サバイバル特A生
早速別れたチームで相談が始まる。エアロ王女は俺がチームに取れた為かニッコニコだ。
「それではサハラ様、デノンさん、冒険者経験のあるお2人にアドバイスをお願いします」
「そうだなぁ、サハラは冒険者経験どんなもんなんだ?」
「俺? まぁそれなりにあるっちゃありますが、ほとんどアリエルと2人で、ウィザードだけという経験はないですね」
「そうですか、ではデノンさんにお聞きしましょう」
「そうだなぁ、俺もパーティに前衛がいない事無かったからちと厳しいが、まずは魔法の選択だな。俺は多少範囲攻撃魔法も扱えるから力系統主体で記憶しておく。それ以外は被らないようにしてもらうのと、野営の時、暗がりでもしっかり見渡せるように明かりの魔法は記憶した方がいいぞ。逃げた時とかにお互いの位置もわかりやすいからな」
なるほど〜とベネトナシュとミラが頷いて聞いている。
場所はこの国の外壁を出た直ぐになる為、危険は薄いがそれでも自然動物などはいるはずだ。
王女は最悪の場合は勝ち負けよりも怪我を心配し、危なくなったら国の中に飛び込むように言ってきた。
こういうところは次期女王の風格が出てるな。
その日の夜アリエルと話し合いドゥーぺはどうだったか聞いてみると、エアロ王女とは対照的に何が何でもその場を離れず守り抜く姿勢だそうだ。
その辺りは魔道兵を目指すだけあるが、アリエルとビクターに実戦でもないし、死んだらそれまでだという事、実戦であっても生きていれば次に活かせばいいと言われて何とか頷いたそうだ。
「ドゥーぺは気をつけないと仲間を殺しかねないな」
「うん、でも多分それはまだ己も知らず、外の世界も知らないから仕方が無いのかもね」
「何にせよ……俺の不安要素は王女だな」
「襲われちゃうかも?」
「そうならない事を願うさ」
俺の腕枕で眠るアリエルを見ながら、一抹の不安がよぎる。
考えすぎだよなーー
翌朝、学長に連れられ国を囲う外壁の外に出た。
「それじゃあ明日の夕方まで、ここでサバイバルして貰うからね」
そういって連れてこられた場所は本当に外壁の側だった。
「こ、これがサバイバルか? 壁越えりゃ国じゃないか」
「デノンさん、俺やデノンさんから見れば馬鹿馬鹿しいけど、2人は10歳で1人はお城育ちの王女様ですよ」
「そ、そうだな」
そう言いながらもあまりにも安全な場所のため、「昨日の俺の力説は何だったんだよ」と溜息を漏らしていた。
「この位置は国の西側ですね。この辺りは確か……」
そう言ってエアロ王女が指差す方角には巨大な墓所が見える。
「これは……ゾンビとかスケルトン……出そう……でますよね」
「は、話には聞いてたけど、だ、だだ、大丈夫よね?」
「どうなんですかサハラ様、デノンさん?」
「そうだなぁまだ時間も早いし、あそこまで行って調べた方がいいかもしれん」
「な、なにを調べるって言うのよデノさん!」
ミラはどうやらアンデッド系が苦手なようで、さっきから落ち着きがなくなっている。
まぁ普通そうだな。
「ま、リーダーである王女様次第だが、調べておけば対処もしやすくなるぜ」
「サハラ様はどうお考えですか?」
「そうですね、深読みしてしまえば学長が決めた場所ですから、そんな危険性は無いと思いますが、調べておくのは悪くないでしょうね」
エアロ王女はまたデノンに話しかけ、何を調べるのかを尋ねる。
デノンが気にしているのは墓の規模らしい。
「もし出るとしたらでかけりゃ数も多くなる。逃走経路の話し合いや落ち合う場所も決めとけばはぐれた時でも安心だ」
「でも……王女様とサハラさんとデノンさんが……いるから平気です……よね」
学長の奴が何をしでかしたくてここを選んだのかはわからない。わかるのはアリエルが今ここにいない事と、エアロ王女が俺にちょっかいをかける余裕はなさそうだという事だ。
俺は念のため鞄から杖を取り出しておいた。
「わかりました。私も魔法は使えますが、このような事は経験がないので、デノンさんの意見を尊重します。
反対の人はいますか?」
ミラが反対したそうだったが、反対の人は自分1人だろうと溜息をついているところから諦めたようだった。
墓所に近づいていく。先頭は俺とフェンリルだ……
「悪りぃ。俺ウィザードだからよ」
「私もです」
「私も……」
「……怖い」
なら調査とか言うなと思ったが、仕方ないだろう。それに墓所だからと言って必ず出るわけじゃない。
「別に構いません。それにしても……規模のでかい墓所ですね」
「確か……このお墓は……」
「ベネトナシュ知ってるの!?」
「うん……」
そう言ってベネトナシュが国を囲う外壁を指差す。
「ベネトナシュ、外壁がどうしたの?」
「……作った人達」
「あ、それってヤバい奴か? 奴隷とか言うんだろ」
「……功労者達の墓」
「功労者かよ。でも、ならなんでこんな外に作るんだ?」
昔の俺であればビビり怖がっていただろう。だが悪魔絡みの事をやっていれば、必然とコッチ方面とぶち当たる事がある。と言うよりむしろコッチの方が多い。
いざという時のために鞄に塩があるかもチェックしておく。
ちなみにこの塩が意外にもゴーストなどの実態を持たない連中に効果があった。投げつける事で追い払え、円を描けば中に入れなくもできる。
「それでデノンさん、如何なんでしょう?」
「こんだけ規模がでかいと、もし出るような墓所だったら真面目に俺ら死ぬな」
デノンが経験者として話をしている中、俺は1人で墓の状態や石板の文字を気になるものだけ調べていったのだが……
ここは何でもない普通の墓地だ。確かに壁を作った連中も含まれているんだろうが、それ以上に墓の数が多くて不思議に思った。
考えてみれば国は外壁で覆い、そのまま土葬するこの世界で、死にゆく人を埋葬する墓地を後から増やしていけば、いずれは入りきらなくなる。
アリエルの視界を使って見れば、まさに俺がやっていた事と同じような事をしている最中だった。
『アリエル、俺らは口を挟まない方が良さそうだな』
『そうみたいね。なまじ冒険者経験があるビクターさんが、今必死に一晩明かす算段を練っているわ』
『こっちもだ。デノンが頑張ってるよ』
『王女は大丈夫?』
『王女も外壁の外は初めてみたいでおとなしいもんだよ。ただ……気は抜けないけどな』
『あはは、じゃあドゥーぺ君が呼んでるから行くね』
アリエルと繋がるのを終えて直ぐに俺も呼ばれた。
王女とデノンが話し合って決めたのは、念のため墓所からは距離をとるのが良いというものだった。
安易だが、もし知らなければ間違ってもいないだろう。
俺は聞き手にまわる事にし、王女とデノンが主導となってベネトナシュとミラの意見を聞きながら、一晩明かす場所を探す事にした。




