つ、決闘の勝敗は戦闘不能で判断とする。
4つ、勝った者は負けた者の所有物全てを得る事ができる。
5つ、代理人を立てた場合、敗者は直ちに身柄を拘束され、然るべく日にて公開処刑とする。
以上の5点だった。
「このルールだと雇った強者を読んでくる可能性がありますね」
「マジかよビクター! サハラは大丈夫なのかよ!」
「フェンリルちゃんは……獣だから大丈夫……」
「ベネトナシュはフェンリルの心配だけなの?」
「そうじゃない、けど……サハラさん……なんか余裕そう……」
「そうなんだよねぇ」
「実は歴戦の勇者かもしれませんね?」
アルナイルの言葉に一瞬ドキッとする。
「そうだ! サハラ、いいアイデアが浮かんだぞ! 確かサハラはアラスカ先生と仲がいいじゃん? 頼んで代理人をしてもらったらどうだ? 7つ星の騎士なら絶対負けないだろ」
「ちょっとデノンさん、その誤解を生むような発言はやめてください」
「そう言えばサハラさんが困った時って、結構アラスカ先生現れるよね」
アリオトが余計な一言を言ったため、話題が決闘からアラスカに変わってしまい、デノンにビクター、アリオト、ベネトナシュ、ミラで盛り上がり出す。
アルナイルは俺の事を知っているため、知り合いであっても当然だろうという感じで話を聞いているだけだった。
そしてこの今回の決闘は、その日のうちに学院の生徒全員にも知られる事になり、学食を食べに行けば、俺の顔を見るなり心配そうな顔で見られ、中には「頑張ってください! 応援してます!」とかわけのわからない応援をもらったりもする。
「決闘をあいつら一体なんだと思ってんだ?」
「彼らは祭り事の一種と勘違いしているのでしょうね。まったく呑気なものです」
「人の生き死にがかかってるのにかよ」
「彼らの大半はまだ若い。だから決闘の意味があまりよくわかってないんでしょうね。特に……この国の出身者は……」
「なるほどね、そういうことか」
デノンとビクターが話している通り、キャビン魔道王国では決闘はほとんどない。あったとしてもただの喧嘩止まりだ。
決闘は爵位がある国では見られる光景だが、中でも多いと言われているのがウィンストン公国で、次いでメビウス連邦共和国が多いと言われている。
その夜、俺とアリエルの元に学長とアラスカが部屋にやってきた。
「決闘のルールが発表されたね」
「サハラ様なら問題無いですね!」
「いや、出来れば俺の正体は明かしたく無いんですよ」
「そうでしたか。知らずとはいえ失礼をしました!」
「それよりアラスカさん、もう少し普通に話せませんか?」
「普通……ですか? 普通に話していますが」
「じゃあ、俺がアリエルやキャスに話しているようにできませんか?」
「私如きがマスター様に対等の会話は出来かねます!」
バキバキなのは腹筋だけじゃなく、頭もだったのか。だがしかし……
「わかった、アラスカ。出来ないのなら君も本来の任務に戻ってくれ」
「な、何故ですか!?」
俺に変わってアリエルが口を開いてくる。
「アラスカさん先に謝っておくわね。サハラさんは7年後にレグルスが動き出したら戦うわ」
「その前に7つ星の騎士団が見つけ出します!」
「悪いけど、7つ星の騎士団に悪魔が後ろ盾についたレグルスの相手は無理よ」
アラスカがアリエルの言葉で怒りに震えている。そしてアリエルももう一つの顔を覗かせている。
「だから先に謝っておいたのよ。アラスカさん、知っている? 悪魔は人に憑依するだけじゃ無いのよ?」
「今、なんといわれました!?」
「悪魔は憑依するだけじゃ無い、そう言ったのよ。それ以上は、今の貴女には言えないわ」
「7つ星の騎士として聞かせて頂きます! 話していただこう!」
「7つ星の騎士の名を出したとしても言えないわね。それとも……あたし達を敵と見なす、のかしら?」
この冷血に見えるアリエルの姿は俺が出会った頃によく見れた。慣れ親しんだ人以外は信用しない。それは彼女が人々から忌み嫌われるソーサラーだからだ。俺と会ってから今ではだいぶ変わったが、今でもアリエルの過去は俺にも話したことは無い。最も俺が聞かないからかもしれないが。
「何故ですか! 何故たかだか言葉使いだけで! そこまで言われなくてはならないのですか!」
「あたしはあまり話したことが無いから詳しくはないけれど、貴女の父、セッターさんも確かに丁寧な言葉使いでサハラさんに話していたわ。……けどね、今の貴女みたいに人形じゃなかった。セッターさんはしっかり自分を持っていたわ。だけど貴女は空っぽ。空っぽの貴女は悪魔達の格好の餌食にされるだけなのよ」
アリエルは間違ったことは言っていない。それぐらい悪魔は狡猾なのだ。……とは言え俺も弱いところあるけどな。
「そうだねぇ。僕も戦ったことあるからわかるけど、強いだけじゃ悪魔には勝てないよ。自分の意志の力が大切なんだ。もちろん足りないところは当然あるから助け合う仲間が必要なんだけどね。
ただ……サハラはアリエルさんがいるだけで相当補いあえてるみたいだね。さすがゴッドハンドってところなのかな?」
アラスカが崩れるように座り込んでしまう。さすがに言いすぎなんじゃ無いかとも思うが、俺に本気でついてくるというのであれば、信じ合えることは大事になってくる。特に今回の相手となるレグルスは洗脳をしてアリエルのように仲間を奪い取ろうとしたりする。
それが許せないような間柄であればやってはいけない。そういう相手だ。
とは言っても今回のレグルスの件については、俺は堪えたなぁ……少しアリエルがいて当たり前になって、軽く考えすぎていたと思う。だが、おかげで以前にも増して……大切な存在になったのは確かだ。
「それで、アラスカはどうする? 俺の俺たちの仲間になるか?」
俺はそっと手を差し伸べる。
「……すぐには言葉使いは治せないと思いますが……サハラ様……いえ、マスターとともに歩みたい、歩ませてください!」
アラスカが涙を流しながら自分の意思でついてきたいと言って、俺の手を握ってきた。俺もそれに応えるように握り返し笑顔を向けて立たせる。
「それでいいよ。セッターも今の君にそっくりだった」
「父がなぜマスターを敬愛していたのか、今少しだけわかった気がします……」
“これで俺もアラスカの前でも喋ってもいいんだよな?”
今までアラスカが居る時は黙って氷狼を演じていたフェンリルが口を開いた。フェンリルもアラスカの心の変化を感じ取ったのだろう。
「なっ! 狼が喋った!?」
「そいつは狼じゃない。俺と契約を結んだ、氷の最上位精霊だよ」
“ウシャシャシャシャ”
ボカッ!
“なんで叩くんだサハラ!”
「すまん、その笑いを聞くとついな」
“ついで叩くな! 明日は肉で倍返しだ”
「わかったわかった。
さて、これで戦力が増えたところで、先の話をしよう」
これで信頼おけるアラスカが仲間に加わった。今の彼女なら信頼しあえるだろう。
見てるかセッター、お前の娘アラスカは俺が預かるぞ。




