休日最終日
中に入って騒ぎ出すかと思えば、どういう訳か静まり返っている。
どうしたんだろうとアリエルと顔を見合わせてから行くと、全員がある場所を見て固まっていた。
「さ、サハラよ。お前ってば仲が良いのは良いけど、こんなプレイまでしてやがったのか!」
何のことだと見ると……先ほどまでアリエルに見せていた俺の女体化時期の服が置かれたままになっていた。
「うおああああ! ちょ、ちょっと待った! 今かたす。かたすから見ないでくれ!」
「何でサハラさんが焦るの?」
「アルナイル、あれはサハラがな……」
「デノンさん勝手に変な想像教えこまないでください! アリエルも手伝って!」
「うん、って見られて困るようなものってあったっけ?」
「あれって……アリエルさんの下着、だよね、ほら、あれ」
そうミラが指差す先にはスッケスケの下着がある。
「うきゃあぁぁぁぁぁ!」
アリエルも慌てて下着を隠した。だがあれは俺が女体化時期に使っていたものだ……
「ドゥーぺ君なんか僕、凄いものを見ちゃった気がする」
「私は見てない! 何も見てないぞ! アリオトぉぉぉ!」
慌てて片付けひと段落する。まったくとんでもないところを見られたものだ。
「なんか、2人が羨ましいな」
「アルナイルさん急にどしたの?」
「えっと、あんな事あったっていうのに2人共元通りですよね」
「あー、僕もサハラさんとアリエルさん、絶対にダメだと思ったよ」
ボソボソとまる聞こえでアリオトとアルナイルが仲よさそうに話をしている。
ベネトナシュはフェンリルにベッタリで満足しているようだ。
皆んなそれぞれ思い思いの人に話して楽しんでいる姿を見て、昔を懐かしく思い出しながら眺める。
「サハラさん……どうしたんですか?」
不意にアルナイルに声をかけられて我にかえって「え?」と言い返すと、アルナイルにハンカチを渡された。
「あれ? 俺、あれ、どうしちゃったんだろうな、ははは」
気がつくと一筋の涙が流れていたようだ。
一瞬にして部屋が静まり返ってしまったところで、デノンが気を利かせて無理矢理話題を変えてきた。
「そういやさ、昔爺さんに聞いた話なんだけどさ、俺らが生まれるずっと前にいた英雄ってどんな人だったんだろうな」
「何それ、デノさん無理に話題変えすぎだよ。でも興味はあるよね。あたしはやっぱりセーラムだなぁ、黄金の鎧に身を包んで戦う姿はまるで女神のよう、だったんでしょ?」
「らしいな、俺はやっぱキャスだ。全ての魔法を使いこなして、敵を寄せ付けなかったらしいぞ」
一人一人が思い思いの英雄を勝手な想像で美化しているのを聞くのはなかなか楽しいものだと思いながら俺は聞いている。ちなみにセーラムは生きてるぞと内心思う。
そんな中ドゥーぺが口を開く。
「これは内緒ですが、7つ星の騎士のアラスカ先生、実は英雄セッターの娘らしいですよ」
何言ってんだよ、などと皆んながドゥーぺを指摘し始める。
「ん? 本当ですよ?」
一瞬静まり返って全員が俺を見てきた。
「またまたぁ、サハラさんまで冗談きついよ」
『ちょっとサハラさん!』
『まずった……』
「いや、俺も聞いたことあるなぁって」
「それも噂じゃーん」
危ない危ない。
「そういやアルナイルは誰かいないのか?」
「私ですか? いますけど、英雄じゃないですよ。私にとっては英雄ですけど」
「へ〜、アルナイルさん英雄じゃないんだ。ちなみに誰?」
なぜかアルナイルがここで俺を見てくる。
「私も祖父に聞かされて知ったのですけど、過去の大戦の勝敗につながったと言われる、この国を動かした【自然均衡の神スネイヴィルス】様の代行者様です。
当時祖父はこの学院の生徒で、その時見た事をよく話して聞かされました」
間違いなくそれ俺じゃん。
「うわぁ! それ聞いたことあるぅ。その代行者様の名前はアルナイル分からないの?」
「名前は一部の人以外教えられなかったそうです」
「それあたしも聞いた事がある」
そこからは冷や汗ものの会話が続き、アルナイルがその度にチラチラ俺を見てきた。
『サハラさん、あの子、アルナイルちゃん絶対にサハラさんなの分かって言ってる』
『だろうな』
『キャスさんか女王様にお願いする?』
『いや大丈夫、いちおう口封じは考えるけど、まぁ、ばれたらばれたで別に構わないさ』
そんなこんなで就寝時間前の鐘が鳴り響きだすと慌てて皆んな部屋から出て行く。
この鐘を無視して見つかった場合、退学か厳しいお仕置きが待っているそうだ。
最後にアルナイルが出て行く時にそっと俺に囁いた。
「お休みなさい、代行者様。皆さんには決して言いませんからご安心ください」
そう言うとペコっと頭を下げて走って行った。
「へぇ、しっかりしてるな」
見送った後部屋に戻るとアリエルがスッケスケの下着姿になっていた。
「おぉー! こりゃ今夜はご馳走だ!」
「わーお! あたし食べられちゃう!」
“好きにやってろ”




